483.団体戦が始まりました
「それではこれより全国探索者覇勇戦を開始する!」
この国の偉い人が会場のど真ん中で高らかに宣言すると、会場中のボルテージが一気に上がり大歓声で耳が痛くなってしまった。
右を見ても左を見ても探索者ばかり、一応開会式には高ランク探索者も出席しているのでこのどこかに月城さん達がいるんだろう。
この状況でリルを出すには可哀そうなので彼女は中で待機、ルナは本人の希望で一緒に参加中だ。
「すごい歓声だな」
「え?」
「すごい歓声だって言ったんだ」
あまりに声にすぐ後ろにいたさくらさんにも声は聞こえなかったようで、後ろを振り向き耳元で伝えると驚いたように耳を押さえてしまった。
うーむ、そんなに嫌だったか・・・。
「違うんです!ちょっと声に驚いて」
「ダメだよ和人君、開会式の最中にイチャイチャしたら」
「してないっての」
周りの探索者だけでなく大会を見に来た数万人の観客に見られている中でそんなことできるはず無いだろうが。
「それでは昨年個人戦優勝者、蒼天の剣所属月城ゆずる様より一言頂戴致します。月城様どうぞよろしくお願い致しまします」
どうやら次は月城さんの選手宣誓兼スピーチがあるらしい。
先ほどは男女関係ない歓声だったが、あの人が壇上に上がった瞬間一オクターブ高い黄色い歓声が先ほど以上のボルテージで響き渡る。
これが国の偉い人と国で一番強い人の人気の違いだろうか。
画面に映されたあの人は、これだけの観客に囲まれていても特に臆することなく笑顔を振りまいている。
「皆さんようこそ兵庫へ。昨日まで皆さんと戦えるのを心待ちにしていました。前回大会からダンジョンを取り巻く状況は大きく変わり、北では魔物の氾濫が広がっているという状況が続いています。もちろん関西も安全と言うわけではなく、篠山ダンジョンの氾濫、梅田泉のダンジョンの暴走、北淡ダンジョンなどの新ダンジョンの乱立などが発生いたしました。そんな中でも多く恩探索者が力を合わせることによりそれらは無事に収まり、更に新しい実力者がたくさん生まれています。それこそ僕と肩を並べるような仲間に会うこともできました」
「和人君のことだよ」
「黙って聞いてろ」
話の途中にも関わらず須磨寺さんがちゃちゃを入れてくる。
そんなの言われなくてもわかってる、っていうか月城さんも俺を見ながら言わないで欲しいんだが?
俺はあくまでも兵庫代表のおまけ、そう言う体でいたいんだ。
視線を追ってこっちに観客の意識が向くけれども、同じようにキョロキョロと辺りを見回してカモフラージュしておこう。
「そして、そんな頼もしい仲間たちと共にそれぞれの武勇を競い合うのがこの全国探索者覇勇戦です。まずは団体戦、そして個人戦と続く長丁場の大会ではありますが、それぞれが正々堂々と戦い抜きここにいるすべての探索者が己の実力をここにおられる皆様にお見せするとお約束いたします。どうぞ期待してご覧ください。以上をもって私の言葉とさせていただきます、ありがとうございました」
空気が震えるぐらいの拍手を浴びながら、それにこたえるように手を上げつつ月城さんが壇上から下りる。
これが一級探索者の人気というやつだよ。
拍手がある程度収まってから引き続き偉い人の話が始まり、次いでルール説明が行われた。
①団体戦は5人1チームのトーナメント方式で行われ、全員が行動不能もしくは降参の意思を見せた時点で試合は終了となる。
②目つぶし、急所攻撃、高威力魔法等即死の可能性がある攻撃は禁止、行った場合は警告が入り二度の警告を受けると退場となる。
③試合時間は十分、それまでに決着がつかなかった場合は残った人数で勝敗が決まり、同数の場合は延長戦が行われる。それでも決まらない場合は代表者による代表戦にて決着をつける。
