表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
96/557

第九十六章 為に死ぬ者へ

方源ほうげんいのししはらちゅう回復かいふくした真元しんげんは、結局けっきょく使つかわれることなくわった。


今回こんかい獣潮じゅうちょう古月こげつ上層部じょうそうぶ監視下かんしかにあり、電狼群でんろうぐん出現しゅつげんたんなる予想外よそうがいのハプニングだった。古月こげつ長老ちょうろうたちは即座そくざ対応たいおうした。


三人さんにん家老かろうみずからがたいひき)い、雷電らいでん)ごと)いきお)いで状況じょうきょう)制圧せいあつ)


わずか10分後)いのしし)腹中ふくちゅう)にいた方源ほうげん)外部がいぶ)戦闘音せんとうおん)電狼でんろう)悲鳴ひめい))きつけた。


かれ)あわ)てて眼前がんぜん)女蛊師じょせいこし)))ばし、全身ぜんしん)血糊ちのり)だらけではい))した。


方源ほうげん)心配しんぱい)していたのは電狼でんろう)ではなく、戦闘せんとう)余波よは)あやま)って攻撃こうげき))らう可能性かのうせい)だった。「こんなところ))))らったら、だれ)文句もんく))えばいいんだ?」


突然とつぜん)いのしし)はら)から生身なまみ)人間にんげん)あらわ)れたことに、電狼でんろう)交戦中こうせんちゅう)蛊師こし)たちは)まる)くした。


)まみ)れた方源ほうげん)足元あしもと)には猪王いのししおう)ちょう)から)みつき、はな))生臭なまぐさ))にお)いがただよ)っていた。蛊師こし)たちはおも)わずかお)しか)めた。


しかし方源ほうげん)まった)))めず、ふか)いき))いながら手足てあし))ばし、平然へいぜん)戦場せんじょう)見渡みわた)した。


かれ)予測よそく)通り、電狼でんろう)五頭ごとう)いた。


しかしこれらは全て(すべて)老弱病残ろうじゃくびょうざん)個体こたい)狼巣ろうそう)最下層さいかそう)で生き)びてきたもの)たちだ。狼群おおかみむれ)拡大かくだい)するなか)狼王おおかみおう)わか)健康けんこう)電狼でんろう)優先ゆうせん)するため、かぎ)られた資源しげん)めぐ)年老としお)いた個体こたい)追放ついほう)するのだ。


こうして追放ついほう)された電狼でんろう)たちは周辺しゅうへん)獣群けものむれ)襲撃しゅうげき)し、その影響えいきょう)連鎖的れんさてき)ひろ)がり小規模しょうきぼ)獣潮じゅうちょう)形成けいせい)した。


五頭ごとう)電狼でんろう)蛊師こし)たちの攻撃こうげき)にあっさり劣勢れっせい))たされた。


腹一杯はらいっぱい)))んだ巨体きょたい)うご)きをにぶ)らせ、新規参戦しんきさんせん)蛊師こし)たちは真元しんげん)満タンで戦闘力せんとうりょく)最大さいだい)角三かくぞう)疲弊ひへい)したもの)とはおお)きくこと)なっていた。


真元しんげん)蛊師こし)命綱いのちづな)。「))鳳凰ほうおう)にわとり)にもおと)る」と)うように、真元しんげん))きれば戦力せんとうりょく)がけ)ころ)がりに下落げらく)真元しんげん))れの蛊師こし)常人じょうじん)以下いか)無力むりょく)さに)ちるのだ。



だからこそ酒虫しゅちゅう黒白豕蠱こくびゃくしこといった蛊虫こちゅう貴重きちょうわれるのだ。


まず酒虫しゅちゅう真元しんげん精錬せいれんし、蛊師こし間接的かんせつてき真元貯蔵しんげんちょぞう可能かのうにする。


黒白豕蠱こくびゃくしこ賦与ふよするちから真元しんげん消費しょうひせず、さら複数ふくすうもの共用きょうよう可能かのう集団的価値しゅうだんてきかちを持つ。


戦闘せんとう短時間たんじかん終結しゅうけつした。


五頭ごとう電狼でんろうが次々(つぎつぎ)とたおれ、到着とうちゃくした援軍えんぐん深入ふかずりしなかった。真元しんげん消耗しょうもう戦力せんりょく低下ていかしており、安全圏あんぜんけん後続こうぞく援軍えんぐんちながら休憩きゅうけいしていた。


