490.今までのようにはいきませんでした
「これより準決勝を開始します!双方前へ!」
審判の合図で両サイドから選手がコートに上がり、真ん中でお互いに睨み合う。
中間でバチバチと火花が散っているような錯覚を覚えるが、途中で岩城さんがニカ!と笑ったところで俺も我慢が出来なくなってしまった。
「なんだよ、笑うなよ」
「仕方ないだろ、そっちが笑うんだから」
「まったく、締まらないやつだ」
「お互いにな。まぁ今回は胸を借りるつもりでやらせてもらうから、よろしくな」
「ここまで余裕で来ておいてよく言うぜ。だが月城と戦うのは俺達だ、お前の快進撃もここまでだな」
「それはどうかな」
お互いにがっちりと握手を交わしそれぞれの場所へと戻っていく。
くそ、握手しながら思い切り握りやがって骨が折れるかと思ったじゃないか。
「大丈夫和人君」
「あぁ、先輩のきつい挨拶を貰っただけだ。相手はAランク探索者、今まで通りにはいかないだろうから気を引き締めていくぞ」
「了解です」
「わかりました!」
「相手は超重量級ばかり、下手に突っ込めば一撃でノックアウトもあり得るから出来るだけ距離を取ってくれ。可能なら状態異常系の攻撃で行きたいんだが、絶対対応してるよなぁ」
「それは間違いないだろうね、防御をガチガチにまとめてパワーで一気に押し切るタイプだからその辺はキッチリしていると思うよ」
「まぁその辺は臨機応変にいくしかないか。こっちは数的有利があるんだ、一気に押し込んでいこう」
お互いに戦い方は分かっている。
向こうも何かしらの対応をしているだろうけど、月城さんと戦うためにはこの人達を超えるしかない。
「それでは準決勝、はじめ!」
今回のフィールドは中央に向かってすり鉢状に低くなっている。
もちろん今までのように障害物の岩はたくさんあるけれど、坂道が思った以上にきつくて降りるたびにぶつかるような感じになってしまう。
「リルは岩の上を移動、ブレスで牽制しながら狙いを定めてくれ!」
「ワフ!」
「ルナはいつも通り、桜さんはルナと一緒に行動してくれ。七扇さん達は岩の上から狙撃を頼む、中央は低くなっているから上から狙撃できるだろ?」
「お任せください」
環境を上手く使ってこその探索者、なぜ中央が低くなっているかはわからないけれど遠距離攻撃の手段を持たない岩城さん達からすればやりにくいはずだ。
「よし、俺も行くか!」
リルが先行して攻撃を仕掛け、遅れてルナ達が中央を進軍。
俺は反対側からオブジェクトをよけつつ敵陣へと切り込んでいく。
例え戦い方がバレていたとしても数的優位があればなんとかなるそう思っていたのだが、実際はそう上手くはいかなかった。
「逃がすか!」
「リル!」
突然岩の上を飛び回っていたリルの体に赤錆色の鎖が襲い掛かり、そのボディをぐるぐる巻きにしてしまった。
何とか振り切ろうとするも鎖が切れる感じは無くそのまま岩の下に引きずり降ろされる。
鎖の主はやはり岩城さんだった。
「俺のバインドチェーンはそう簡単にちぎれないぞ。これで自慢の足は使えまい、どうしたかかってこいよ!」
赤錆びたチェーンはスキルで作られたものらしく、空中に浮いてリルの動きを奪っていく。
もちろん彼女も自慢の爪で襲い掛かるも岩城さんの盾に阻まれて思うようにダメージを与えられないようだ。
「大楯女は無視していいぞ!それよりも奥の二人を何とかしろ!あいつらを抑えればこっちの方が有利だ!」
「「おぉ!」」
どうやら端からルナを戦力とは見ていないようで、桜さん達の横を縫うようにして三人の探索者が坂道を下っていく。
アレだけの重装備にも拘らずあの速度、どんだけ鍛えてるんだよ。
「くそ!ルナはそのまま岩城さんを頼む!桜さんは俺と一緒に・・・」
「駄目です、もう一人います!」
「くそ、初めから分断が目的か!」
桜さんがもう一人に掴まってしまったせいで増援は期待できなくなった。
リルがあの鎖に掴まっている以上まともに攻撃することは難しい、もちろん俺が行けば岩城さんを何とか出来るだろうけどその隙に二人がやられては結局数的不利になってしまう。
かといってルナが行ったところで大したダメージを与える事は出来ないけれども、少なくともリルが集中攻撃されるリスクは無くなる。
光の粒になってブレスレットに戻れないかも考えたんだが、あのスキルによって封じられているのか彼女がその手段を取ることはできないようだ。
最悪ルナだけでもこっちに呼ぶことはできるけど・・・クソ、岩城さん一人でうちの主力二人を抑え込むとかやっぱりただ物じゃないな、Aランクは!
