三段目
「グウッードッ、イィィヴゥニングゥ。良い知らせさー。福山ー」
「元気が良いのは便りの印ですね。日向さん」
「仕事さ、お仕事さ、大仕事さ。福山。まだ大学?」
「日向さんこそ」
「こそこそ話は良くないなー。とは、今日は言えないなー。仕事内容が、内密を要するんでなー。福山。どっち口にいる?」
「電話口です」
「減らず口だ。相変わらず。グレイトポジショニングシステムで、すぐ分かるんだぞ」
「グローバルですよ。日向さん。地球物理学科を退学して、国際交流学科に入り直した日向さん。専攻は英語じゃなかったでしたっけ?」
「先公はティーチャーで、高校はステューデントさ、グレイトティーチャー福山。第二火口の方だな。百数えて待ってろ」
「えーっと。ちょっと。百は、見当たらないですね。0個です」
「じゃあ、もも、数えてろ」
「すいません。僕、今、足を棒にして待っているんで。腿がないんです。0個です」
「お前な、良い加減にしろよ。腿数える単位は、個じゃないだろ」
「……脚ですか?」
「机上の空論を言うな。実践じゃ役に立たん」
「じゃあ、レップで」
「代表者面するな」
「ああ、すいません。レップって、そうじゃなくて。スクワット一回のことをワンレップ、って言うんで、」
「おお、悪い悪い。なんて? 火山灰のせいかな? 電波が悪くて、何? もうワン別府」
「大分違いますよ。レップです。レップ」
「リピートアフターミー。レップ」
「レップ」
「ノンノン。ウゥレップ」
「二枚舌に下を巻きますよ。ゥレップ」
「オーケーオーケー、グッボーイグッボーイ。ステイ。オーケー? ステイ」
「ワンレップ? 人を犬扱いしないでくださいよ」
「居ぬ? おお、いたいた。ったく、この時間泥棒が」
「遊びは、エンデ」
「エンデグートゥ、アレスグートゥ」
「オチもついたんで行きますか。マジックアワーに」
「ハッピーアワーの時間は短いぞ」
居酒屋『九々道々堂』に日向さんは入ると、「いつもの」と、鶏鳴、盃を告げる。
店の奥へ奥へ進む背中についていき、VIPルーム『箝告館』の席に着くや否や、待ったの少し、九頭のごと速さで、飲み物が届く。
「それでは、僭越ながら、男日向。乾杯の音頭を取らせていただきます。プロジェクトの成功を祈って、プロージット」
「トースト」
ハッピーになる、マジックな泡を僕と、日向さんは、乾かし交わす。
「っつっ、っくっ、っかっ、ッパハーっ。美味い。一仕事終えてないのに美味い。この一杯のために生きているっ」
酒の飲めない日向さんは、乾杯にオレンジジュース。ホイップクリーム乗せを飲んで。僕は、取るものも取りあえずビールを飲んで、
「人はっ、こんがり焼いたパンのみにて生きるっ」
「おい、福山、もうワンタップワンタップ」
「はいはい、オレンジジュースエクストラホイップですね。僕も、もう一杯ビールを」
タッチパネルで注文をしていると、日向さんは、水平にした右手の、中指の第二関節に、ほぼ垂直に立てた左手の、中指の指先を当てる。
タイムアウトのハンドサイン。