偵察ていさつ担当たんとう警戒けいかい三人さんにん元石げんせき真元回復しんげんかいふく治療係ちりょうがかり女蛊師じょせいこし遺体いたい検分けんぶんしていた。


「……死亡しぼうだ」治療蛊師ちりょうこしふか嘆息たんそく哀悼あいとう表情ひょうじょうからするに、彼女かのじょ面識めんしきがあったようだ。


方源ほうげんつめたいながめていた。


かれ気絶きぜつさせた女蛊師じょせいこしは、最前線さいぜんせんたてとなっていた。現在げんざい右胸みぎむね片脚かたあしくし、前腕ぜんわんには電狼でんろうきばによる巨大きょだい傷口きずぐちき、白骨はっこつあらわになっていた。


しかし大量出血たいりょうしゅっけつ外傷がいしょう直接ちょくせつ死因しいんではない。真因しんいん心臓麻痺しんぞうまひだった。


電狼でんろうきには電流でんりゅうともない、意識不明いしきふめい女蛊師じょせいこし体内たいないながれた電流でんりゅう心臓しんぞうめたのだ。


かつて火辣からうつくしかった肢体したいいま地面じめん無残むざんよこたわり、生気せいき完全かんぜんくしていた。


「おまえのせいでんだんだ!おとこのくせにおんなうしろにかくれて……はじらずが!」治療蛊師ちりょうこしかおおこらせ方源ほうげんにらけた。


方源ほうげん平然へいぜんかたをすくめ返答へんとうした:「実際じっさいやつかく場所ばしょうばいになったんだ。結果けっかおれのこった——そいつはうんかったな」


「この野郎やろう――!!」治療蛊師ちりょうこし突進とっしんしてきた。


ドン!


方源ほうげんりをはなち、治療蛊師ちりょうこしばした。


治療担当ちりょうたんとう蛊師こし戦闘力せんとうりょく)ひく)く、さら)族規ぞくき)同族どうぞく)への蛊虫こちゅう)使用しよう)きん)じられている。肉体にくたい)だけのちから)では方源ほうげん)てき)ではなかった。



「クソ野郎やろうが……!」治療蛊師ちりょうこしどろまみれでがり、再突進さいとっしんこころみたが偵察蛊師ていさつこし制止せいしされた。


おれつみおかしたと思うなら刑堂けいどう申告しんこくしろ。覚悟かくごはできている」方源ほうげん治療蛊師ちりょうこし一瞥いちべつし、平然へいぜんきびすかえした。


ゆるせねえ……!絶対ぜったいゆるせねえんだよ!!」治療蛊師ちりょうこしからそうないきおいで方源ほうげん背中せなかにらみつけ、組員くみいんたちにさえつけられながらすすはじめた。


けって!」

刑堂けいどううったえてもぞくかればっしないぞ!」

「おまえおもいはってる。族規ぞくきさばけなくても、うわさひろめれば……」


組員くみいんたちの説得せっとく治療蛊師ちりょうこしは徐々(じょじょ)に冷静れいせいを取りとりもどし、うつむきながら嗚咽おえつした。


ふね難破なんぱし、おとこ一枚いちまいいたつかまった。そこへべつおとこおより、いたうばおうとする。最初さいしょおとこ自分じぶんかすため、あとからものうみとした。生きのこったおとこ裁判さいばんにかけられたが無罪むざいとなった——これが地球ちきゅうの『板事件いたじけん』だ」


「つまり、緊急避難きんきゅうひなん状況じょうきょう他者たしゃ犠牲ぎせいにしてもばっせられない。この世界せかい族規ぞくきにも同様どうよう条文じょうぶんがある。治療蛊師ちりょうこし申告しんこくしても、おれ無事ぶじだろう。だが……」


方源ほうげん悠然ゆうぜんあるきながら思考しこうふかめ、戦場せんじょうからはなれていった。



帰路きろすで粛清しゅくせいされており、方源ほうげん途中とちゅう何度なんど地面じめんよこたわる死体したい目撃もくげきした。大半たいはんけものしかばねだが、所々(ところどころ)に蛊師こし遺体いたいじっている。


前線ぜんせんかう援軍えんぐん小組しょうそ頻繁ひんぱんい、血糊ちのりだらけの少年しょうねん)かけると怪訝けげん)そうな視線しせん))げかけてきた。


方源ほうげん))めず、うつ)ろな)思考しこう)つづ)けながらある)いていた。


「……だが、もし女蛊師じょせいこし)気絶きぜつ)させた場面ばめん)発覚はっかく)すれば『親族殺害しんぞくさつがい)』で厳罰げんばつ))ける。しかし当時とうじ)、あの)目撃者もくげきしゃ)はいなかったはずだ。角三かくぞう)空井くうせい)背中せなか))けて)げており――」


ふとあし))めた。


空井くうせい)角三かくぞう)遺体いたい)視界しかい)はい)った。


前者ぜんしゃ)))らされて原型げんけい))めておらず、後者こうしゃ)比較的ひかくてき)無傷むきず)ちか)状態じょうたい)だった。


蛇蛊紅岩蟒へびこ こうがんうわばみ)岩塊がんかい)もど)くだ))り、病蛇びょうじゃ)周囲しゅうい)には十数頭じゅうすうとう)電狼でんろう)しかばね)ころ)がっていた。)間際まぎわ)激戦げきせん))ひろ)げたあと)だ。



