476.真の実力を目の当たりにしました
いよいよ明日、書籍版の発売日になります。
もしよろしければ手に取っていただければ幸いです。
本編もどうぞお楽しみください。
まばゆい閃光に目の前が真っ白になり辺りが見えなくなる。
今は戦闘中、しかも強くなった階層主戦の真っ最中だ。
この状況で襲われたら回避は不可能・・・なんだけども、何故か奴が襲ってくる気配がない。
慌てて目を閉じた瞼越しにも見える閃光、それが少しずつ収まってきたのを確認してゆっくりと目を開けるとまだ辺りは白っぽいけれど何となくどこに誰がいるかはわかるようになってきた。
とりあえず桜さん達は無事のようで三人固まっている。
となると、向こうに見える黒いのが階層主。
まさかあんなに強くなるとは思わなかったが・・・、正直撤退するかどうかギリギリの所だよな。
戦えないことは無い、だが余裕はない。
幸いスキルは使えるようになってけれども威力が半減したことでまともにダメージを与えられているかがわからない。
この場面でルナが引っ込んでしまったのが辛い所だが、無茶をさせるわけにはいかないのでまだ待機してもらうしかないだろう。
それよりも気になるのはリルだ。
毛玉がリルに合図をして起きたこの閃光・・・って、彼女はどこだ?
慌てて辺りを見回すと収束していく光の中心に、真っ白い人影を見つけた。
純白の毛並みにふさふさの尻尾、そして階層主のような獣耳。
頭の上でピコピコ動いているのだが、その動きはどことなくリルの動きに似ている気がする。
毛玉の鑑定結果は相手の能力を最大限までアップさせること、という事はフェンリルの最終形態になるはずなんだが3mを超えるような巨大な狼の姿はどこにもない。
あるのは桜さん程の背丈をしたあの白い人だけ。
って、まさか!
「リル・・・なのか?」
俺の声にその人の耳がピピピ!と動き、勢いよくこちら振り返る。
「うん!」
西洋風の整った顔立ち、まるで彫刻から飛び出してきたような洗練されたその表情にどことなく野生の臭いのようなものを感じる。
なんだろう、美しいだけじゃない、強くて美しいそんな感じなのだが俺の方を振り向き返事をするさまは無邪気な子供のような感じすらあった。
ふさふさの毛皮は変わらず大きな尻尾は喜びで大きく揺れている、それでもふくよかな二つのふくらみがツンと前に突き出し、しっかりと女性であることをアピールしていた。
見てはいけないと思いながらも、あまりにも美しすぎて目が離せない。
それは性的な感じではなく肉体的な美しさがそうさせているのかもしれない。
「え、リルちゃん!?」
「でもフェンリルの最終形態って大きな獣の姿じゃ・・・え?人なんですか?」
「綺麗・・・」
リルの返事に桜さん達が大騒ぎをしている。
そんな気の抜けた状況にもかかわらず階層主が襲ってこないのは、間違いなく彼女を警戒しているからだろう。
離れていてもわかるいつもと違う雰囲気、そして威圧感。
よくみると、彼女の足元から白い靄のようなものが沸き上がり周囲の空気がキラキラと光り輝いていた。
そんな彼女が体を隠す事もせずニコニコと微笑みながらこちらに近づいてくる。
「なんだかよくわからないが・・・リルなんだな」
「そうだよ」
「一緒に戦えるか?あいつを何とかしなきゃならないんだ」
「アタシがいればもう大丈夫」
「ん?」
「ここで待ってて、プックンがくれた力ですぐに終わらせてくるから」
あのリルと話をしている、そんな事実に驚く間もなく彼女はくるりと踵を返すと黒い魔術師に向かって歩き出す。
それと同時にドンドンと彼女の周りを漂っていた靄が増え、彼女体を包んだかと思ったら掻き消えると同時に氷でできた鎧を身にまとっていた。
両手には小手のようなものをつけ、それをチラッと確認すると段々と速度を上げていく。
それに気づいた魔術師も彼女を迎え撃つために拳を構え・・・たはずなのに、気づけば吹き飛んでいた。
「は?」
余りの速さに何が起きたのかわからなかったが、彼女が拳を突き出していたところを見るとあの一瞬で近づいて殴りつけたんだろう。
それでも倒しきれなかったのが不満なのか、右手をくるくると回転させながら首をかしげる。
いや、俺達が今までどうにもできなかった相手をワンパンで吹き飛ばしたんだぞ?
