第277話 萬国美食争鋒1回戦 その6
「見ておれ、親愛的。妾の神威を」
「うん、それはじめて聞いたけど、とにかくよろしく」
私は半分祈るような気持ちで、その小さな背中を見守る。
壇上に上がったフェニ子はなぜか観客席に向かって手を振った。
観客もなぜかフェニ子に対して大きな声援を送る。
『……はじめまして、お嬢さん』
先に壇上に上がっていたサチンさんが、フェニ子に挨拶する。
「うむ、サチンじゃな。親愛的から話は聞いておるぞ」
『ま、ますたあ……って?』
「親愛的じゃが、いたく感心しておったぞ。このような好青年を、本当に打倒してよいものかと」
「ちょ……!」
あの子は一体、何を口走ってるんだ。
今すぐあの口を塞ぎたい気持ちに駆られたが、あいにく、今の私にあそこへ飛び込んでいく度胸は持ち合わせていなかった。
『そ、それは……考えてもみなかったな。僕としてもそんなつもりはなかったんだけど、悪いことを……』
ああ、なんてことを。
私が未熟なゆえの葛藤を、あんな感じに受け取られるなんて、ものすごく恥ずかしい。
「いや、謝らなくてもよい」
『え?』
「人間は皆、思考して苦悩して、前に進むものだと聞いておる。おぬしが現れたことにより、親愛的もまた人間として成長したことだろう」
サチンさんはフェニ子とそんな会話をすると、無言のまま――紅月に向かってお辞儀をした。
どうやらサチンさんは紅月が〝ますたあ〟だと勘違いしているようだ。
『……こほん、料理が冷めてしまうので、はやく札を』
エイハーザヤさんがそう急かすと、サチンさんがフェニ子に引く順番を譲る。
「む、妾から先に引いてよいのか?」
『……ええ、もちろんです。これは……せめてもの、僕なりのけじめだと考えてください』
サチンさんが私たちに対して申し訳なく思う必要なんてない。
もし私があの場にいたらそう言っていただろうが――
「ふむ。では遠慮なく……」
彼女は一切迷わなかった。
エイハーザヤさんが差し出した札へ、すっと手を伸ばし、そのまま片方をつまみ上げる。
札を裏返すと、スクリーンに映し出されていたのは――狼の絵だった。
『サチン・ヴェルマ、先攻』
終わった。私は思わずその場で天を仰いだ。
そんな私をよそに、フェニ子が軽い足取りで戻ってくる。
「どうじゃ、親愛的よ。狼じゃぞ」
フェニ子が無邪気な顔で狼の描かれた札を見せつけてくる。
「……うん?」
それ、持ってきていいのだろうか?
なんて考えていると、慌てた様子で係員がやってきて、嫌がるフェニ子から札を半ば強奪するように持って行ってしまった。
「な、なにゆえ……」
「なにゆえ、じゃないよ。勝手に持ってきたらダメでしょ」
「そういうものか」




