489.相手の胸を借りることにしました
数的優位が強いには常識ではあるけれど、正直なところこんなにも影響するとはちょっと想像していなかった。
これが力の弱い選手なのであればバランスも取れていただろう、だが強者であれば話が別だ。
ただでさえ拮抗していたパワーバランスがリルという強者を加えた事で一気に崩れる。
圧倒的なスピード、そしてパワー。
口から吐き出される猛吹雪は相手の動きを確実に鈍らせ、リング内に設置された障害物をいとも容易く飛び越えてしまう。
それゆえに大会のセオリーが一切通用せずとんとん拍子に勝ち上がってしまった。
「圧倒的強さ!旅団名にもなる狼が今回も相手を蹂躙しました!」
「テイムモンスターはあくまでもプレイヤーの分身、たとえ強い魔物を引き当ててもそれを手なづけられなければただそこにいるだけですが、これだけ強いとなると今後の参加も考えさせられますね」
「テイマーからすれば死活問題ですから今すぐにというわけにはいかないでしょう。と言いますか、ここまで連携できるとは思っていませんでした」
さすがの解説もまさかリルがここまで強いとは思っていなかったんだろう。
数的優位に立つだけでなく実力も伴っているとなれば相手からすればたまったもんじゃない。
が、それをルールが許している以上それを自重するつもりもないわけで。
「更には旅団名の盾を関するルナ選手も素晴らしい。あの大楯がある限りどんな攻撃も受け止めてしまうという安定感があります」
「盾と言えば大道寺選手も中々ですね。大会においてサブタンクという役割は非常に珍しいのですが、アクティブに動き回りながら攻撃を受け止め、更にはあのメイスをもって敵をなぎ倒す様は気持ちいいの一言ですね。見た目とのギャップもあり、今大会でファンになった方も多いのではないでしょうか」
「それを言えば七扇選手もそうでしょう。レンジャーとしての射撃能力もさることながら、山刀を手に敵陣に殴り込みをかける様子は見た目とのギャップという意味ではかなりの物だと思いますよ」
「それならば須磨寺選手も忘れてはいけません。大会初、運搬人での大会参加ですが情報によると元Bランク探索者だとか、スリングを使った狙撃をしながら的確な指示を出す司令塔としてはこれ以上の物はありません。いやー、どの選手も素晴らしい限りです」
準々決勝も無事に終了。
残すは準決勝と決勝を残すのみだが解説の二人が言うように非常に安定し戦いが出来ている。
誰もが与えられた以上の役割をしっかりとこなしているからこそこれだけの結果が残せているのではないだろうか。
俺達の強みは全員で攻撃できること、後衛でも前に出て戦えるので乱戦になった時に弱点がない。
相手からすればセオリーである後衛からが通用せず、そこにリルと言うジョーカーが突っ込んでくる。
これ以上戦いにくい旅団も他にないだろうなぁ。
更に今大会で彼女達を知った人も多いだろうけど、聞けばファンクラブなる物も出来ているのだとか。
桜さん達はともかく須磨寺さんにまでできていると聞くと色々と複雑な気分になるけれども、なんにせよ皆が好意的にみられているのはいいことだ。
「そして忘れてはいけないのが新明選手でしょう」
「忘れると言いますか忘れたいと言いますか・・・何なんですかね彼は」
「一人で何人分の活躍をするのでしょうか。資料によるとあの『蒼天の剣』代表月城選手も認める探索者だとか。これまで様々な記録を積み上げてきていますが、武庫ダンジョン単独走破記録更新、篠山ダンジョン反乱の鎮圧、梅田宝物庫ダンジョン等の未走破ダンジョンもいくつか走破したようです。棒を駆使した中距離戦闘、魔装銃を使った狙撃、超接近戦でのインファイト、どのレンジにも対応し結果を残しています」
