最終話・エイプリルフールの真相
積年の想いを打ち明けた後、2人は並んで家路を歩いていた。
隣を歩くあやめを見下ろしながら、恭は少し緊張して口を開く。
「……あのさ、去年のエイプリルフール覚えてる?」
「なんだ? 急に」
キョトンとこちらを見上げる姉から、弟はやや目を逸らして続ける。
「お前があの時、俺の嘘に気付かなかったこと、ずっと気になってたから」
「そもそもお前、嘘なんて吐いたっけ? エイプリルフールだからって、わざわざ嘘吐くタイプじゃないだろ」
不可解そうに首を傾げるあやめに、恭は僅かに声を震わせてあの日の真相に触れる。
「……吐いた。お前のこと、世界一ウザくて死ぬほど嫌いだって」
「世界一ウザくて死ぬほど嫌いが嘘って……」
弟の告白に姉は目を丸くした。
それは去年、自分に『大・大・大嫌い』という嘘を吐いた姉に対する咄嗟の思い付き。
気持ちがバレたら関係が壊れてしまうと、当時は憎まれ口のふりをしたが、本当はずっと特別に想っていたことを伝えたかった。
自分の本心を知ったら、あやめはどう思うだろう?
高まる鼓動を感じながら返事を待つ恭に、あやめは――
「わ、分からねぇ。いったいどういう意味なんだ?」
まるで世界一の難問を出されたかのように頭を抱える姉に、弟は盛大に出端を挫かれた。
「嘘つけ。絶対分かってるだろ」
キレ気味にツッコむ恭に、あやめは半笑いでしらばくれる。
「いや、分からない。お姉ちゃん、鈍感ヒロインだから。都合により急にIQが下がるんだ」
「それ、ただの分からねぇフリだろ」
恭はこんな場面でもふざけるのかと流石に腹を立てた。
しかしあやめは無闇に茶化しているわけじゃなく、
「どっちにしても大事な言葉は推測じゃなくて、ちゃんとお前の口から聞きたい」
真っすぐに恭を見つめると、
「本当はお姉ちゃんのこと、どう思ってるの?」
と柔らかく微笑んで尋ねた。
姉はどうせ自分の気持ちなどお見通しだ。
その上で、そんな珍しく女らしい顔で言葉を欲しがるなら、恥ずかしさに耐えても言うべきだと恭は思った。
恭は燃えるような体の熱に喉が渇くのを感じながら、
「……世界一可愛いし、死ぬほど好きだよ」
ずっと隠してきた本音を真っ赤な顔で告げると、
「でも、すぐからかうから嫌い!」
と、それ以上の声量で叫んだ。
けっきょく素直になれない弟に、姉は今日もあくどく笑う。
「ひひっ、心が千々に乱れてやがる。その葛藤が堪らねぇな」
「普通に愛させろや……」
怒りと羞恥心でプルプルと震える恭を、あやめはタッと追い抜くと、ニパッと八重歯を見せて振り向く。
「お姉ちゃん、甘ったるいだけの関係はやだ~。これからも甘辛ミックスなお前でいてくれ」
この腹の立つ笑顔と無茶苦茶な言動が可愛くて堪らないのだから、自分はどうかしていると恭は呆れた。
それでも姉の言うとおり、恋人になったからって大きく関係を変えるより、この騒がしくも楽しい日々がずっと続いて欲しい。
だから恭はあやめの無茶ぶりを無言で受け入れて、少し先を行く小さな背中を追いかけた。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
自分も楽しみながら書いたお話なので、結末まで見届けていただけて本当に嬉しいです。
もし二人の物語を気に入っていただけましたら、作品下部にある【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価・応援をいただけると、完結のご褒美として今後の大きな励みになります。
本編はここで一区切りとなりますが、二人のその後を描いたオマケが2話ほどあります。近日中に投稿しますので、またお付き合いいただけたら幸いです。




