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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第九十五章 猪の隊友

女蛊師(じょせいこし)の体(からだ)は人形(にんぎょう)のように腰(こし)から折(お)れ曲(ま)がり、上半身(かみはんしん)は地面(じめん)に這(は)いつくばり、下半身(しもはんしん)は不自然(ふしぜん)な角度(かくど)で尻(しり)を地面(じめん)に擦(こす)りつけ、足先(あさき)を空(そら)に向(む)けていた。


遠方(えんぽう)では方源(ほうげん)も空中(くうちゅう)から落下(らっか)。


まず樹冠(じゅかん)に衝突(しょうとつ)し、枝葉(えだは)を折(お)りながら雪原(せつげん)へ墜落(ついらく)した。


敏捷(びんしょう)に身(み)を翻(ひるがえ)し雪上(せつじょう)に立(た)ち上(あ)がった。玉皮蛊(ぎょくひこ)を発動(はつどう)していたため、背中(せなか)の鈍痛(どんつう)以外(いがい)は無傷(むきず)だった。


戦場(せんじょう)の方(ほう)から一瞬(いっしゅん)の沈黙(ちんもく)を経(へ)て、角三(かくぞう)の怒号(どごう)が響(ひび)いた:「方源(ほうげん)!まだ持(も)つと言(い)ったじゃねえか!!」


方源(ほうげん)は内心(ないしん)で冷笑(れいしょう)し、わざと体(からだ)を傾(かたむ)けて木(き)の幹(みき)に掴(つか)まり「足(あし)を挫(くじ)いた」と見(み)せかけた。周囲(しゅうい)に他(ほか)の蛊師(こし)がいないか目視(もくし)で確認(かくにん)しながら、完璧(かんぺき)な演技(えんぎ)を続(つづ)けた。


獣潮(じゅうちょう)の中(なか)、蛊師(こし)たちは自(みずか)らの戦闘(せんとう)に必死(ひっし)で、方源(ほうげん)を監視(かんし)する余裕(よゆう)などない。だが彼(かれ)は慎重(しんちょう)にも偽装(ぎそう)を選(えら)んだ。


戦場(せんじょう)の方(ほう)から再(ふたた)び激(はげ)しい戦闘音(せんとうおん)が響(ひび)く。


野猪王(いのししおう)は紅岩蟒(こうがんうわばみ)との死闘(しとう)を再開(さいかい)していた。


方源(ほうげん)は足(あし)を引き摺(ず)り、何度(なんど)も転(ころ)びながら泥(どろ)や雪(ゆき)まみれの惨(みじ)めな姿(すがた)で戦場縁(せんじょうふち)へ戻(もど)った。


最終的(さいしゅうてき)に戦場(せんじょう)際(ぎわ)に到達(とうたつ)した時(とき)、紅岩蟒(こうがんうわばみ)は野猪王(いのししおう)の後脚(うしろあし)二本(にほん)を締(し)め上げ、巨体(きょたい)ごと地面(じめん)に転(ころ)がり込(こ)ませていた。


野猪王(いのししおう)は前脚(まえあし)で必死(ひっし)に暴(あば)れ回(まわ)り、全身(ぜんしん)から噴(ふ)き出(だ)す熱(あつ)い血潮(ちしお)で雪原(せつげん)を真紅(しんく)に染(そ)めていた。


方源(ほうげん)の姿(すがた)を見(み)つけると、最外縁(さいがいえん)に位置(いち)する古月空井(こげつ くうせい)が怒鳴(どな)った:「方源(ほうげん)!この野郎(やろう)!華欣(かきん)を殺(ころ)したのはお前(まえ)だぞ!」


「わ、悪気(わるぎ)はなかったんだ!本当(ほんとう)に限界(げんかい)だったんだよ!」方源(ほうげん)が叫(さけ)び返(かえ)す。


「クソが!無理(むり)なら最初(さいしょ)から言(い)えよ!嘘(うそ)つきやがって人殺(ひとごろ)しめ!」空井(くうせい)が目(め)を吊(つ)り上(あ)げ、戦闘中(せんとうちゅう)でなければ即刻(そっこく)殴(なぐ)りかかるところだった。


「ご、ごめん……二度(にど)としねえから」方源(ほうげん)が慌(あわ)てて謝(あやま)る。


「方源(ほうげん)!後(あと)で清算(せいさん)するぞ!」病蛇角三(びょうじゃかくぞう)の咆哮(ほうこう)が響(ひび)く。瀕死(ひんし)の野猪王(いのししおう)の暴走(ぼうそう)で紅岩蟒(こうがんうわばみ)の岩肌(いわはだ)に亀裂(きれつ)が広(ひろ)がっていた。


