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蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
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第八十八節:下馬評・難癖・弾圧

雪原(せつげん)を五(ご)人(にん)の小隊(しょうたい)が疾走(しっそう)する。


古月角三(こげつ かくみ)が空(そら)を見上(みあ)げて言(い)った:「日(ひ)が傾(かたむ)いてきた。腐泥凍土(ふでいとうど)採取(さいしゅ)の任務(にんむ)は単純(たんじゅん)だが時間(じかん)が掛(か)かる。全員(ぜんいん)、ペースを上げ(あげ)ろ。方源(ほうげん)、辛(つら)かったら遠慮(えんりょ)なく言(い)え。新人(しんじん)なら仕方(しかた)ないからな」


角三(かくみ)の笑顔(えがお)は慈(いつく)しみに満(み)ちていた。


方源(ほうげん)は無言(むごん)で頷(うなず)いた。


他の三人(さんにん)の隊員(たいいん)が目配(めくば)せした――実際(じっさい)は時刻(じこく)尚早(しょうそう)で、これは新人(しんじん)への威圧(いあつ)行為(こうい)だった。


彼(かれ)らは真相(しんそう)を悟(さと)りながらも沈黙(ちんもく)を守(まも)った。この手(て)の「新人潰(しんじんつぶ)し」は慣例(かんれい)で、命令系統(めいれいけいとう)を円滑(えんかつ)にするための儀式(ぎしき)のようなものだ。


「行(い)くぞ!」角三(かくみ)が足(あし)を速(はや)め、先頭(せんとう)を切(き)って駆(か)け出(だ)した。


方源(ほうげん)が眼光(がんこう)を鋭(するど)くし、三人(さんにん)と共(とも)に速度(そくど)を増(ま)して追(お)った。


竹皮草履(たけかわぞうり)が雪(ゆき)を蹴散(けち)らし、深(ふか)い足跡(あしあと)を残(のこ)していく。


山道(やまみち)は凹凸(おうとつ)が激(はげ)しく、積雪(せきせつ)が滑(すべ)りやすさに輪(わ)を掛(か)ける。雪(ゆき)の下(した)には鋭(するど)い小石(こいし)や落(お)とし穴(あな)、罠(わな)が潜(ひそ)んでいる――狩人(かりゅうど)の仕掛(しか)けたトラップに嵌(はま)れば最悪(さいあく)だ。


この世界(せかい)で移動(いどう)術(じゅつ)は生死(せいし)を分(わ)ける。新人(しんじん)の半数(はんすう)がここで躓(つまず)く。経験(けいけん)を積(つ)んだ蛊師(こし)だけが、体(からだ)で覚(おぼ)えた反射神経(はんしゃしんけい)で障害(しょうがい)を回避(かいひ)できる。


冷気(れいき)が顔面(がんめん)を殴打(ぼうだ)する中(なか)、方源(ほうげん)は小躍(こおど)りや長駆(ちょうく)、崖登(がけのぼ)りを駆使(くし)して角三(かくみ)の背中(せなか)から離(はな)れない。


雪化粧(ゆきげしょう)した青茅山(せいぼうざん)では、木々(きぎ)が裸(はだか)の枝(えだ)を震(ふる)わせている。時折(ときおり)、人影(ひとかげ)に驚(おどろ)いた松鼠(りす)や鹿(しか)が藪(やぶ)へ逃(に)げ込(こ)む音(おと)が響(ひび)く。

30分後(さんじゅっぷんご)、角三(かくみ)が突然(とつぜん)足(あし)を止(と)めた――目的地(もくてきち)到着(とうちゃく)だ。


振(ふ)り返り方源(ほうげん)を見(み)ながら口角(こうかく)を吊(つ)り上げた:「よくやった!今期最優秀(こんきさいゆうしゅう)の名(な)に恥(は)じぬ。ずっと後(うし)ろを付(つ)いて来(き)たな」