悪態をつきながら急ぎすり鉢状のフィールドを下っていくけれど、岩が邪魔でまともな速度を出すことが出来ない。
てっきり俺達に有利なフィールドなのかと思いきや、どうやらそういうわけではないらしい。
七扇さん達へと向かう重量級戦士三人、もちろん俺を入れれば同数だけど一人は運搬人で一人は後衛なだけに戦力的な部分での不利は大きい。
「くそ、突進スキルが使えないのが厄介だな」
いつもなら突進で一気に加速するところだけど、オブジェクトが邪魔をしているせいでまともに速度を出すことが出来ない。
そうこうしているうちに七扇さん達に三人が迫り・・・。
「やらせないよ!」
「凜ちゃんこっちです!」
突然七扇さん達がいた辺りが真っ白い煙に包まれ、彼女達の姿を見失ってしまう。
その煙はだんだんとこっちへと流れて来て俺も視界を奪われてしまった。
こんなの作戦に入ってなかったぞ、そんなことを思いながらも必死に前へと進んでいくと突然横から何かが突進してきた。
「くそ!敵か!」
油断した所への猛烈なタックルに受け身を取れず、そのまま壁に押し付けられてしまう。
ろっ骨が折れるぐらいの力で体中がミシミシと悲鳴を上げる。
「いたぞ、ここだ!」
向かい合っていれば何かしらの対処も出来ただろうけど、この相手だとシャウトで吹き飛ばすことも難しい。
金属製の鎧が体に食い込み、呼吸すらまともにできなくなる。
くそ、これは予想外だ。
頼みのルナは向こうで捕まり、桜さんはもう一人を抑え込んでいる所。
七扇さんと須磨寺さんは二人で必死に逃げ回っている事だろう。
本選トーナメントがあまりにもサクサク進み過ぎたせいで深くは考えていなかったけれど、これが上位探索者と言うやつだ。
一人だけが強くても意味がない、全員が強くて初めてAランクと言う場所に立つことが出来る。
タイマンすれば俺一人ならどうにかなるだろうけど、二人で囲まれるとかなり厳しいだろう。
だが、こっちもここで終わるつもりはない!
【サンダーバードのスキルを使用しました。ストックは後七つです】
【サンダーバードのスキルを使用しました。ストックは後六つです】
【サンダーバードのスキルを使用しました。ストックは後五つです】
【コンビネーションが発動、強麻痺を使用しました】
押さえつけてくる相手に対してスキルを使用、コンビネーションで強度を上げた麻痺スキルは倒すことは出来なくても動きを止める事は出来る。
「うぉぉぉぉ!!」
スキル効果によって押さえつけていた力が緩んだのを確認して即座に突進スキルを発動、固まった姿勢のまま後ろに押され、そのまま倒れる相手に向かって無数の拳を打ち付けた。
怪力スキルを併用したことで鎧はべこべこ、これで倒すことは出来なくても関節付近を念入りに変形させたので立ち上がることは出来なくなったはず。
とりあえずこれで一人、さぁここから反撃だ。