「空井(くうせい)!方源(ほうげん)にかまってる場合(ばあい)じゃねえ!刃鱗網(じんりんもう)を出(だ)せ!」角三(かくぞう)が冷(ひや)汗(あせ)を垂(た)らし叫(さけ)んだ。


「了解(りょうかい)!」空井(くうせい)が大肚蛙(だいとは)から刃(やいば)つきの金網(かなあみ)を吐(は)き出(だ)した。


「方源(ほうげん)、反対側(はんたいがわ)を持(も)って共(とも)に被(か)ぶせろ!」空井(くうせい)が指示(しじ)する。


「足(あし)挫(くじ)いて動(うご)けねえんだ!」方源(ほうげん)が不自由(ふじゆう)な足取(あしど)りで近寄(ちかよ)る。


「役立(やくた)たずが!」空井(くうせい)が独力(どくりき)で網(あみ)を振(ふ)り回(まわ)し野猪王(いのししおう)に被(か)ぶせた。


「ガオオオォォ!!」刃鱗網(じんりんもう)に絡(から)まった野猪王(いのししおう)が血煙(ちけむり)を上(あ)げながら暴(あば)れる。しかし動(うご)けば動(うご)くほど深(ふか)く食(く)い込(こ)む刃(やいば)に致命傷(ちめいしょう)を深(ふか)めていく。


岩肌(いわはだ)の紅岩蟒(こうがんうわばみ)は刃鱗網(じんりんもう)の影響(えいきょう)を最小限(さいしょうげん)に抑(おさ)えていた。



「この毛皮(けがわ)が勿体無(もったいな)い!」角三(かくぞう)の目(め)に痛惜(つうせき)の色(いろ)が瞬(またた)いた。


「やっと終(お)わったぜ」空井(くうせい)が深(ふか)い息(いき)を吐(は)いた。


その瞬間(しゅんかん)、方源(ほうげん)が叫(さけ)んだ:「手伝(てつだ)うぞ!」


シュッシュッシュッ!


月刃(げつじん)が飛(と)び散(ち)り刃鱗網(じんりんもう)を切断(せつだん)。暴(あば)れる野猪王(いのししおう)の力(ちから)で破目(やぶれめ)が広(ひろ)がり、網(あみ)が粉々(こなごな)に裂(さ)けた。


「マジかよ……!?」空井(くうせい)が目(め)を剥(む)いて呆然(ぼうぜん)。


「チクショウ!」女蛊師(じょせいこし)が淑女(しゅくじょ)らしさも忘(わす)れ罵声(ばせい)を浴(あ)びせた。


「わ、悪(わる)かった!助(たす)けようとしただけなんだ!」方源(ほうげん)が真顔(まがお)で訴(うった)える。


野猪王(いのししおう)の突進(とっしん)を躱(かわ)した角三(かくぞう)が地面(じめん)を転(ころ)がりながら怒鳴(どな)りつけた:「方源(ほうげん)――!この大馬鹿者(おおばかもの)が!お前(まえ)は猪(いのしし)以下の戦友(せんゆう)だ!」


「信(しん)じてくれ組長(くみちょう)!本当(ほんとう)に……」


「黙(だま)ってろ!二度(にど)と手出(てだ)しすんじゃねえ!端(はじ)でじっとしてろ!」角三(かくぞう)が蹄(ひづめ)の踏(ふ)み潰(つぶ)しを回避(かいひ)しながら咆哮(ほうこう)。


方源(ほうげん)は内心(ないしん)で嘲笑(あざわら)いながら、数十歩(すうじっぽ)後退(こうたい)した。


「全員(ぜんいん)下(さ)がれ!」角三(かくぞう)が鼻息荒(はないきあら)く真(しん)の切札(きりふだ)を披露(ひろう)。両鼻(りょうはな)から黄(き)い毒気(どくけ)が糸状(いとじょう)に漏(も)れ出(だ)す。


毒雲(どくうん)が膨(ふく)れ上(あ)がり、野猪王(いのししおう)と角三(かくぞう)の影(かげ)が靄(もや)の向(む)こうで蠢(うごめ)いていた。


空井(くうせい)ら三人(さんにん)は毒雲(どくうん)の外側(そとがわ)で戦況(せんきょう)を窺(うかが)う。


方源(ほうげん)が残(のこ)った女蛊師(じょせいこし)に声(こえ)を掛(か)ける:「足(あし)の治療(ちりょう)をしてくれ。挫(くじ)いたんだ」


「仲間(なかま)が死(し)んだのに、お前(まえ)はただの捻挫(ねんざ)だと!? あんたが代(か)わって死(し)ねばいいのに!」女蛊師(じょせいこし)が逆上(ぎゃくじょう)した。