方源(ほうげん)は薄笑(うすわら)いを浮(う)かべたまま沈黙(ちんもく)を貫(つらぬ)いた。この種(しゅ)の「新人潰(しんじんつぶ)し」など百(ひゃく)も承知(しょうち)だ。雪中行軍(せっちゅうこうぐん)は既(すで)に多くの組(くみ)で行(おこな)われる通過儀礼(つうかぎれい)と化(な)している。


二人(ふたり)が立(た)ち尽(づ)くすこと暫(しば)らく、残(のこ)り三人(さんにん)がようやく到着(とうちゃく)した。


ハァ、ハァ……


三人(さんにん)は汗(あせ)まみれで顔(かお)を真(ま)っ赤(か)にし、二人(ふたり)は腰(こし)を折(お)り手(て)を膝(ひざ)に当(あ)て、一人(ひとり)は雪(ゆき)の上(うえ)へ崩(くず)れ落(お)ちた。


角三(かくみ)が眼光(がんこう)を鋭(するど)くして叱咤(しった)した:「恥(は)ずかしくないのか! 方源(ほうげん)殿(どの)を見習(みなら)え!任務終了後(にんむしゅうりょうご)、全員(ぜんいん)反省文(はんせいぶん)を提出(ていしゅつ)させてもらう!」


三人(さんにん)は慌(あわ)てて姿勢(しせい)を正(ただ)すも、視線(しせん)を下(さ)げたまま抗弁(こうべん)もできずにいる。


ただ――方源(ほうげん)を見(み)る彼(かれ)らの眼差(まなざ)しに、微妙(びみょう)な変化(へんか)が生(しょう)じていた。



「まったく、どうなってんだ? 方源(ほうげん)の奴(やつ)、一度(いちど)も転(ころ)びやがらねえ!」

「あいつは化物(ばけもの)だろ……普通(ふつう)の筋力(きんりょく)じゃ太刀打(たちう)ちできねえよ」

「はぁ~、こっちが痛(いた)い目(め)見(み)るなんて……ちくしょう」


「さぁ、気(き)を引き締(し)めろ」角三(かくみ)が谷間(たにま)を指差(ゆびさ)す。「この小谷(しょうこく)が採取場(さいしゅじょう)だ。腐泥凍土(ふでいとうど)を各自(かくじ)で採(と)れ。一時間後(いちじかんご)にここで集合(しゅうごう)だ。空井(くうせい)、工具(こうぐ)を配布(はいふ)しろ」


古月空井(こげつ くうせい)という男(おとこ)が進(すす)み出(だ)した。


手(て)の平(ひら)を上(うえ)に向(む)けて伸(の)ばすと、腹部(ふくぶ)の空窍(くうこう)から黄光(こうこう)が飛(と)び出(だ)し、掌(てのひら)の中央(ちゅうおう)に静止(せいし)した。


光(ひかり)が収(おさ)まると、金背蛙(きんせいがえる)が現(あらわ)れた。


丸々(まるまる)と太(ふと)った蛙(かえる)は真白(ましろ)な腹(はら)を膨(ふく)らませ、目(め)と口(くち)が頭頂部(とうちょうぶ)に押(お)し詰(つ)められた球体(きゅうたい)のような姿(すがた)をしている。


方源(ほうげん)の目(め)が光(ひか)った――二転蛊虫(にてんこちゅう)「大肚蛙(だいとは)」だと瞬時(またた)くに看破(かんぱ)した。


空井(くうせい)の手(て)から赤鉄真元(せきてつしんげん)が糸状(いとじょう)に流(なが)れ出(だ)し、大肚蛙(だいとは)に吸収(きゅうしゅう)される。


「ゲロッ」


大肚蛙(だいとは)が甲高(かんだか)く鳴(な)くと、小型(こがた)のスコップを吐(は)き出(だ)した。


スコップは空中(くうちゅう)で急速(きゅうそく)に巨大化(きょだいか)し、地面(じめん)に落(お)ちた時(とき)には人間(にんげん)の腰(こし)ほどの高(たか)さになっていた。