④コートから落ちた場合は場外失格となるが、攻撃などでコートが破壊された場合は使用を中断し再度新設されたコートで再試合が行われる。
⑤故意に手を抜いた場合は失格となる
突出するならばこんな感じだろうか、この辺は事前に確認しているので問題は無し。
予定通り俺・桜さん・須磨寺さん・七扇さん・ルナの五人がエントリーして、リルと毛玉はテイムモンスターとして参加する。
事前エントリー制なので特に問題は無いけれども、予選トーナメント終了後に本選トーナメントに向けてメンバー入れ替えが認められているので、敗退チームからの合流なども少なからずあるらしい。
もっとも、俺達は参加するメンバーがほかにいないので言い換えると何かあった時に少ない人数で戦わなければならない。
その辺が他所よりも厳しい所だが、まぁチームワークを考えると下手に助っ人を入れるよりもこのままの方がいいのかもしれない。
「以上をもって開会式を終了します。予選トーナメントは三十分後、各ブロックにて行われますので参加するチームは遅れないように会場へ移動をお願いいたします」
そんなこんなで開会式は無事終了、いよいよ予選トーナメントが始まるわけだが・・・。
「和人君、始まる前にフードコート行ってきていい!?」
「あ!私も行きたいです!」
「いや、別にいいんだけどさ。なんで今なんだ?」
「期間限定のショップが来てるんだよ!これを逃したら絶対買えないし、始まるまでに戻ってくるから!」
「お願いします!」
なんだろうこの緊張感のなさ。
予選トーナメントよりもフードコートの限定ショップの方が大切らしい。
そりゃまぁ緊張で全く動けませんっていうよりかは何倍もいいんだけどさ、それで間に合わないとかマジで勘弁してくれよ。
ダッシュでフードコートのある方へと走っていく桜さんと須磨寺さん、それを七扇さんが温かい目で見送っている。
「なんていうかマイペースだなぁ」
「いいじゃないですか、緊張するより」
「それはそうなんだけど・・・って、七扇さんはいかないのか?」
「私の分も買ってきてくれるらしいので」
「って食うんかい!」
「だって普段は二時間ならばないと食べれない限定ショップですよ?それが探索者専用のフードコートに出てとなればいかない理由はありません」
「・・・さよか」
どうやら七扇さんも向こう側の人間らしく、なんならルナの分も桜さんが手配してくれるようなので彼女もまたそっち側。
俺の味方はリルだけだよと思いながらも、彼女もまた肉につられてフラフラといってしまいそうなのでまだブレスレットで控えてもらっている。
登場は相手の実力を見てから、そこまで強くなさそうなら予選会ではあえて温存するのもアリだと思っている。
それなりに知名度はあるつもりだけど、月城さんのように全国区ではないのでリルの事を知らない人もいるだろう。
そんな相手に対していきなりリルが出てきたら動揺を誘えるはず、大会運営には登録しているので調べれば出てくるけれど、対戦相手はその時にならないとわからないだけにギリギリで見つけるのは難しいはずだ。
なんにせよ、緊張しすぎず更には気を抜きすぎないのが大事。
そういう意味ではちょっと気が抜けている気もするけれども、これが俺達の平常運航と言えば平常運航か。
「それではこれより予選トーナメントを開始する!」
そんなこんなで団体戦が開始、俺達が出場するのは第三会場だ。
今の所知り合いの姿は無いが・・・まぁ大丈夫だろう。
「第一試合、白狼の盾対サンライズ!参加者はコートへお願いします!」
「って、第一試合かよ」
「まぁあるあるだよね」
「でも最初の方が緊張しなくていいかもしれません」
「そうですね、凄い戦いの後だとやりづらいですから」
まさかの第一試合、相手は屈強な禿げ頭の皆様たち。
サンライズ・・・いや、まさかな。
かくして、素晴らしいスマイルを浮かべる五人組との戦いが、今始まった。