「なにより忘れてはいけないのがスキルの多さです。正直今までの探索者の中でこれほどまでに多彩なスキルを使う人がいたでしょうか。初期登録時のスキルは収奪、強奪よりもランクが下だという事になってはいますが、この結果を見る限りその考えは改めるべきですね」
「現時点で一番相手にしたくない選手の一人に名が挙がっています。これは月城選手に次いでの快挙、まだCランクの探索者がここまで言われるのは本当にあり得ないことです。そんな旅団を率いる彼の今後に来たいしましょう!」
うーん、ここまで持ち上げられるとこそばゆくなってしまう。
木之本さんに言わせれば話題になればなるほどBランクになってからは都合がいいので、今のうちにしっかりと顔と名前を売ってこいとのことだった。
タワマン生活を維持するためにも仕事は必須、ここでしっかり顔と名前を売っていい感じの依頼を回してもらわないと大変なことになってしまう。
「これで、次戦は黒曜岩との対戦が決まりました。超重量級を要する岩城選手のチームを相手にいったいどんな戦いを見せてくれるのでしょうか」
「本選もいよいよ準決勝、次の戦いにご期待ください!」
大歓声を浴びながら会場を後にした俺達は前よりも大きな専用の個室へと移動する。
予選と違って本選に出るだけでも名誉な事、そんな選手を狭い部屋に押し込めておくわけにはいかないという事で大きめの部屋が用意されているらしい。
椅子やテーブルの他、ホワイトボードなんかも置かれているのでしっかりと戦術を共有できるし、更にはシャワールームやベッドなんかも完備、次戦の為にしっかりと休憩を取ることが出来るようになっている。
「みんなお疲れ、次はいよいよ岩城さん率いる黒曜岩が相手だ」
「正直瑠璃の牙が上がってくると思ったんだけど、意外だったね」
「私も氷室さんのチームが勝つと思っていたんですけど、途中で急に魔法の量が減ったように感じました」
「何かあったんでしょうか」
「それは分からないが、なんにせよあの重量級を相手にすることになるのは・・・ちょっときついな」
氷室さん率いる瑠璃の牙は魔法系主体のチームで、弾幕の様に魔法の雨を降らせながらそれをかいくぐるように前衛が突撃してくる。
かなりバランスのいいチームだけれど、後衛さえなんとかしてしまえば倒せるんじゃないかと考えていた。
岩城さん達も同じことを考えていたんだろう、あの弾幕を喰らっても全くひるまず確実に一人また一人と削っていき、勝利を勝ち取っていた。
が、かなりのダメージを受けているのは間違いない。
大会の都合上連戦が義務付けられているだけに俺達からすればチャンス到来、だが岩城さん達の強靭さを知っているだけにこの程度で疲れているとは思えない。
タンクはもちろんのこと、魔術師でさえ強固な鎧を身に着け攻撃を受けながら詠唱を続けて攻撃してくる。
殴っても殴っても決して折れない不屈の精神と、強靭な体。
今までのようにリルでかき回して圧倒、と言うわけにはいかないだろうなぁ。
「なんにせよ相手は初のAランク旅団、胸を借りるつもりで行こう」
「これを超えれば月城さん達との決勝とはいえそこに行くまでがなかなか大変そうです」
「じゃあ氷室さん達の方がよかった?」
「それはそれで大変だともいますけど、比べればまだ何とかなりそうな気はします」
「まぁ、出来うるすべてを用いて戦いを挑むまでだ。ここでスキルを使い切ったとしても決勝にはまだ時間がある、その間に回収すれば・・・なんとかなる」
「大会期間中にダンジョンに潜るなんて和人君ぐらいなものだよねぇ」
「仕方ないだろ、ストックしなきゃ使えないんだから」
ここで出し惜しみして負けては意味がない。
相手は2ランクも上の格上探索者、胸を借りるつもりで最初から全力で行かないと負けるのは確実だ。
戦いまで後数時間、それまでできる限りの準備をしておくとしよう。




