表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛊真人  作者: 魏臣栋
青茅山
88/561

第八十八節:下馬評・難癖・弾圧

雪原せつげんにん小隊しょうたい疾走しっそうする。


古月角三こげつ かくみそら見上みあげてった:「かたむいてきた。腐泥凍土ふでいとうど採取さいしゅ任務にんむ単純たんじゅんだが時間じかんかる。全員ぜんいん、ペースを上げ(あげ)ろ。方源ほうげんつらかったら遠慮えんりょなくえ。新人しんじんなら仕方しかたないからな」


角三かくみ笑顔えがおいつくしみにちていた。


方源ほうげん無言むごんうなずいた。


他の三人さんにん隊員たいいん目配めくばせした――実際じっさい時刻じこく尚早しょうそうで、これは新人しんじんへの威圧いあつ行為こういだった。


かれらは真相しんそうさとりながらも沈黙ちんもくまもった。このの「新人潰しんじんつぶし」は慣例かんれいで、命令系統めいれいけいとう円滑えんかつにするための儀式ぎしきのようなものだ。


くぞ!」角三かくみあしはやめ、先頭せんとうってした。


方源ほうげん眼光がんこうするどくし、三人さんにんとも速度そくどしてった。


竹皮草履たけかわぞうりゆき蹴散けちらし、ふか足跡あしあとのこしていく。


山道やまみち凹凸おうとつはげしく、積雪せきせつすべりやすさにける。ゆきしたにはするど小石こいしとしあなわなひそんでいる――狩人かりゅうど仕掛しかけたトラップにはまれば最悪さいあくだ。


この世界せかい移動いどうじゅつ生死せいしける。新人しんじん半数はんすうがここでつまずく。経験けいけんんだ蛊師こしだけが、からだおぼえた反射神経はんしゃしんけい障害しょうがい回避かいひできる。


冷気れいき顔面がんめん殴打ぼうだするなか方源ほうげん小躍こおどりや長駆ちょうく崖登がけのぼりを駆使くしして角三かくみ背中せなかからはなれない。


雪化粧ゆきげしょうした青茅山せいぼうざんでは、木々(きぎ)がはだかえだふるわせている。時折ときおり人影ひとかげおどろいた松鼠りす鹿しかやぶおとひびく。

30分後さんじゅっぷんご角三かくみ突然とつぜんあしめた――目的地もくてきち到着とうちゃくだ。


り返り方源ほうげんながら口角こうかくり上げた:「よくやった!今期最優秀こんきさいゆうしゅうじぬ。ずっとうしろをいてたな」


方源ほうげん薄笑うすわらいをかべたまま沈黙ちんもくつらぬいた。このしゅの「新人潰しんじんつぶし」などひゃく承知しょうちだ。雪中行軍せっちゅうこうぐんすでに多くのくみおこなわれる通過儀礼つうかぎれいしている。


二人ふたりくすことしばらく、のこ三人さんにんがようやく到着とうちゃくした。


ハァ、ハァ……


三人さんにんあせまみれでかおにし、二人ふたりこしひざて、一人ひとりゆきうえくずちた。


角三かくみ眼光がんこうするどくして叱咤しったした:「ずかしくないのか! 方源ほうげん殿どの見習みならえ!任務終了後にんむしゅうりょうご全員ぜんいん反省文はんせいぶん提出ていしゅつさせてもらう!」


三人さんにんあわてて姿勢しせいただすも、視線しせんげたまま抗弁こうべんもできずにいる。


ただ――方源ほうげんかれらの眼差まなざしに、微妙びみょう変化へんかしょうじていた。



「まったく、どうなってんだ? 方源ほうげんやつ)一度いちど)ころ)びやがらねえ!」

「あいつは化物ばけもの)だろ……普通ふつう)筋力きんりょく)じゃ太刀打たちう)ちできねえよ」

「はぁ~、こっちがいた)))るなんて……ちくしょう」


「さぁ、)を引き)めろ」角三かくみ)谷間たにま)指差ゆびさ)す。「この小谷しょうこく)採取場さいしゅじょう)だ。腐泥凍土ふでいとうど)各自かくじ))れ。一時間後いちじかんご)にここで集合しゅうごう)だ。空井くうせい)工具こうぐ)配布はいふ)しろ」


古月空井こげつ くうせい)というおとこ)すす))した。


)ひら)うえ))けて)ばすと、腹部ふくぶ)空窍くうこう)から黄光こうこう)))し、てのひら)中央ちゅうおう)静止せいし)した。


ひかり)おさ)まると、金背蛙きんせいがえる)あらわ)れた。


丸々(まるまる)とふと)ったかえる)真白ましろ)はら)ふく)らませ、)くち)頭頂部とうちょうぶ)))められた球体きゅうたい)のような姿すがた)をしている。


方源ほうげん))ひか)った――二転蛊虫にてんこちゅう)大肚蛙だいとは)」だと瞬時またた)くに看破かんぱ)した。


空井くうせい))から赤鉄真元せきてつしんげん)糸状いとじょう)なが))し、大肚蛙だいとは)吸収きゅうしゅう)される。


「ゲロッ」


大肚蛙だいとは)甲高かんだか))くと、小型こがた)のスコップを))した。


スコップは空中くうちゅう)急速きゅうそく)巨大化きょだいか)し、地面じめん))ちたとき)には人間にんげん)こし)ほどのたか)さになっていた。


「ゲロゲロゲロ……」


そのたび)に一つずつ工具こうぐ)))し、最終的さいしゅうてき)雪上せつじょう)には五本ごほん)鉄鍬てっしょう)五個ごこ)木箱きばこ)なら)んだ。木箱きばこ)には麻紐あさひも)背負せお)ひも))いている。


