第283話 萬国美食争鋒1回戦 その12
審査員たちがそう総括をする頃には、もう紅月の料理を笑う者はどこにもいなかった。
むしろ今では、誰もがあのスクリーンに映っている黄金色の炒飯に釘付けになっている。
しかし、それは私も同じだった。
紅月と佐田さんがあれほど手を尽くしていたのに、私ひとりだけが勝手に心配していた。
「――さぞ、心配だったでしょう」
私の心中を言い当てるように、佐田さんが語りかけてくる。
「申し訳ありません。東雲さんに秘密にしていたわけではなかったのですが――」
佐田さんはそう前置きをすると、どのように今回の炒飯に至ったのかを語り始めた。
「東雲さんがお察しの通り、じつは私も紅月さんも、昨日までずっと悩んでいたのです」
「そうだったんですか?」
「ええ。ビリヤニは難敵です。その香りに真正面から対応しようとすると、押し負けてしまいますし、逆に控えめにしてしまっても印象など残せないでしょう」
「なるほどのう。じゃから、あえて視覚情報を制限し、感覚を研ぎ澄まさせてから、強烈な香りで殴りつける……なかなか面白くはあるが、純粋な料理の勝負としては、どうなのじゃ?」
「フェニ子さん、今さらそれは言いっこなしですよ」
佐田さんがそう言うと、フェニ子は「ま、訊いただけじゃ」と肩を竦めた。
そうだ。今さら手段に拘ってなどいられない。
これに関しては散々議論し尽くしている。
相手が手の内を晒してくれているのなら、それを利用しない手はない。
「……しかし、そうは言っても、どうすればいいのかわかりませんでした。香りをつけるには、なにか要素を足さなければならない。要素を足してしまえば、皿の上は自然と華やいでいく」
「目的地はわかっているけど、そこへたどり着くための手段がわからないということですね」
「ええ。東雲さんの仰るとおりです。だから私たちは、とにかく手数を重視しました」
「手数……のう」
フェニ子がスクリーンを見上げながら、神妙そうにつぶやく。
「はい。失敗は成功の母。目的地がわかっているのなら、たとえ何度転んだとしても歩き続けていれば、いつかたどり着く」
「だから、直前まで……」
「じゃが、此度は制限時間がある。ゆっくり転んでなどおられんじゃろう」
フェニ子がそう言うと、佐田さんがゆっくり頷いた。
「……ですが、結果としては、やはりその失敗に救われたのです」
「どういうことじゃ?」
「あの手この手と尽くしてきた我々の前には、様々な食材の……残滓がありました」
「残りカスか」
フェニ子が真剣な顔で、佐田さんが迂回したであろう表現を使う。
「……周囲が物で散らかっていると、思考も散らばってしまう。私はそれらを片付けようとしたのですが、そこで紅月さんが――食材の端材も軽々には捨てない。むしろ普段捨てられている部位からこそ得られるものもある、と」
「得られるもの……?」
「はい。食感を損ねてしまったり、見た目が好ましくなかったりという理由で、端材をそのまま料理に使ったりはしませんが、むしろ、その端材からしか取れない要素もあります。それが、旨味の抽出です」
「旨味の……抽出……なるほど……! だったら、私が見たのは……」
「ええ。紅月さんが食材から、要素を抽出している姿です。身から、脂から、出汁から、とにかく旨味を抽出し、その中から一番印象に残り、かつ不快にならない組み合わせを探していたのです」
「組み合わせ……それで、あの炒飯が……」
「はい。あれこそが、直前まで紅月さんが悩み試行錯誤を重ねた、至高の黄金炒飯です」
『――しかし』
佐田さんがそう言い終えると同時に、声が再び会場内に響く。




