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第275話 萬国美食争鋒1回戦 その4


『ようやく始まるみたいだぞ!』


 ワッとまた観客席から歓声が上がる。

 スクリーンにはデカデカと紅月の手元が映し出されていた。

 私は、紅月と観客たちの邪魔にならない位置まで移動する。


 大きな鉄鍋の中には、大量の油が張られていた。

 十分油が熱せられたのを確認すると、紅月はおもむろに火口から鍋を外す。

 次に、右手のボウルから卵液を細く垂らしながら、左手のお玉で鍋の中の油を操り始める。

 その一方で、お玉が鍋の中の油を滑るように動き、ひとつの流れを作っていた。

 流れに乗った卵液は、ぐしゃりと固まることも広がることもなく、細く、長く、まるで――


「まるで、黄金の糸……じゃな」


 隣にいたフェニ子がそんなことをこぼす。

 そう、彼女の言うとおり、黄金に輝く糸が鍋の中を華麗に泳いでいるのだ。


 やがてすべての卵液を投入した紅月は、糸状になった卵を鍋の中の油ごと引き上げる。

そしてよく油を切り、一度鍋を洗い流し、油を引き直して再び卵を投入する。

 ここでようやく、私は紅月が何を作ろうとしているのか気づいたのだが――


「……あれ?」


 紅月が続けざまに米を入れ、私は首を傾げた。


「気づきましたか、東雲さん」


 佐田さんが声を押さえるようにして言う。


「え、ええ……でも、あれって……あまりにも少なくないですか?」

「そうですね」

「いや、そうですねって……」


 紅月が作ろうとしているのは炒飯だろう。そこはいい。

 ただ、あからさまに具が少ないのだ。

 確認できるだけでも、先ほどの糸状の卵とご飯のみ。

 それ以外の具材を投入する気配はない。

 シンプルな料理を否定するつもりはないが、あのビリヤニと対抗するには、あまりにも貧相に見えてしまう。


「で、でも、何か考えがあっての――」


 私が佐田さんに尋ねるよりも早く、紅月が手際よく炒飯を皿に盛りつけていく。


 完成した炒飯はごくごくシンプルなものだった。

 黄色い卵と白い米のグラデーションの映える、いわゆる黄金炒飯。


『――おいおい、あんな炒飯、俺でも作れるぞ』


 観客からヤジが飛んでくると、それに呼応するように、そこかしこから嫌な笑い声が聞こえてくる。

悔しいが、そう見えてしまうのも無理はなかった。

 しかし、紅月は気にする様子はない。佐田さんも一切、口を挟まない。

 ただ、さっきまでよりも少し真剣な目で紅月の手元を見ていた。


 私はというと、ただひとり混乱していた。


 こんなので、サチンさんのビリヤニに勝てるのだろうか?

 そもそもあれだけ下ごしらえをしていて、あれだけ周到に準備していたのに、出てきたのが卵と米だけの黄金炒飯って、どういうこと?


 その時だった。


 歓声にも似たどよめきが、会場全体を揺らす。

 反射的にスクリーンに目をやると、サチンさんがちょうど鍋の蓋を開けたところだった。

 瞬間、湯気とともに、食堂で嗅いだあの香りが会場へ流れ出した。

 サチンさんは鍋の中身をかき混ぜることなく、淡々と皿に盛りつけていく。


 こうして、両者の料理が出揃った。


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