481.大会の準備をしました
「お買い上げありがとうございました」
ホクホク顔の鈴木さんに見送られてドワナロクを後にした俺達は、その足で予約しておいたギルドの練習場へと向かっていた。
皆新しい装備を早く試したい様子、そんな中俺だけが一人浮かない顔をしていた。
「そんな顔してもダメだよ和人君」
「いや、わかってるんだけどさぁ・・・」
「和人さんは大きい買い物したばかりですから。それに、自分の装備ぐらい自分で買います」
「通常よりもかなり安くしてもらっていますので大丈夫ですよ」
そんな俺を気遣って桜さん達が声をかけてくれるけれども、個人的には納得できていないわけで。
今回の買い物だが、自分のグローブがなかなか高価だったこともあり皆の分まで購入することが出来なかった。
一応旅団用のお金も貯めているのでそこから捻出することも考えたんだが、個人で使う物だからという事で彼女達がそれを拒否。
結果、それぞれが鈴木さんの手配してくれた装備を買う事で決着がついた。
そりゃローン地獄の俺と違って彼女達はお金を貯めているかもしれないけれど、旅団で使う装備は旅団のお金で支払いたいという俺の小さなプライドが脆くも崩れ、こんな風に不貞腐れているというわけだ。
相変わらずいい装備を持ってきてくれるとはいえ、その分値段は高価なものばかり。
はぁ、もっと稼げるようにならないとなぁ。
「まったく、困ったリーダーだなぁ。落ち込むの終わり!わかった?」
「・・・わかった」
「よろしい。良いじゃない、装備が強化されたことで更なる強さを増した僕達を間近で見られるんだからさ」
「そういう事にしておくよ」
「それじゃあ後はこれを使いこなせるようにするだけですね。全国探索者覇勇戦まであと一カ月弱、対人戦ですから基本はこのメンバーで練習することになりそうですけど、大丈夫ですかね」
「というと?」
「凜ちゃんは同じ人と戦うと癖がつくんじゃないかって心配しているんだと思うよ」
ふむ、確かにそれは一理あるな。
対戦相手に手の内を見せないのももちろん大事だが、下手な癖がついて攻撃に対処できなくなるのはもっと困る。
じゃあどうするんだっていう話になるんだけど、一応それには考えがあるので慣れてきた所で移動すればいいだろう。
とりあえず練習場に移動して新しい装備の使用感を確認、俺は拳を使っての攻撃を優先して防具を動きやすい物に変更した。
ベースになる装備はそのままにより素早く動けるようブーツを素早さUPの効果が付いたシューズに変更、更に鎧を胸当てに変えることでよりアクロバティックな動きを再現できるようになった。
防御は自前のバフで補いあくまでも攻撃主体、団体戦になったら棒に変更して中距離からの戦闘を意識する。
桜さんはサブタンクとしての立ち位置を変えずに魔法系の強化を選択、メイスはそのままに精神力と魔力をUPさせるアクセサリーを付けて全体的な底上げを取ることにした。
七扇さんはマチェットをシャムシールに変更、長さを増しつつ軽くなるのでよりアグレッシブな動きをすることが出来る。
あえて人気の麻痺ではなく遅延の状態異常を選択したことで相手に対応しづらいようにもしてある。
一番変わったと言えばやはり須磨寺さんだろう。
運搬人でありながら持ち前のスタミナと収納スキルを使って大量の玉を打ち出す固定砲台へと進化、元々戦局を見る目が養われているので後ろから俯瞰しつつ仲間に指示を出し、更に攻撃をするという戦闘型司令官的なポジションをお願いしている。
流石に相手もまさか運搬人が戦うとは思わないだろう、その油断が命取りと言うやつだ。
因みにルナとリルはそのまま、っていうか変えようがなかった。
しいて言えば来る月城さんとの戦いに向けて毛玉のチャージを増やしておきたいところだけど、それをするには前みたいな雪盲ダンジョンに行かなければならないのでちょっと現実的ではないな。
「ふむ、中々悪くないな」
「だね、これならいいとこ行くんじゃないかな」
「いいとこじゃ困る、俺達の目標はあくまでも優勝だ」
「優勝!?大きく出るねぇ」
「それぐらいの気持ちで挑まないとだめってことですよね」
「そういう事。とはいえこれだけの布陣で来られたら相手も攻撃しづらいだろう。鉄壁のルナ、移動要塞の桜さん、状態異常の七扇さんに固定砲台の須磨寺さん、そんでもって遊撃担当のリルとオールラウンダーの俺。基本的にバフメインで行くけど、必要に応じてデバフも使っていくし接近戦になったら一気に前に出るからその場合のフォローは任せた」
桜さんとルナ、リルと須磨寺さんの役割は固定。
俺と七扇さんは時に遠隔武器、時に接近戦と攻撃レンジを変えながら戦えるのが非常に強味になるだろう。
攻撃役ばかりに見えて実は回復もサポートも出来るとなれば敵からすれば恐怖しかない。
少々の怪我はともかく状態異常は毛玉が回復してくれるのでそれらを臆せず戦えるのは非常に心強い。
五人制と言いながら実際七人分の役割分担が出来ているので後は戦況次第で柔軟に対処すればいい所まで行けるんじゃないだろうか。
「総攻撃に出たら僕以外の全員が前衛、そんなパーティーとは戦いたくないなぁ」
「とはいえ魔法防御には弱いからその辺の対処をどうするかだな。火属性はブレスで何とかなるとして、それ以外がやっぱり厳しい。プックンの吸収も毎回使えないし、俺のスキルにも限界があるから極力魔法使いから先に狙うしかないだろうな」
「でもそれが定石だから色々と対策してるはずだよね」
「普通はな。後はそれをどうかいくぐるかだが・・・この辺の経験値が少ないんだよなぁ」
複数戦闘において後衛もしくは魔法使いから攻撃するのは基本中の基本、それをさせないために事前に色々と対処しているだろうからそれをどうかいくぐっていくかがポイントとなる。
力業なのか、それとも対策の対策なのか。
それらをどう使っていくかが参加チームの特色と言うやつだ。
「そもそも前衛がバッファー兼サポーターな時点であれですけどね」
「加えてフェンリルを従えていて即時帰還できるタンク持ち。新明さん一人で五人分ぐらい働いている計算になります」
「いやいや、俺一人じゃどうしようもないって。皆がいるから安心して特攻できるわけだし、引き続き頼りにしてる」
「まっかせといて!」
俺一人で対処できるのはせいぜい二人、複数戦闘の場合はいかにフリーの人間を作るかが重要になってくる。
集団戦はチームワークが命、本番までの一カ月弱はひたすらそこに注力する必要があるだろう。
「では引き続き連携の確認と、それから対人戦の練習。和人さんはバフやデバフのタイミングについて研究しておいてください」
「了解。どのスキルを収奪しておくか目星をつけておく」
「いざとなったらハウススキルでひきこもる!ってのもアリかもよ。ほら、ドラゴンのブレスにも耐えるわけだしそこにいれば安心じゃない?」
「それはちょっと面白くないかなぁ綾乃ちゃん」
確かにその方法も考えたけれども、それだと実力として認めてもらえそうにないのでやはり自前で何とかするしかないだろう。
そんなこんなで無事に装備を新調した俺達は、来るべき時に備え鍛錬を続けるのだった。




