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第281話 萬国美食争鋒1回戦 その10


 誰も何も言わない。

 皆、険しい表情をしてはいるものの、口と匙が止まることはない。

 その事実だけで、いつの間にか私の胸は高鳴っていた。


『……ふぅむ、こんなことが――』


 最初に声を漏らしたのは、右手の審査員だった。


『これは』

『ええ』


 続いて中央と左手の審査員も、小さく頷いた。


『ここまで具だくさんな炒飯は、はじめてです』


 その言葉に、観客席がざわついた。


『具だくさん……?』

『あの審査員、一体何言ってんだ?』

『いや、だって、米と卵しかないけど……』


 私も観客と同じ反応だった。

 最初は翻訳機が不調なのかとも思ったが、皆の反応を見る限り、正しく機能している。


 あの炒飯に具と呼べるものは、卵しかない。

 それなのに具がたくさんとは、一体……?


『葱……生姜……海鮮も……』

『ええ、それと奥のほうに……瑞饗火腿(ハム)の余韻も感じます』

『ううむ、食べるごとに、新たな食材を発見していくようですな』


 冗談を言い合っている様子はない。

 あの審査員たちは大まじめに、それらの具が炒飯に入っていると言っているのだ。


 物質を透明にする能力……?

 ……ばかばかしい。そもそも、紅月にそんな能力はない。

 そのうえ、わざわざ具材を透明にする意味がわからない。

 審査員たちが言うような食材が入っていたのなら、間違いなく目でも見せたほうが効果的だ。


『そしてなによりも、ここまで具だくさんなのに……軽い』

『そうですな。ここまで軽いのは、間違いなく、この体裁を採っているからでしょう』

『先ほどのビリヤニの余韻が、口の中に残っているはずなのに……妙だ。押し返した、という感じでもない。もっと自然に、すっと景色が入れ替わったような……』

『香りの立て方が巧い。強く主張するのではなく、一口目の印象を整えながら、舌を引き戻してくる』

『……なるほど。これは、見事に我々の感覚を誘導しましたな、紅月料理人』


 中央の審査員が、紅月を見上げながら低く唸る。


『……さすがです。私の狙いをそこまで言い当てられるなんて』


 紅月はふっと口元を緩める。


『――会場の皆さまにとっては、さぞ混乱しておいででしょう』


 右手の審査員が観客席に向かって口を開いた。


『この炒飯は、一見、具がないように見えますが……その実、具と呼べるべきものは、本当に卵しかありません。ではなぜ、私どもが具だくさんと呼称したのか。それは、この炒飯の香りに秘密があります』


 審査員はそのまま軽妙な語り口で、炒飯について語る。


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