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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第九十六章 為に死ぬ者へ

方源(ほうげん)が猪(いのしし)の腹(はら)中(ちゅう)で回復(かいふく)した真元(しんげん)は、結局(けっきょく)使(つか)われることなく終(お)わった。


今回(こんかい)の獣潮(じゅうちょう)は古月(こげつ)上層部(じょうそうぶ)の監視下(かんしか)にあり、電狼群(でんろうぐん)の出現(しゅつげん)は単(たん)なる予想外(よそうがい)のハプニングだった。古月(こげつ)の長老(ちょうろう)たちは即座(そくざ)に対応(たいおう)した。


三人(さんにん)の家老(かろう)自(みずか)らが隊(たい)を率(ひき)い、雷電(らいでん)の如(ごと)き勢(いきお)いで状況(じょうきょう)を制圧(せいあつ)。


わずか10分後(ご)、猪(いのしし)の腹中(ふくちゅう)にいた方源(ほうげん)は外部(がいぶ)の戦闘音(せんとうおん)と電狼(でんろう)の悲鳴(ひめい)を聞(き)きつけた。


彼(かれ)は慌(あわ)てて眼前(がんぜん)の女蛊師(じょせいこし)を蹴(け)り飛(と)ばし、全身(ぜんしん)血糊(ちのり)だらけで這(はい)出(だ)した。


方源(ほうげん)が心配(しんぱい)していたのは電狼(でんろう)ではなく、戦闘(せんとう)の余波(よは)で誤(あやま)って攻撃(こうげき)を食(く)らう可能性(かのうせい)だった。「こんな所(ところ)で巻(ま)き添(ぞ)え食(く)らったら、誰(だれ)に文句(もんく)言(い)えばいいんだ?」


突然(とつぜん)猪(いのしし)の腹(はら)から生身(なまみ)の人間(にんげん)が現(あらわ)れたことに、電狼(でんろう)と交戦中(こうせんちゅう)の蛊師(こし)たちは目(め)を丸(まる)くした。


血(ち)に塗(まみ)れた方源(ほうげん)の足元(あしもと)には猪王(いのししおう)の腸(ちょう)が絡(から)みつき、鼻(はな)を突(つ)く生臭(なまぐさ)い血(ち)の匂(にお)いが漂(ただよ)っていた。蛊師(こし)たちは思(おも)わず顔(かお)を顰(しか)めた。


しかし方源(ほうげん)は全(まった)く気(き)に留(と)めず、深(ふか)く息(いき)を吸(す)いながら手足(てあし)を伸(の)ばし、平然(へいぜん)と戦場(せんじょう)を見渡(みわた)した。


彼(かれ)の予測(よそく)通り、電狼(でんろう)は五頭(ごとう)いた。


しかしこれらは全て(すべて)老弱病残(ろうじゃくびょうざん)の個体(こたい)。狼巣(ろうそう)の最下層(さいかそう)で生き延(の)びてきた者(もの)たちだ。狼群(おおかみむれ)が拡大(かくだい)する中(なか)、狼王(おおかみおう)は若(わか)く健康(けんこう)な電狼(でんろう)を優先(ゆうせん)するため、限(かぎ)られた資源(しげん)を巡(めぐ)り年老(としお)いた個体(こたい)を追放(ついほう)するのだ。


こうして追放(ついほう)された電狼(でんろう)たちは周辺(しゅうへん)の獣群(けものむれ)を襲撃(しゅうげき)し、その影響(えいきょう)が連鎖的(れんさてき)に広(ひろ)がり小規模(しょうきぼ)な獣潮(じゅうちょう)を形成(けいせい)した。


五頭(ごとう)の電狼(でんろう)は蛊師(こし)たちの攻撃(こうげき)にあっさり劣勢(れっせい)に立(た)たされた。


腹一杯(はらいっぱい)に食(く)い込(こ)んだ巨体(きょたい)は動(うご)きを鈍(にぶ)らせ、新規参戦(しんきさんせん)の蛊師(こし)たちは真元(しんげん)満タンで戦闘力(せんとうりょく)が最大(さいだい)。角三(かくぞう)ら疲弊(ひへい)した者(もの)とは大(おお)きく異(こと)なっていた。