「ふむ……四人よにん全員ぜんいん死亡しぼうか」方源ほうげん内心ないしんで淡々(たんたん)と評価ひょうかし、かすかなよろこびをおぼえた。


「これで邪魔じゃま存在そんざいった……ん?」方源ほうげんあしめた。角三かくぞう指先ゆびさき痙攣けいれんのようにふるえているのを視認しにんしたのだ。


「まだにかけか……いのちのしぶとさよ」嘲笑あざわらうように殺意さついみなぎる。


その瞬間しゅんかん前方ぜんぽうから治療蛊師ちりょうこし十数名じゅうすうめいけつけてきた。

いそげ!負傷者ふしょうしゃすくえ!」

ぞく同胞どうほうだ!たすけられるいのちすくうんだ!」

死亡確認しぼうかくにんしたら蛊虫こちゅう回収かいしゅうわすれるな!」


方源ほうげんひとみするどひかった。


(どうする?)


目前もくぜん治療班ちりょうはんを前に角三かくぞう殺害さつがいすれば痕跡こんせきのこる。絞殺こうさつでも月刃げつじんでも、かなら証拠しょうこが……


(この見逃みのがすか? いや、治療ちりょうされても生存せいぞんする保証ほしょうはない……いな!)


角三かくぞうほうむれば障害しょうがい一気いっきる。こんな好機こうき二度にどと……」


閃光せんこう脳裏のうりはしる。


かれはゆっくりと角三かくぞうかたわらにひざり、上着うわぎいでゆっくりとかおから上半身じょうはんしんおおった。


長時間ちょうじかんいのししはらひそんでいたため、ひたった上着うわぎおも湿しめっていた。布地ぬのじ角三かくぞうはなくち密着みっちゃくし、空気くうき吸収きゅうしゅうはばんでいた。


方源ほうげん半跪はんひざいたまましずかに見守みまもり、顔面がんめん厳粛げんしゅく悲痛ひつう表情ひょうじょうかべていた。


そのとき一人ひとり蛊師こしちかづいてきた:「小兄弟しょうきょうだい薬堂やくどうものだ。検査けんさを――」


「うるさい!」方源ほうげん怒鳴どなりつけ、退けた。


ころがった蛊師こしおこるでもなくさとすようにった:「きたまえ。ともたたかった仲間なかまうしなくるしみはかる。だがおまえきず)だらけだろう。彼等かれら)ため)に生き)びるんだ。手当てあ)てをさせてくれ」


方源ほうげん)だま))み、うつむ)いたかお)かげ)しず)めたまま検査けんさ)を受け)れた。


検査結果けんさけっか)蛊師こし)おどろ)かせた。)まみれの)ため)はん)し、方源ほうげん)からだ)にはきず)一つなかった。


「すまぬがぞく)蛊虫こちゅう)回収かいしゅう)せねば」蛊師こし))びるように血衣ちぎぬ))くると――


角三かくぞう)半開はんびら)きのひとみ)すで)ひかり)うしな)っていた。


蛊師こしれた手付てつきで角三かくぞうまぶたひらき、瞳孔どうこう確認かくにんした。首筋くびすじれるも脈拍みゃくはくは感じられない。


死亡しぼうだ。

完全かんぜんいきまっていた。


蛊師こしなにうたがわず、ためいきをつき角三かくぞう腹部ふくぶてた。


「どの蛊師こし蛊虫こちゅう記録きろくされておる。死後しご遺産いさんとして継承者けいしょうしゃへ……」

わたし)組長くみちょう)蛊虫こちゅう)ぬす)んだと?」方源ほうげん)蛊師こし))))ぐに見返みかえ)す。


蛊虫こちゅう)うば)えばリスクがともな)う。春秋蝉しゅんじゅうせみ)即時煉化そくじれんか)できても、族内ぞくない)処分しょぶん)がた)い。


「そのような意味いみ)では……!」蛊師こし)あわ)てて笑顔えがお)つく)る:「)もの)ため)に、きみ)こそ))びるべきだ」


方源ほうげん)がゆっくり立ち)がる。

病蛇びょうじゃ)遺体いたい)いつく)しむような眼差まなざ)しで凝視ぎょうし)した。


夜風よかぜ)耳元みみもと)かす)める。

「……そなたの)う通り(どお)だ」なが)沈黙ちんもく)やぶ)り、方源ほうげん)つめ)たいこえ)つぶや)いた:「)もの)ため)に、このわたし))つづ)けねばならん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