第282話 萬国美食争鋒1回戦 その11
『葱、生姜などの香味野菜、海老や貝類の海鮮食材、瑞饗火腿などから抽出したであろう要素が、これでもかというほど、米と卵に絡みついているのです』
審査員の言葉を聞き、ハッとなる。
それはまさに紅月が前日まで準備をしていたものだった。
ということは、最初のほうで佐田さんが取り出していた小箱やら、壺なんかに入っていたものは、それらのエキスということ。
『それはまさに香りの爆弾と呼ぶに相応しい。様々な要素が複雑に、無作為に絡みついた米や卵を口に運ぶたび、新しい発見が弾けるのです』
審査員が語るたび、会場のあちこちで息を呑む気配が広がっていく。
もはや紅月の炒飯を嘲笑するような者は、ひとりもいなかった。
『――しかし、香りの爆弾といっても、そもそもビリヤニとは香りの種類が違う。こちらは、自分から探しに行く種類のものです。あそこまで激しい自己主張には太刀打ちはできません。……だからこそ、紅月料理人はこういう体裁を採ったのでしょう?』
審査員がそう尋ねると、紅月はゆっくりと頷いた。
『はい。……ただの場末の小料理屋ならともかく、ここは、この場所は、世界中の料理人が覇を競う場です。そんなところで、ただの炒飯が出てくるはずはない。ましてや、それを審査しようとする方々が、正直に受け取るはずがないと、私は考えました』
紅月がそう言うと、一部の観客たちは自身を恥じるように視線を落とした。
『なにか仕掛けがあるはずだ。なにか狙いがあるはずだ、と。自身の感覚をいつも以上に研ぎ澄ませて、料理に臨んでくれると、そう考えたのです。その結果、私の、見た目だけなら、なんの変哲もない炒飯が刺さった……というわけです』
紅月が言い終えると、会場は再びしんと静まり返った。
つまり、最初から具材が賑やかに並んでいれば、こうはならなかった。
だが、ここまで削ぎ落とされると、むしろ〝何を隠しているのか〟と疑念が生まれる。
そこまで計算して、このシンプルな炒飯を出したということなのだろう。
少し盤外戦術が過ぎる気はするが、それも含めてあの炒飯は紅月らしい。
『――良い炒飯です。とても』
その言葉は、さっきのサチンさんへの賛辞に比べれば、ずっと静かなものだった。
けれど、なぜか私には、その静かさのほうが、むしろ重く響いた。
『派手さはない。だが、非常に緻密だ。ひと口目で感覚を整え、二口目で探らせ、三口目でようやく全体の奥行きを見せてくる。これはそういう一皿だ』
『かといって、米が主役から決して外れない』
左手の審査員も頷く。
『あれだけ強い旨味を内に抱えながら、最後まで炒飯としての輪郭を崩していない。見事です』
審査員がそう総評すると、会場が紅月を讃えるようにわっと沸いた。