真元(しんげん)は蛊師(こし)の命綱(いのちづな)。「落(お)ち目(め)の鳳凰(ほうおう)は鶏(にわとり)にも劣(おと)る」と言(い)うように、真元(しんげん)が尽(つ)きれば戦力(せんとうりょく)は崖(がけ)転(ころ)がりに下落(げらく)。真元(しんげん)切(ぎ)れの蛊師(こし)は常人(じょうじん)以下(いか)の無力(むりょく)さに堕(お)ちるのだ。



だからこそ酒虫(しゅちゅう)や黒白豕蠱(こくびゃくしこ)といった蛊虫(こちゅう)が貴重(きちょう)と言(い)われるのだ。


まず酒虫(しゅちゅう)は真元(しんげん)を精錬(せいれん)し、蛊師(こし)に間接的(かんせつてき)な真元貯蔵(しんげんちょぞう)を可能(かのう)にする。


黒白豕蠱(こくびゃくしこ)が賦与(ふよ)する力(ちから)は真元(しんげん)を消費(しょうひ)せず、更(さら)に複数(ふくすう)の者(もの)で共用(きょうよう)可能(かのう)な集団的価値(しゅうだんてきかち)を持つ。


戦闘(せんとう)は短時間(たんじかん)で終結(しゅうけつ)した。


五頭(ごとう)の電狼(でんろう)が次々(つぎつぎ)と倒(たお)れ、到着(とうちゃく)した援軍(えんぐん)も深入(ふかず)りしなかった。真元(しんげん)の消耗(しょうもう)で戦力(せんりょく)が低下(ていか)しており、安全圏(あんぜんけん)で後続(こうぞく)の援軍(えんぐん)を待(ま)ちながら休憩(きゅうけい)していた。


偵察(ていさつ)担当(たんとう)が警戒(けいかい)、三人(さんにん)が元石(げんせき)で真元回復(しんげんかいふく)、治療係(ちりょうがかり)が女蛊師(じょせいこし)の遺体(いたい)を検分(けんぶん)していた。


「……死亡(しぼう)だ」治療蛊師(ちりょうこし)が深(ふか)く嘆息(たんそく)。哀悼(あいとう)の表情(ひょうじょう)から察(さ)するに、彼女(かのじょ)と面識(めんしき)があったようだ。


方源(ほうげん)は冷(つめ)たい目(め)で眺(なが)めていた。


彼(かれ)が気絶(きぜつ)させた女蛊師(じょせいこし)は、最前線(さいぜんせん)で盾(たて)となっていた。現在(げんざい)、右胸(みぎむね)と片脚(かたあし)を失(な)くし、前腕(ぜんわん)には電狼(でんろう)の牙(きば)による巨大(きょだい)な傷口(きずぐち)が開(あ)き、白骨(はっこつ)が露(あら)わになっていた。


しかし大量出血(たいりょうしゅっけつ)や外傷(がいしょう)が直接(ちょくせつ)の死因(しいん)ではない。真因(しんいん)は心臓麻痺(しんぞうまひ)だった。


電狼(でんろう)の噛(か)み付(つ)きには電流(でんりゅう)が伴(ともな)い、意識不明(いしきふめい)の女蛊師(じょせいこし)の体内(たいない)を流(なが)れた電流(でんりゅう)が心臓(しんぞう)を止(と)めたのだ。


かつて火辣(から)く美(うつく)しかった肢体(したい)は今(いま)、地面(じめん)に無残(むざん)に横(よこ)たわり、生気(せいき)を完全(かんぜん)に失(な)くしていた。


「お前(まえ)のせいで死(し)んだんだ!男(おとこ)のくせに女(おんな)の後(うし)ろに隠(かく)れて……恥(はじ)知(し)らずが!」治療蛊師(ちりょうこし)が顔(かお)を真(ま)っ赤(か)に怒(おこ)らせ方源(ほうげん)を睨(にら)み付(つ)けた。


方源(ほうげん)は平然(へいぜん)と肩(かた)をすくめ返答(へんとう)した:「実際(じっさい)、奴(やつ)と隠(かく)れ場所(ばしょ)の奪(うば)い合(あ)いになったんだ。結果(けっか)、俺(おれ)が勝(か)ち残(のこ)った——そいつは運(うん)が良(よ)かったな」


「この野郎(やろう)――!!」治療蛊師(ちりょうこし)が突進(とっしん)してきた。


ドン!


