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第272話 萬国美食争鋒1回戦 その1


 エイハーザヤさんの開会宣言により、会場のボルテージが最高潮になる。

 そして、それと同時にそれまで目立たなかった会場中央の巨大な幕が、魔力を帯びて白く明るんだ。


「な、なにあれ……!」


 会場中央に巨大なスクリーンのようなものが現れる。

 スクリーンはどこからでも見られるよう太い筒状になっており、そこには私たちと、サチンさんの様子が映し出されていた。


魔導(まどう)映写盤(えいしゃばん)ですな」


 佐田さんがスクリーンを見上げながら言った。


「魔導……?」

「おや、東雲さん。白雉国で映写盤は見ませんでしたか」

「は、はい……一般的なものなんですか?」

「いえ、まだ一般に普及しておりませんし、ここまで巨大なものを直に見るのは、私も初めてです……勇者である東雲さんなら、そうした場でご覧になったことがあるのかと……」

「して、これはなんなのじゃ。なぜ妾たちが、あの筒に映っておるのじゃ」


 そう言って、フェニ子がスクリーンに向かって手を振っている。


「これは、景色を映し取る盤と、映した像を受けて拡大する盤ですな」

「なんじゃ、その〝ばん〟とか〝ぞう〟とか」

「……ふむ、この場合は〝目〟と言ったほうがわかりやすいでしょう。この会場のあちこちに目があり、その目を通して見た光景を、あそこの巨大な映写盤へ映し出しているのです。要するに、離れた場所の様子を、そのまま別の場所へ映して見せるための装置です」

「ほう。それは便利じゃの」

「ええ、これだけの大舞台です。後ろの席から手元が見えぬようでは、観客も面白くありますまい」


 たしかにそうだ。

 これだけの人が、料理対決を見に来ているということは、それなりにご褒美(おもしろさ)があるということ。

 萬国美食争鋒は料理勝負であると同時に、興行でもあるということなのだろう。


「紅月さん、これを……」


 いつのまにか紅月の横へと移動した佐田さんが箱や壺から、いくつかの器を手早く並べていく。

 小ぶりな陶器の壺に、布で口を覆った木鉢。

 油紙に包まれた手のひら大の包み、細長い瓶。

 中身を確認するように、次々と紅月へ渡していくが――


親愛的(ますたあ)よ、あれらは何じゃ?」


 フェニ子が不思議そうに私に尋ねてくる。


「仕込みだと思うけど……」


 私はそう答えてから、昨日の全聚楼でのことを思い出す。


 本選は予選と違い、対戦相手とそのお題については事前に通達されている。

 そのうえ開催日も何日かの余裕があるので、いくらでも準備ができる。

 つまり、当日に試されるのは、純粋な料理の完成度だ。


 だからこそ今日までに、どれだけ下ごしらえを重ねられるかが重要になってくるのだが――


仕込み(それ)は妾でもわかっておる。妾が尋ねておるのは、あれがなんなのか、じゃ」


 紅月が壺の中から掬い上げたのは、透明な液体だった。

 彼女はそれを口に含むと、何度も味を確かめるように頬を動かす。


「水……では、なさそうだね」

「そりゃそうじゃろ」


 フェニ子から冷静なツッコミが飛んでくる。


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