第280話 萬国美食争鋒1回戦 その9
紅月の作った炒飯が審査員たちの前へと並んでいく。
その時、ほんのわずかに、場の空気が緩んだ気がした。
いや、緩んだというより、肩透かしを食ったというほうが表現としては近いかもしれない。
サチンさんのビリヤニに比べて、見た目から主張してくるものがほとんどなかったからだ。
白と黄。皿の上にある色は、それだけ。
ネギの類も散らされておらず、卵と米だけの純粋な炒飯。
しかしよく見ると、米粒はつややかに輝き、香ばしく仕上がった糸状の卵が、薄く均一に米と絡んでいる。
ところどころに焦げ目もついており、見た目そのものは炒飯として申し分ない。
適当に入った小料理屋でこれが出てきたら、当たりだと思うくらいだ。
けど、それだけ。
まさかここまでスタンダードな炒飯をぶつけてくるなんて、さすがに予想できなかった。
紅月自身、直前までいろいろと試行錯誤した結果がこれなので、私としては何も言えないが――
『……ずいぶんと、対照的ですな』
中央の審査員が、皿を見下ろしながらぽつりと言う。
そんな反応になってしまうのも仕方がないと思ってしまった。
少なくとも、こんな規模の大会に出てくる料理には、私には見えなかった。
『先ほどのビリヤニとは、ずいぶん印象が違います』
右手の審査員も、炒飯の表面を眺めながらそう評した。
『ええ。ひどく静かな一皿だ』
『具材も、ほとんど見えませんな』
『少なくとも、見た目的にはそうですな』
『……だが、炒飯としての完成度は高い』
そう言って、左手の審査員が静かに匙を取る。
会場もまた、いつの間にか静かになっていた。
ただ、さっきまでの熱気が消えたわけじゃない。
皆一様に固唾を呑んで、あの炒飯の正体を見極めようとしているのだ。
そうこうしているうちに、審査員が最初のひと口を口へ運ぶ。
目を閉じ、ゆっくりと確かめるように咀嚼し、ふっと息を吐いてから匙を置いた。
ダメだったのか。
そんな考えが頭をよぎった瞬間――
『おもしろい』
最初にそう言ったのは、中央の審査員だった。
その目はほんのわずかに見開かれる。
片方の眉を顰め、逡巡するように腕組みをすると、もう一度思いついたように匙を持ち、炒飯を口へと運んだ。
『たしかに……これは面白い……!』
右手の審査員が口元に手を当てながら、炒飯を見つめている。
左手の審査員も、無言のまま頷きながら炒飯を口へと運ぶ。
これは、どういうことだろう。
先ほどまで、あれほど雄弁にビリヤニについて語っていた審査員たちが、黙々と紅月の炒飯を食べ進めている。