「そんなつもりじゃ……」方源(ほうげん)が虚(うつ)ろな表情(ひょうじょう)で応(こた)える。その瞳(ひとみ)の奥(おく)で冷(つめ)たい殺意(さつい)が光(ひか)った。


(こいつらを始末(しまつ)すべきか? 今(いま)が好機(こうき)だ……連中(れんちゅう)は俺(おれ)が殺意(さつい)を抱(いだ)くなんて夢(ゆめ)にも思(おも)うまい)


(病蛇小组(びょうじゃこぐみ)を葬(ほうむ)れば制約(せいやく)が減(へ)る。だが……)


(他(ほか)の蛊師(こし)に見(み)られでもしたら、族内殺害(ぞくないさつがい)の罪(つみ)で七日七晩(なのかなばん)拷問(ごうもん)の末処刑(すいしょけい)だ)


(死(し)は怖(こわ)くないが、こんな連中(れんちゅう)の為(ため)に危険(きけん)を冒(おか)す価値(かち)はない。獣潮(じゅうちょう)を利用(りよう)し、痕跡(こんせき)を残(のこ)さずにやる必要(ひつよう)がある)


(残念(ざんねん)だが野猪王(いのししおう)は瀕死(ひんし)。病蛇小组(びょうじゃこぐみ)は戦力(せんりょく)激減(げきげん)で戦場離脱(せんじょうりだつ)するだろう。もったいない好機(こうき)を……)



方源(ほうげん)の胸中(きょうちゅう)に一抹(いちまつ)の悔恨(かいこん)が去来(きょらい)した。


しかし彼(かれ)は既(すで)に限界(げんかい)まで工作(こうさく)を施(ほどこ)していた。これ以上(いじょう)手(て)を加(くわ)えれば不自然(ふしぜん)さが露呈(ろてい)し、組員(くみいん)たちに疑(うたが)いを抱(いだ)かせたり、他(ほか)の蛊師(こし)に目撃(もくげき)される危険性(きけんせい)が高(たか)まる。


五分後(ごふんご)、野猪王(いのししおう)がドスンと地面(じめん)に倒(たお)れ込(こ)んだ。


黄色(きいろ)い毒雲(どくうん)が消散(しょうさん)し、角三(かくぞう)が蒼白(そうはく)な顔(かお)で荒息(あらいき)をついていた。奥(おく)の手(て)を使(つ)い果(はた)し、真元(しんげん)が枯渇(こかつ)しかけている。


「全員(ぜんいん)、解体(かいたい)しろ!急(いそ)げ!戦利品(せんりひん)持(も)って撤収(てっしゅう)だ!」角三(かくぞう)が叫(さけ)ぶ。


方源(ほうげん)らが野猪王(いのししおう)を囲(かこ)み、素早(すばや)く皮剥(かわむ)きを開始(かいし)。


猪王(いのししおう)の血(ち)は熱(あつ)く、生臭(なまぐさ)い血臭(ちしお)が漂(ただよ)う。漆黒(しっこく)の山林(さんりん)からは獣(けもの)の咆哮(ほうこう)と戦闘音(せんとうおん)が響(ひび)く。


しかしこの小戦場(しょうせんじょう)に他(ほか)の獣(けもの)が近寄(ちかよ)る気配(けはい)はない。


これが獣王(じゅうおう)の威圧(いあつ)だ。


獣(けもの)の世界(せかい)にも規律(きりつ)がある。猪王(いのししおう)の濃厚(のうこう)な気配(けはい)が普通(ふつう)の獣(けもの)を震(ふる)え上(あ)がらせ、獣潮(じゅうちょう)を分断(ぶんだん)させていた。ただし更(さら)に強(つよ)い獣群(けものむれ)や獣王(じゅうおう)が現(あらわ)れれば話(はなし)は別(べつ)だ。


その時(とき)、暗闇(くらやみ)に青白(あおじろ)い瞳(ひとみ)が無数(むすう)に浮(う)かび上(あ)がった。


「ギャアアッ!」


他(ほか)の場所(ばしょ)から蛊師(こし)たちの悲鳴(ひめい)が響(ひび)く。


「狼(おおかみ)だ!狼群(おおかみむれ)が!」


「電狼(でんろう)の群(む)れだと!?」


「くそっ!狼潮(ろうちょう)の時期(じき)じゃないはずなのに!」



「撤収(てっしゅう)だ!猪王(いのししおう)は捨(す)て置(お)け!急(いそ)げ!」角三(かくぞう)が叫(さけ)ぶ。周囲(しゅうい)の者(もの)の顔色(かおいろ)が一斉(いっせい)に真(ま)っ青(さお)になった。


