修学旅行・4
シーサーの着色を始めてから30分後。
「ええっ、恭。せっかく30分もかけて可愛いのを選んだのに、そんな色を塗るの? 紫と黄色って、破壊的組み合わせ過ぎない?」
陽太の言うとおり、紫と黄色は反対色だ。お互いの色を引き立て合う効果がある反面、インパクトが強すぎる配色でもある。
「別にいいだろ、目と牙のところは白くしてるし……そんなにおかしくないよな?」
少し不安そうに問う恭に、大田原は笑顔で同意する。
「個性的でいいと思うぞ」
「大田原君、はじめて絡むけど優しいね! 俺のシーサーはどう!? 女子にウケそう!?」
陽太のシーサーは黄色とオレンジだ。陽太らしい明るい配色に、大田原は好意的な感想を述べる。
「女子ウケは分からないが、元気な色遣いでいいんじゃないか?」
「ちなみに大田原は誰にシーサーをあげるんだ?」
恭の問いに、大田原は少し照れた様子で答える。
「最初は自分用にしようと思ったんだが、せっかくだから秋津先輩にどうかと」
知らない名前に陽太は首を傾げて尋ねる。
「秋津先輩って誰? 恭は知ってる?」
「うちの姉の友だち」
「へぇ、可愛いの、その人?」
「可愛いかは知らんが、眼鏡で胸がデカい」
コイツが知りたいのはそこだろうと恭が答えると、案の定、陽太が猛然と食いつく。
「ええっ!? いいな! 巨乳眼鏡女子! 俺もその人にシーサーをあげよっかな!?」
「だ、ダメだ!」
大田原が咄嗟に止めると、陽太は「え~!? なんで!?」と頬を膨らませた。
「秋津先輩の人柄が好きであげるならいいが、眼鏡とか巨乳とか外見的な要素だけで言い寄るのは、良くないと思う……」
好きな人を護ろうとする健気な大田原に、恭がすぐに加勢する。
「そういうわけだから遠慮してやれ。お前はどうせ誰でもいいんだろ」
「ううっ、恭が冷たい! まぁ、限りなく誰でもよくはあるけど!」
気が多い分、粘着質ではない陽太は、あっさり諦めた。
ホッとした大田原は、その流れで恭に相談する。
「だが、一度海に行っただけの後輩からお土産をもらうなんて、気持ち悪いだろうか?」
「そこまで重く考えなくてもいいんじゃないか? ただ手作りシーサーだけだと微妙だから、菓子とかと一緒にしたら?」
恭の助言に、大田原は「なるほど」と納得して新たに頼む。
「じゃあ、お姉さんに秋津先輩の好みを聞いてもらえないか? ひとえに菓子と言っても好き嫌いがあるだろうし、失敗したくない」
「じゃあ、これ塗ったら聞いてみるわ」
そんな経緯で、あやめのもとに恭から質問のメッセージが来た。
相手が変な男だったら、親友の情報は絶対に教えない。しかし大田原は好青年だし、ほのかも気を許している。
彼ならいいだろうと、あやめは協力することにした。
「ほーちゃんは、もし沖縄土産をもらうなら、どんなお菓子がいい?」
「え~? 沖縄って何があるっけ?」
「ちんすこうとか紅芋タルトとかサーターアンダギーとか。後は黒糖系のお菓子が有名かな」
あやめの回答に、ほのかはニコッと返す。
「あっ、いいね、黒糖。その中なら黒糖のお菓子がいいかな」
「なるほど」
あやめは、さっそく恭に返信した。
「黒糖系の菓子がいいらしい。ただ姉によると、お前と秋津先輩くらいの関係で、いきなり箱でやると重いから、色んな人に配ってるていで、1つやるのがいいんじゃないかって」
恭からあやめのアドバイスを聞いた大田原は「おお」と感心して言う。
「危うく箱で買ってしまうところだった。お姉さんに『アドバイスありがとうございます』と伝えてくれ」
「ん。喜んでくれるといいな」
2人のやり取りを見た陽太は「うわ~ん」と羨ましがる。
「ズルいよ、恭~。大田原君にだけ~。俺の恋愛にはアシストしてくれたこと無いくせに~」
「お前はまず本気で好きな女を作れ」
恭は自分が硬派なので、陽太のように「誰でもいいから彼女が欲しい!」という姿勢は応援できないのだった。
生徒たちのシーサーがほぼ完成した頃。女子たちは交換の隙を探るべく、意を決して恭に話しかけた。
「や、八神君たちもシーサーできたんだ?」
「どんな感じ?」
彼女たちは恭の手元にあるシーサーを勝手に見ると、ややギョッとして感想を述べる。
「ず、ずいぶん個性的なシーサーだね? 可愛いのが好きなら、ピンクとか水色のほうが可愛いと思うけど」
女子たちが作ったのは、クリーム色をベースに耳や尻尾をパステルカラーで彩色した可愛らしいシーサーだった。
恭はサッと自分のシーサーを隠しながら口を開く。
「……別にいいだろ。俺がどんなシーサーを作ろうが」
「でもほら。やっぱりこういう色のシーサーのほうが可愛くない? 良かったら交換して……」
女子たちの提案を、恭は敵意の眼差しで拒む。
「……俺は好きでこれにしたんで」
「そ、そっか」
ところが女子たちの誘いをキッパリ断った後。
「……大田原。このシーサー、そんなに変か?」
「さっきの自信はどこに? 自分が気に入ってるならいいと思うが」
「お前がもらうとしたらどう? 嫌か、この色?」
珍しく弱気な恭に、大田原が答える前に、陽太がひょっと割って入る。
「まず紫がヤバいよ。紫が好きって人あんまりいないし。運気の観点から見ても、芸術性だの感性だの恭は興味無さそうなのに、なんで紫にしたの?」
陽太の言葉のナイフがグサグサと恭に刺さるのを感じた大田原は慌ててフォローする。
「あ~、さっきも言ったが俺はいいと思うぞ。それに俺も言うほど可愛くできたかは分からんし」
「いや、大田原君のシーサーは可愛いよ。白とピンクで女の子が好きそうな色遣い」
寄ってたかって、けちょんけちょんに言われた恭はボソッと言い返す。
「……俺だって見た目だけでいいなら、もっと可愛いの作れた」
「ん? なんて?」
「……別に何も」