方源(ほうげん)が蹴(け)りを放(はな)ち、治療蛊師(ちりょうこし)を吹(ふ)き飛(と)ばした。


治療担当(ちりょうたんとう)の蛊師(こし)は戦闘力(せんとうりょく)が低(ひく)く、更(さら)に族規(ぞくき)で同族(どうぞく)への蛊虫(こちゅう)使用(しよう)が禁(きん)じられている。肉体(にくたい)だけの力(ちから)では方源(ほうげん)の敵(てき)ではなかった。



「クソ野郎(やろう)が……!」治療蛊師(ちりょうこし)が泥(どろ)まみれで起(お)き上(あ)がり、再突進(さいとっしん)を試(こころ)みたが偵察蛊師(ていさつこし)に制止(せいし)された。


「俺(おれ)が罪(つみ)を犯(おか)したと思うなら刑堂(けいどう)に申告(しんこく)しろ。覚悟(かくご)はできている」方源(ほうげん)は治療蛊師(ちりょうこし)を一瞥(いちべつ)し、平然(へいぜん)と踵(きびす)を返(かえ)した。


「許(ゆる)せねえ……!絶対(ぜったい)許(ゆる)せねえんだよ!!」治療蛊師(ちりょうこし)は目(め)から火(ひ)が出(で)そうな勢(いきお)いで方源(ほうげん)の背中(せなか)を睨(にら)みつけ、組員(くみいん)たちに押(お)さえつけられながら啜(すす)り泣(な)き始(はじ)めた。


「落(お)ち着(つ)けって!」

「刑堂(けいどう)に訴(うった)えても族(ぞく)は彼(かれ)を罰(ばっ)しないぞ!」

「お前(まえ)の想(おも)いは知(し)ってる。族規(ぞくき)で裁(さば)けなくても、噂(うわさ)を広(ひろ)めれば……」


組員(くみいん)たちの説得(せっとく)で治療蛊師(ちりょうこし)は徐々(じょじょ)に冷静(れいせい)を取り戻(とりもど)し、俯(うつむ)きながら嗚咽(おえつ)した。


「船(ふね)が難破(なんぱ)し、男(おとこ)が一枚(いちまい)の板(いた)に掴(つか)まった。そこへ別(べつ)の男(おとこ)が泳(およ)ぎ寄(よ)り、板(いた)を奪(うば)おうとする。最初(さいしょ)の男(おとこ)は自分(じぶん)を生(い)かすため、後(あと)から来(き)た者(もの)を海(うみ)に蹴(け)り落(お)とした。生き残(のこ)った男(おとこ)は裁判(さいばん)にかけられたが無罪(むざい)となった——これが地球(ちきゅう)の『板事件(いたじけん)』だ」


「つまり、緊急避難(きんきゅうひなん)の状況(じょうきょう)で他者(たしゃ)を犠牲(ぎせい)にしても罰(ばっ)せられない。この世界(せかい)の族規(ぞくき)にも同様(どうよう)の条文(じょうぶん)がある。治療蛊師(ちりょうこし)が申告(しんこく)しても、俺(おれ)は無事(ぶじ)だろう。だが……」


方源(ほうげん)は悠然(ゆうぜん)と歩(ある)きながら思考(しこう)を深(ふか)め、戦場(せんじょう)から離(はな)れていった。



帰路(きろ)は既(すで)に粛清(しゅくせい)されており、方源(ほうげん)は途中(とちゅう)で何度(なんど)も地面(じめん)に横(よこ)たわる死体(したい)を目撃(もくげき)した。大半(たいはん)が獣(けもの)の屍(しかばね)だが、所々(ところどころ)に蛊師(こし)の遺体(いたい)も混(ま)じっている。