単体(たんたい)の電狼(でんろう)なら脅威(きょうい)ではない。だが群(む)れを成(な)すと、猪王(いのししおう)ですら逃(に)げ惑(まど)う。


更(さら)に電狼(でんろう)は持久力(じきゅうりょく)があり、追撃(ついげき)に特化(とっか)している。角三(かくぞう)は三人(さんにん)の組員(くみいん)を見捨(みす)て、必死(ひっし)で後方(こうほう)へ逃(に)げ出(だ)した。


「組長(くみちょう)!待(ま)ってくださあい!」空井(くうせい)が震(ふる)える声(こえ)で叫(さけ)びながら追(お)い駆(か)ける。


「速度(そくど)強化(きょうか)の蛊虫(こちゅう)がない俺(おれ)は逃(に)げ切(き)れない。奴等(やつら)も真元(しんげん)が尽(つ)きかけ……どうせ電狼(でんろう)に追(お)いつかれる」死(し)の危機(きき)に方源(ほうげん)の心中(しんちゅう)は雪(ゆき)のように冷徹(れいてつ)だった。


瞬時(またた)くに決断(けつだん)し、傍(かたわ)らに呆然(ぼうぜん)と立(た)つ女蛊師(じょせいこし)の頸部(けいぶ)に手刀(しゅとう)を浴(あ)びせた。


「ぐへっ……」


意識(いしき)を失(うしな)った女(おんな)の体(からだ)を引(ひ)き摺(ず)り、猪王(いのししおう)の剖開(ぼうかい)された腹(はら)へ潜(もぐ)り込(こ)んだ。


猪王(いのししおう)の腹(はら)は既(すで)に縦(たて)に深(ふか)く裂(さ)かれていた。方源(ほうげん)は血塗(ちまみ)れの内臓(ないぞう)に身(み)を埋(う)め、女(おんな)の体(からだ)を外側(そとがわ)の蓋(ふた)のように押(お)し当(あ)てて姿(すがた)を隠(かく)した。



狼群(おおかみむれ)が押(お)し寄(よ)せ、大半(たいはん)が角三(かくぞう)や空井(くうせい)ら撤退組(てったいぐみ)を追撃(ついげき)。残(のこ)りは猪王(いのししおう)の死骸(しがい)を囲(かこ)み喰(く)らい始(はじ)めた。


方源(ほうげん)は猪王(いのししおう)の体内(たいない)で、電狼(でんろう)の顎(あご)で肉(にく)を引き裂(さ)く音(おと)や内臓(ないぞう)を啜(すす)る音(おと)、それに伴(ともな)う巨体(きょたい)の揺(ゆ)れを感知(かんち)していた。


「初陣(ういじん)の獣潮(じゅうちょう)に電狼群(でんろうぐん)出現(しゅつげん)とは……族(ぞく)の救援(きゅうえん)が来(く)るまで耐(た)えれば生き延(の)びられる」


角三(かくぞう)らは真元(しんげん)枯渇(こかつ)で速度(そくど)も出(だ)せず、最早(もはや)死(し)を免(まぬが)れまい。慌(あわ)てふためく者(もの)が最善策(さいぜんさく)を選(えら)べるはずもない。


仮(かり)に猪王(いのししおう)の肉(にく)が食(く)い尽(つ)くされても、直面(ちょくめん)する電狼(でんろう)は最大(さいだい)五頭(ごとう)。生存確率(せいぞんかくりつ)は他(ほか)より遥(はる)かに高(たか)い。


ガリガリ、ブチャブチャ……


食(く)い荒(あ)らす音(おと)が徐々(じょじょ)に近(ちか)づく。猪王(いのししおう)の表皮(ひょうひ)の八割(はちわり)が既(すで)に狼(おおかみ)の胃袋(いぶくろ)へ。


常人(じょうじん)なら耐(た)え難(がた)い恐怖(きょうふ)に苛(さいな)まれる状況(じょうきょう)で、方源(ほうげん)は瞼(まぶた)を閉(と)じて予備元石(よびげんせき)を握(にぎ)り真元(しんげん)回復(かいふく)に集中(しゅうちゅう)していた。

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