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第276話 萬国美食争鋒1回戦 その5


 こうして、両者の料理がついに出揃った。


 会場の熱は、先ほどよりもさらに一段上がっている。

 スクリーンの中では、紅月の炒飯と、サチンさんのビリヤニが並んでいた。


 片や、香りだけで観客をざわつかせ、赤、黄、緑と目にも鮮やかな一皿。

 片や、少なくとも見た目には、ものすごくシンプルな炒飯。


 こうやって改めて見比べてみると、炒飯のあまりの簡素さに、思わず目を逸らしたくなる。

 観客席からも、それを嘲笑するような声が聞こえてくる。


 しかし当の紅月は、そんな空気を意に介した様子もない。

 だからおそらく、これも作戦なんだろうけど――


「なんというか、心配じゃのう」


 フェニ子が私の気持ちを代弁してくれる。


『――これより、審査を開始する』


 エイハーザヤさんの声が響き、再び会場が静まる。


『なお、本戦では審査の公平を期すため、試食の順番はこの場で定めるものとする』


 その一言に、私はぴくりと肩を震わせた。


 順番。そうだ。

 ここが今回の対決において、一番の肝だった。


 ビリヤニの後味。

 あの香りと刺激が舌や鼻に残ること。

 紅月がずっと警戒していたのは、まさにそこだったじゃないか。


 それを観客たちも理解しているのか、観客席からも、ざわ、と小さなどよめきが漏れる。


『こりゃ順番次第だな』

『先にあのビリヤニを食ったら、あとがきついぞ』

『だなあ、並大抵の味や香りじゃ、そのまま押し負けちまう』


 そんな囁きが、いやにはっきり耳に入ってくる。


 そんな中、エイハーザヤさんがゆっくりと二枚の札を掲げて見せた。

 スクリーンは料理から彼女の手元へとシフトする。

 札は、片方には虎、もう片方には狼の絵が記されている。


『今から代表者に、この二枚の札を引いていただく。虎を引いたものの料理を先に、狼を引いたものの料理を後に、それぞれ試食する』


 どちらを引いても厄介事の匂いしかしない札だが――ここだ。

 紅月にも何かしらの思惑があるのはわかっている。

 だが、少なくとも、今の私には先攻のほうが確実に有利に思えた。

 けれど、どうすればいいのかはわからない。


 私がひとりで考え込んでいると、紅月が料理を手にしたまま、前へ出ようとした。


「ま、待って、紅月……!」


 思わず呼び止める。

 彼女は料理を手にしたまま、不思議そうに私の顔を見てきた。


「真緒?」

「あの札……なんだけどさ、フェニ子に引かせるのって、どうかな?」

「フェニ子に?」

「なぜ妾なのじゃ?」

「ほら、前に朱雀って、吉兆がどうとか、運勢がどうとかって話してたじゃない? だから、良いほうを引き当ててくれるのかなって」


 文字通りの神頼み。

 現時点で私が採れる最低限の策だ。


「ああ、なるほど……」

「うむ。たしかに妾の運は良いほうじゃが……」


 フェニ子はそこまで言うと、ちらりと紅月の顔を見る。

 紅月は一瞬だけ考えるような素振りをしたが、ゆっくりと頷いた。


「……ふっ、任せるがよい」


 フェニ子は自信満々に言うと、ずんずんと大股で壇上へと上がった。


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