「ゲロゲロゲロ……」


その度(たび)に一つずつ工具(こうぐ)を吐(は)き出(だ)し、最終的(さいしゅうてき)に雪上(せつじょう)には五本(ごほん)の鉄鍬(てっしょう)と五個(ごこ)の木箱(きばこ)が並(なら)んだ。木箱(きばこ)には麻紐(あさひも)の背負(せお)い紐(ひも)が付(つ)いている。


蛊師(こし)は蛊虫(こちゅう)の飼育(しいく)負担(ふたん)が重(おも)いため、保有数(ほゆうすう)に限界(げんかい)がある。そのため初期(しょき)の蛊師(こし)は単独行動(たんどくこうどう)が難(むずか)しく、偵察(ていさつ)・攻撃(こうげき)・防御(ぼうぎょ)・治療(ちりょう)・後方支援(こうほうしえん)に特化(とっか)した役割分担(やくわりぶんたん)で小組(しょうそ)を組(く)むのが常(つね)だった。


この男(おとこ)の蛊師(こし)・空井(くうせい)は明(あき)らかに後方支援(こうほうしえん)担当(たんとう)だ。彼(かれ)が操(あやつ)る大肚蛙(だいとは)は典型的(てんけいてき)な補給用(ほきゅうよう)蛊虫(こちゅう)で、腹部(ふくぶ)に広大(こうだい)な収納空間(しゅうのうくうかん)を持つ(もつ)。ただし蛊虫(こちゅう)には必(かなら)ず長所(ちょうしょ)と短所(たんしょ)がある。


大肚蛙(だいとは)の欠点(けってん)は、収納容量(しゅうのうようりょう)の制限(せいげん)に加(くわ)え、物(もの)を吐(は)く度(たび)に鳴(な)き声(ごえ)を発(はっ)することだ。戦場(せんじょう)での潜伏(せんぷく)時(じ)に扱(あつか)いを誤(あやま)れば、位置(いち)が敵(てき)に露見(ろけん)する危険(きけん)がある。


更(さら)に蛊虫(こちゅう)自体(じたい)を収納(しゅうのう)できず、毒物(どくぶつ)への耐性(たいせい)もないため、有毒(ゆうどく)な物品(ぶっぴん)の保管(ほかん)も不可能(ふかのう)だ。


工具(こうぐ)が配布(はいふ)され、五名(ごめい)全員(ぜんいん)が鉄鍬(てっこう)と木箱(きばこ)を手(て)にした。


「出発(しゅっぱつ)だ」角三(かくみ)が手振(てぶ)りで合図(あいず)し、真(ま)っ先(さき)に谷間(たにま)へ入(はい)って行(い)った。


方源(ほうげん)は鉄鍬(てっこう)を提(さ)げ木箱(きばこ)を背負(せお)い、別(べつ)の方向(ほうこう)を選(えら)んで進(すす)んだ。


「新人(しんじん)ってのはほんと張(は)り切(き)ってんだな。ハハ」

「腐泥凍土(ふでいとうど)が簡単(かんたん)に採(と)れると思(おも)ってんのか?見分(みわ)け方(かた)も知(し)らねえくせに」

「実際(じっさい)、見極(みきわ)めは難(むずか)しいぞ。普通(ふつう)の凍土(とうど)と色(いろ)が似(に)てる上(うえ)、雪(ゆき)に覆(おお)われてりゃ、新人(しんじん)なんて運(うん)まかせだ」


三人(さんにん)の組員(くみいん)は方源(ほうげん)の後姿(うしろすがた)を見送(みおく)りながら、薄笑(うすわら)いを交(か)わしていた。



しかし1時間後、方源(ほうげん)が木箱(きばこ)いっぱいの腐泥凍土(ふでいとうど)を持(も)ち帰(かえ)って来(き)た時(とき)、全員(ぜんいん)が呆然(ぼうぜん)とした。


