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鄙島人形供養の段  作者: さわみずのあん


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四段目

 長い、長い、タイムアウトのサイン。

 よくよく。良く考えろ、ということ。

 日向さんが動く。

 タイムアウトのサインの後、右手で髪を掻き上げ、人差し指で頭をくるくる。

 右手を一瞬握って、直後に手の平を、パー。

 Vサイン。

 パー。

 そのまま、太腿をさする。

「面倒くさいなー。酔っ払いが面倒くさいのはまだ、ギリギリ、許せるけれど。素面の人がこんなにも面倒くさいのは、やだなー。タイムでもなく? まだれ、でもなく? ああ、ルートっ? 串。36。ルートとって6? 二度漬け禁止のタレを三度漬けのバカタレ。部位は、いつもの、もも。はー、普通に口で言えば良いものを。じゃあ、もも串、タレ多め多めの6本で。えっ、Vサイン。上下、上下。ライス? サイズは? うわっ、投げキッスなんてやめてくださいよ。気持ち悪い。中ですね。えっ? 喉をさすって? 喉乾いたんです? 飲み物はもう頼みましたけど。違う。喉じゃない。食道? 胃の上。以上?」

 一通りのハンドサインで、面倒サイン。

 そして、仕事の危険度サインを読み解く。

 非常に面倒で危険で、無理難題が山積み。

「あっ、山盛りポテトフライも頼みますね。今度は、お腹をさすって。胃もたれするって? 大丈夫ですよ。日向さんと違って、僕はまだ若いですし、」

 そう、僕はまだ若い。つまりは、まだ、先が長い。

 ただ、普通に生きていくだけなら、全く受ける必要のない仕事だ。

 けれど、僕は普通には生きられない。

 息苦しい。ただ生きることが。

 苦しい。

 つまりは、つまらない。

 ただ流れていくことを、良し、としない。

 僕は考える葦である。

 腿に肘を突き、頬杖をつき、考える。

 考える。

 生きるは地獄。生きるは地獄。

 死ぬことは、僕は考えない。

 地獄の門を押して叩いて、推敲して。

 迷う。選択に迷うということは。いや生きることは、迷うことだ。迷うこと、決められないことを肯定する。

「うーん、タレも捨てがたいが、塩もいいよなー。串3種盛りを塩、串6種盛りをタレで、あー、でもなー、タレだとビールじゃなくて、ハイボールがいいなー。すいません、日向さん、テーブル幅とりますけど、良いっすか?」

 日向さんは、もう、何も言わない、ただ、僕をまっすぐ見つめている。

「じゃっ、ハイボールも追加でと、あんまり、一度に頼んでも、料理冷めちゃいますもんね、後で、焼酎ロックと、野菜串でいやー、たまりませんなー。今頼んだやつ、半分くらい食べたら、釜飯も頼んどかないとですねー。あれ、時間かかりますから」

 ふーーーっと、深く息を吐く。

 短く息を吸い、ふっとまた、短く息を吐く。

「それじゃ、注文しますね」

 震える。指先。『ご注文』の赤いパネルを。

 僕はワンタップ。

『ご注文をお受けしました』

 極めて、冷たい、電子の声。

 ずずずっと、日向さんは、ジョッキの底に残ったホイップクリームを啜る。

 ジョッキをテーブルの端に寄せ、両肘をついて、祈るように手を合わせる。

 顎を親指に、鼻を人差し指の横腹に、目を瞑り、瞑り、瞑り。

 しば、精神を統一させ、ぽつり、

「福山君。それじゃあ、お仕事の話をさせてもらうね。鄙島。君が何度も、仕事で訪れたあの島だ。あの島の、


『ご注文をお持ちしました』


            まだ、喋ってる途中でしょうが!」

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