前線(ぜんせん)へ向(む)かう援軍(えんぐん)の小組(しょうそ)が頻繁(ひんぱん)に行(ゆ)き交(か)い、血糊(ちのり)だらけの少年(しょうねん)を見(み)かけると怪訝(けげん)そうな視線(しせん)を投(な)げかけてきた。


方源(ほうげん)は気(き)に留(と)めず、虚(うつ)ろな目(め)で思考(しこう)を続(つづ)けながら歩(ある)いていた。


「……だが、もし女蛊師(じょせいこし)を気絶(きぜつ)させた場面(ばめん)が発覚(はっかく)すれば『親族殺害(しんぞくさつがい)』で厳罰(げんばつ)を受(う)ける。しかし当時(とうじ)、あの場(ば)に目撃者(もくげきしゃ)はいなかったはずだ。角三(かくぞう)と空井(くうせい)は背中(せなか)を向(む)けて逃(に)げており――」


ふと足(あし)を止(と)めた。


空井(くうせい)と角三(かくぞう)の遺体(いたい)が視界(しかい)に入(はい)った。


前者(ぜんしゃ)は食(く)い荒(あ)らされて原型(げんけい)を留(と)めておらず、後者(こうしゃ)は比較的(ひかくてき)無傷(むきず)に近(ちか)い状態(じょうたい)だった。


蛇蛊紅岩蟒(へびこ こうがんうわばみ)は岩塊(がんかい)に戻(もど)り砕(くだ)け散(ち)り、病蛇(びょうじゃ)の周囲(しゅうい)には十数頭(じゅうすうとう)の電狼(でんろう)の屍(しかばね)が転(ころ)がっていた。死(し)の間際(まぎわ)に激戦(げきせん)を繰(く)り広(ひろ)げた痕(あと)だ。



「ふむ……四人(よにん)全員(ぜんいん)死亡(しぼう)か」方源(ほうげん)は内心(ないしん)で淡々(たんたん)と評価(ひょうか)し、微(かす)かな喜(よろこ)びを覚(おぼ)えた。


「これで邪魔(じゃま)な存在(そんざい)が減(へ)った……ん?」方源(ほうげん)が足(あし)を止(と)めた。角三(かくぞう)の指先(ゆびさき)が痙攣(けいれん)のように震(ふる)えているのを視認(しにん)したのだ。


「まだ死(し)にかけか……命(いのち)のしぶとさよ」嘲笑(あざわら)うように殺意(さつい)が漲(みなぎ)る。


その瞬間(しゅんかん)、前方(ぜんぽう)から治療蛊師(ちりょうこし)十数名(じゅうすうめい)が駆(か)けつけてきた。

「急(いそ)げ!負傷者(ふしょうしゃ)を救(すく)え!」

「族(ぞく)の同胞(どうほう)だ!助(たす)けられる命(いのち)は救(すく)うんだ!」

「死亡確認(しぼうかくにん)したら蛊虫(こちゅう)の回収(かいしゅう)も忘(わす)れるな!」


方源(ほうげん)の瞳(ひとみ)が鋭(するど)く光(ひか)った。


(どうする?)


目前(もくぜん)の治療班(ちりょうはん)を前に角三(かくぞう)を殺害(さつがい)すれば痕跡(こんせき)が残(のこ)る。絞殺(こうさつ)でも月刃(げつじん)でも、必(かなら)ず証拠(しょうこ)が……


(この場(ば)で見逃(みのが)すか? いや、治療(ちりょう)されても生存(せいぞん)する保証(ほしょう)はない……否(いな)!)


「角三(かくぞう)を葬(ほうむ)れば障害(しょうがい)が一気(いっき)に減(へ)る。こんな好機(こうき)は二度(にど)と……」


閃光(せんこう)が脳裏(のうり)を走(はし)る。


彼(かれ)はゆっくりと角三(かくぞう)の傍(かたわ)らに膝(ひざ)を折(お)り、上着(うわぎ)を脱(ぬ)いでゆっくりと顔(かお)から上半身(じょうはんしん)を覆(おお)った。