角三(かくみ)を含(ふく)めた他(ほか)の組員(くみいん)の木箱(きばこ)は、最大(さいだい)でも半分(はんぶん)しか入(はい)っていなかった。方源(ほうげん)の成果(せいか)を見(み)て、自分(じぶん)たちのを披露(ひろう)するのを恥(は)ずかしがるほどだった。


「全部(ぜんぶ)腐泥凍土(ふでいとうど)だ!」組員(くみいん)の一人(ひとり)が詳(くわ)しく確認(かくにん)し、さらに驚(おどろ)いた。


「方源(ほうげん)さん、どうやってこんなに採(と)れたの?」女性(じょせい)の組員(くみいん)が我慢(がまん)できずに尋(たず)ねた。


方源(ほうげん)は眉(まゆ)を軽(かる)く吊(つ)り上(あ)げ、雪(ゆき)に照(て)らされた瞳(ひとみ)が透(す)き通(とお)って見(み)えた。「学堂(がくどう)で教(おそ)わった通り(どおり)です。腐泥凍土(ふでいとうど)は沼(ぬま)が凍(こお)ってできた資源(しげん)。紫(むらさき)がかった黒(くろ)で、臭(くさ)いが氷(こおり)に封(ふう)じられています。臭屁肥虫(しゅうひひちゅう)の餌(えさ)で、土壌(どじょう)改良(かいりょう)にも使(つか)われます。族(ぞく)では地下溶洞(ちかようどう)の月蘭(げつらん)栽培(さいばい)用(よう)でしょう」


四人(よにん)は言葉(ことば)を失(うしな)って固(こわ)まった。


「知識(ちしき)は教(おそ)わってても実践(じっせん)は別(べつ)なのに……まさか以前(いぜん)採集(さいしゅう)したことあるのか?」三人(さんにん)の組員(くみいん)が顔(かお)を見合(みあ)わせた。


古月角三(こげつ かくみ)は目(め)を瞬(またた)かせ「よくやった」と笑(わら)ったが、その笑顔(えがお)には微妙(びみょう)な硬(かた)さが滲(にじ)んでいた。


「これで任務完了(にんむかんりょう)だ。工具(こうぐ)を空井(くうせい)に返(かえ)して帰還(きかん)しよう」


山寨(さんさい)に戻(もど)ったのは午後(ごご)だった。


内務堂(ないむどう)から出(で)ると、角三(かくみ)は任務報酬(にんむほうしゅう)の元石(げんせき)6個(ろっこ)を分配(ぶんぱい)した。自身(じしん)2個(にこ)、他(ほか)は各(かく)1個(いっこ)ずつ。組員(くみいん)たちは報酬(ほうしゅう)の容易(ようい)さに笑(え)みを浮(う)かべた。


方源(ほうげん)は無表情(むひょうじょう)で元石(げんせき)を懐(ふところ)に収(おさ)めながら、内心(ないしん)で思索(しさく)していた。

〈新人(しんじん)補助(ほじょ)の特例(とくれい)を加(くわ)えても報酬(ほうしゅう)は最大(さいだい)2個(にこ)。私(わたし)の功績(こうせき)で3倍(さんばい)になったのに、均等配分(きんとうはいぶん)とは……雪中行軍(せっちゅうこうぐん)の威圧(いあつ)に続(つづ)く懲罰(ちょうばつ)か〉


一兩(いちりょう)の元石(げんせき)など方源(ほうげん)は気(き)にかけていなかった。ただ一つ(ひとつ)気(き)になっていた――古月角三(こげつ かくみ)とは面識(めんしき)もないのに、なぜ自分(じぶん)を疎外(そがい)するのか?


「まさか……」稲妻(いなずま)のような閃(ひらめ)きが脳裏(のうり)を走(はし)った。

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