それの何が不満なんだ?
吹き飛んだ魔術師の方も慌てて起き上がり先ほど以上に慎重に拳を構える。
見た目はまるでボクサー、両肘を顔の近くまで上げてしっかりとガードをするつもりのようだ。
「アタシの和人を傷つけた、それは絶対に許さない」
そんな魔術師相手にリルの氷のように澄んだ声がホールの中に響き渡る。
いつもワフワフ言っていたのに、こんな声をしているのか。
そんな彼女の姿に見惚れていると、気づけば桜さん達がすぐ横に立っていた。
「私の和人、だって。愛されてるねぇ」
「これは愛されているっていうのか?」
「そうだと思いますよ。だって、和人さんが襲われた時真っ先に動いていましたから」
「・・・羨ましい」
「和人君、見たいのは分かるけどあまり見すぎちゃだめだよ」
階層主戦の最中だというのに何て気の抜けた会話なんだろうか。
さっきまで死に物狂いで戦っていたっていうのにこの余裕、それも彼女があまりにも強すぎるせいだ。
あの魔術師をまるで子供を相手にするかのようにボコボコにしている。
余りの素早い動きに動揺することもなく的確に一撃を入れ、あの魔術師を壁際まで追い込んでいく。
殴って蹴って圧倒的な力でもって階層主を追い込んでいくのはすごいの一言、普段でも十分頼りになるけれどこんなにもすごい力を隠し持っていたのか。
これがフェンリルの・・・いや、リルの本当の強さなんだろう。
そんな一方的な戦いについに魔術師が膝をつき、リルが止めとばかりに拳を振り上げたその時だ。
「和人!」
「ん?」
「収奪、する?」
そのままの体勢でこちらを振り向き、無邪気な笑顔を向けてくるリル。
こんな状況にもかかわらず俺の事を気にかけてくれるのか。
「あぁ、すぐにいく」
「わかった!」
拳を降ろしたかと思ったら、そのまま魔術師の背中を蹴り倒れたやつの首を右足で押さえつける。
表情と行動が全く一致していないが・・・まぁ、倒せたらなんでもいいか。
「すごかったな」
「だって和人をいじめたから、その仕返し」
「そうか、ありがとな」
「えへへ、褒めて褒めて」
道を歩けば誰もが振り返るような美貌の女性が、まるで子供のように無邪気な顔を向けてくる。
本来ならあり得ない状況にも、相手がリルだと思うとついいつものように頭を撫でてしまった。
気持ちよさそうに目を細め、お尻の大きな尻尾が大きく揺れる。
「和人の手、気持ちいい」
「そりゃよかった」
「アタシ強かった?」
「あぁ強かったぞ」
「強いと嬉しい?」
「それはもちろん、だがいつものリルも強いからな」
「えへへ」
褒められて喜ぶさまは幼い子供のよう、だが何とか逃げ出そうともがく魔術師の首を容赦なく押さえつけているのもまた事実。
いい加減こいつを倒してしまわないといつ彼女が元の姿に戻るかもわからない、というわけで早々にスキルを収奪して倒してしまおう。
【反転の魔術師のスキルを収奪しました。反転、ストック上限は後九つです】
収奪できたのは予想通りのスキル。
俺がスキルを収奪したことが分かったのか、満足そうにうなずいたかと思ったら容赦なく魔術師の背中に拳を撃ちこんだ。
そしてそのままズブズブと地面に吸い込まれて消えていく。
残されたのは奴が身に着けていたローブと、複数の小瓶、それと杖。
例えスキルの効果が半減されたとしても、それを上回るだけの圧倒的な火力でそれをねじ伏せてしまえば問題ない。
力こそパワー、そのセリフがふさわしい圧倒的な勝利だった。