蛊師こし)蛊虫こちゅう)飼育しいく)負担ふたん)おも)いため、保有数ほゆうすう)限界げんかい)がある。そのため初期しょき)蛊師こし)単独行動たんどくこうどう)むずか)しく、偵察ていさつ)攻撃こうげき)防御ぼうぎょ)治療ちりょう)後方支援こうほうしえん)特化とっか)した役割分担やくわりぶんたん)小組しょうそ))むのがつね)だった。


このおとこ)蛊師こし)空井くうせい)あき)らかに後方支援こうほうしえん)担当たんとう)だ。かれ)あやつ)大肚蛙だいとは)典型的てんけいてき)補給用ほきゅうよう)蛊虫こちゅう)で、腹部ふくぶ)広大こうだい)収納空間しゅうのうくうかん)を持つ(もつ)。ただし蛊虫こちゅう)にはかなら)長所ちょうしょ)短所たんしょ)がある。


大肚蛙だいとは)欠点けってん)は、収納容量しゅうのうようりょう)制限せいげん)くわ)え、もの))たび))ごえ)はっ)することだ。戦場せんじょう)での潜伏せんぷく))あつか)いをあやま)れば、位置いち)てき)露見ろけん)する危険きけん)がある。


さら)蛊虫こちゅう)自体じたい)収納しゅうのう)できず、毒物どくぶつ)への耐性たいせい)もないため、有毒ゆうどく)物品ぶっぴん)保管ほかん)不可能ふかのう)だ。


工具こうぐ)配布はいふ)され、五名ごめい)全員ぜんいん)鉄鍬てっこう)木箱きばこ))にした。


出発しゅっぱつ)だ」角三かくみ)手振てぶ)りで合図あいず)し、)さき)谷間たにま)はい)って)った。


方源ほうげん)鉄鍬てっこう))木箱きばこ)背負せお)い、べつ)方向ほうこう)えら)んですす)んだ。


新人しんじん)ってのはほんと))ってんだな。ハハ」

腐泥凍土ふでいとうど)簡単かんたん))れるとおも)ってんのか?見分みわ)かた))らねえくせに」

実際じっさい)見極みきわ)めはむずか)しいぞ。普通ふつう)凍土とうど)いろ))てるうえ)ゆき)おお)われてりゃ、新人しんじん)なんてうん)まかせだ」


三人さんにん)組員くみいん)方源ほうげん)後姿うしろすがた)見送みおく)りながら、薄笑うすわら)いを)わしていた。



しかし1時間後、方源ほうげん木箱きばこいっぱいの腐泥凍土ふでいとうどかえってとき全員ぜんいん呆然ぼうぜんとした。


角三かくみふくめたほか組員くみいん木箱きばこは、最大さいだいでも半分はんぶんしかはいっていなかった。方源ほうげん成果せいかて、自分じぶんたちのを披露ひろうするのをずかしがるほどだった。


全部ぜんぶ腐泥凍土ふでいとうどだ!」組員くみいん一人ひとりくわしく確認かくにんし、さらにおどろいた。


方源ほうげんさん、どうやってこんなにれたの?」女性じょせい組員くみいん我慢がまんできずにたずねた。


方源ほうげんまゆかるげ、ゆきらされたひとみとおってえた。「学堂がくどうおそわった通り(どおり)です。腐泥凍土ふでいとうどぬまこおってできた資源しげんむらさきがかったくろで、くさいがこおりふうじられています。臭屁肥虫しゅうひひちゅうえさで、土壌どじょう改良かいりょうにも使つかわれます。ぞくでは地下溶洞ちかようどう月蘭げつらん栽培さいばいようでしょう」


四人よにん言葉ことばうしなってこわまった。


知識ちしきおそわってても実践じっせんべつなのに……まさか以前いぜん採集さいしゅうしたことあるのか?」三人さんにん組員くみいんかお見合みあわせた。


古月角三こげつ かくみまたたかせ「よくやった」とわらったが、その笑顔えがおには微妙びみょうかたさがにじんでいた。


「これで任務完了にんむかんりょうだ。工具こうぐ空井くうせいかえして帰還きかんしよう」


山寨さんさいもどったのは午後ごごだった。


内務堂ないむどうからると、角三かくみ任務報酬にんむほうしゅう元石げんせき6ろっこ分配ぶんぱいした。自身じしん2にこほかかく1いっこずつ。組員くみいんたちは報酬ほうしゅう容易よういさにみをかべた。


方源ほうげん無表情むひょうじょう元石げんせきふところおさめながら、内心ないしん思索しさくしていた。

新人しんじん補助ほじょ特例とくれいくわえても報酬ほうしゅう最大さいだい2にこわたし功績こうせきで3さんばいになったのに、均等配分きんとうはいぶんとは……雪中行軍せっちゅうこうぐん威圧いあつつづ懲罰ちょうばつか〉


一兩いちりょう元石げんせきなど方源ほうげんにかけていなかった。ただ一つ(ひとつ)になっていた――古月角三こげつ かくみとは面識めんしきもないのに、なぜ自分じぶん疎外そがいするのか?


「まさか……」稲妻いなずまのようなひらめきが脳裏のうりはしった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