長時間(ちょうじかん)猪(いのしし)の腹(はら)に潜(ひそ)んでいたため、血(ち)に浸(ひた)った上着(うわぎ)は重(おも)く湿(しめ)っていた。布地(ぬのじ)が角三(かくぞう)の鼻(はな)と口(くち)に密着(みっちゃく)し、空気(くうき)の吸収(きゅうしゅう)を阻(はば)んでいた。


方源(ほうげん)は半跪(はんひざ)いたまま静(しず)かに見守(みまも)り、顔面(がんめん)に厳粛(げんしゅく)と悲痛(ひつう)の表情(ひょうじょう)を浮(う)かべていた。


その時(とき)、一人(ひとり)の蛊師(こし)が近(ちか)づいてきた:「小兄弟(しょうきょうだい)、薬堂(やくどう)の者(もの)だ。検査(けんさ)を――」


「うるさい!」方源(ほうげん)が怒鳴(どな)りつけ、押(お)し退(の)けた。


転(ころ)がった蛊師(こし)は怒(おこ)るでもなく諭(さと)すように言(い)った:「落(お)ち着(つ)きたまえ。共(とも)に戦(たたか)った仲間(なかま)を失(うしな)う苦(くる)しみは分(わ)かる。だがお前(まえ)も傷(きず)だらけだろう。彼等(かれら)の為(ため)に生き延(の)びるんだ。手当(てあ)てをさせてくれ」


方源(ほうげん)は黙(だま)り込(こ)み、俯(うつむ)いた顔(かお)を陰(かげ)に沈(しず)めたまま検査(けんさ)を受け入(い)れた。


検査結果(けんさけっか)は蛊師(こし)を驚(おどろ)かせた。血(ち)まみれの見(み)た目(ため)に反(はん)し、方源(ほうげん)の体(からだ)には傷(きず)一つなかった。


「すまぬが族(ぞく)の蛊虫(こちゅう)を回収(かいしゅう)せねば」蛊師(こし)が詫(わ)びるように血衣(ちぎぬ)を捲(ま)くると――


角三(かくぞう)の半開(はんびら)きの瞳(ひとみ)は既(すで)に光(ひかり)を失(うしな)っていた。


蛊師(こし)は慣(な)れた手付(てつ)きで角三(かくぞう)の瞼(まぶた)を開(ひら)き、瞳孔(どうこう)を確認(かくにん)した。首筋(くびすじ)に触(ふ)れるも脈拍(みゃくはく)は感じられない。


死亡(しぼう)だ。

完全(かんぜん)に息(いき)の根(ね)が止(と)まっていた。


蛊師(こし)は何(なに)も疑(うたが)わず、ため息(いき)をつき角三(かくぞう)の腹部(ふくぶ)に手(て)を当(あ)てた。


「どの蛊師(こし)の蛊虫(こちゅう)も記録(きろく)されておる。死後(しご)は遺産(いさん)として継承者(けいしょうしゃ)へ……」

「私(わたし)が組長(くみちょう)の蛊虫(こちゅう)を盗(ぬす)んだと?」方源(ほうげん)が蛊師(こし)の目(め)を真(ま)っ直(す)ぐに見返(みかえ)す。


蛊虫(こちゅう)を奪(うば)えばリスクが伴(ともな)う。春秋蝉(しゅんじゅうせみ)で即時煉化(そくじれんか)できても、族内(ぞくない)で処分(しょぶん)し難(がた)い。


「そのような意味(いみ)では……!」蛊師(こし)が慌(あわ)てて笑顔(えがお)を作(つく)る:「亡(な)き者(もの)の為(ため)に、君(きみ)こそ生(い)き延(の)びるべきだ」


方源(ほうげん)がゆっくり立ち上(あ)がる。

病蛇(びょうじゃ)の遺体(いたい)を慈(いつく)しむような眼差(まなざ)しで凝視(ぎょうし)した。


夜風(よかぜ)が耳元(みみもと)を掠(かす)める。

「……そなたの言(い)う通り(どお)だ」長(なが)い沈黙(ちんもく)を破(やぶ)り、方源(ほうげん)が冷(つめ)たい声(こえ)で呟(つぶや)いた:「亡(な)き者(もの)の為(ため)に、この私(わたし)は生(い)き続(つづ)けねばならん」

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