475.彼女の成長した姿を目撃しました
ルナの力をもってしてもあの光の玉は防げなかったんだろう。
二人して部屋の中を転がるも、さっきのように傷を負うことは無かったようですぐに立ち上がることが出来た。
が、ルナの大楯は大きく凹み彼女自身もぐったりしている。
「ルナ、中で休んでろ」
俺の言葉にフルフルと小さく首を横にフル彼女だったが、それでも体が自由に動かないのか立ち上がることはできないようだ。
「次に危なくなったときにまた守ってもらわなきゃ困るんだ、頼むから休んでいてくれ」
そっと肩に手を乗せると渋々と言う感じで頷き光の粒となって指輪の中に戻っていった。
その状態でも戦闘は継続中、黒猫はリルと桜さんが相手をしているけれど致命傷を与えるほどではないらしい。
そもそもアイツは何なんだ?
戦闘を開始してそれなりの時間も経っているし、そろそろ鑑定スキルが使えてもおかしくない。
が、それを使おうにもスキルは封じられているわけで・・・まったく面倒なギミックだ。
だが幸いにも魔術師はさっきの魔法を連発出来ないのか動きは無い。
となればやることは一つ。
「今のうちにこいつを叩くぞ!」
「今日二回目のふっとばされだね、和人君」
「おかげさんで二度目は無事だ。だがルナの損傷が激しいから戻ってもらった」
「それでいいと思うよ。こいつももう終わりそうだし、後は本体だけだね」
「だといいんだが」
二体目がこんなに弱くていいのだろうか。
そんな不安を感じながらも、黒猫を数の力でねじ伏せついにその体が地に伏した。
【ブラックリオーネのスキルを収奪しました。双爪撃、ストック上限は後九つです】
スキルを収奪し、体が地面に吸い込まれていくのを確認してから魔術師の方を見る。
予想通りバリアがなくなり、スキルも解放されているようだ。
何が起きるかはわからない、だがこのタイミングに全力であいつを叩く!
「ぶちかませ!」
全員にバフスキルをばらまき、更には自分にもバフをかける。
【ミノタウロスのスキルを使用しました。ストックは後二つです】
【ミノタウロスのスキルを使用しました。ストックは後一つです】
【ミノタウロスのスキルを使用しました。ストックはありません】
【コンビネーションが発動、覇腕を使用しました】
今できる最大の火力に引き上げ、こぶしを握り一気に接敵。
桜さんも魔法を連発し、七扇さんと須磨寺さんが別方向から援護射撃を行う。
【ブラックリオーネのスキルを使用しました。ストックはありません】
【マジックブックのスキルを使用しました。ストックは後三つです】
【マジックブックのスキルを使用しました。ストックは後二つです】
【マジックブックのスキルを使用しました。ストックは後一つです】
【コンビネーションが発動、火球(中)を使用しました】
加えて手に入れたばかりの攻撃スキルを含めて全て使用、今できる最大の攻撃、これで奴を仕留められる・・・はずだった。
攻撃が命中し爆炎と共にスキルが反転、真っ白い猛吹雪が辺りを覆い尽くした。
それでも攻撃の手は止めない、殴って殴って殴りまくって・・・そこで相手がいなくなった。
「あれ?」
魔術師は動かない、そのはずなのにさっきまでいた奴が目の前にいない。
リルも相手を見失ったのか横でキョロキョロと辺りを見回している・・・。
「キャヒン!」
かと思ったら、突然悲鳴と共に視界から消えた。
くそ、どいいう状況なんだ?
最大火力をぶつけたせいで目の前は真っ白、だが確実に何かよくないことが起きている。
ヤバくなったらリルも光の粒となって戻ってくるはず、そうじゃないという事はまだ大丈夫・・・だと信じたい。
「キャァ!」
「凜ちゃん逃げて!」
「駄目、防ぎきれない!」
と思ったら今度は桜さん達から悲鳴が上がる、慌ててそちらの方に走り出すと右側からものすごい嫌な気配を感じ慌てて両手で顔を守った。
と、同時に物凄い力で横から殴られ体が吹き飛んでく。
今回はちゃんと防げたので大けがは防げたが、あまりの力に腕の骨がミシミシと悲鳴を上げるのがわかった。
それでも何とか着地、そこへ桜さん達が集まってきた。
「みんな無事か!」
「なんとか!」
「あいつ、ものすごく強くなってます」
「強く?」
「体も真っ黒になって、まるであの黒猫と合体したみたいです」
まだそいつの姿を見ていないのでよくわからないがなんにせよあの魔術師が反撃し始めたのは分かった。
いつまでもやられっぱなしというわけではないのだろう、ギミックを超えればまた別のギミックが出てくる。
まったく、困ったもんだ。
白い靄が吹き飛ばされその向こうに現れたのは先程の魔導士・・・ではなく、頭の上に猫耳の生えた別の存在。
まるで武闘家の様に引き締まった体、ローブの下にこんなものを隠していたとは。
「これが第二形態ってやつなのかな」
「それはそれで厄介だが、少なくともバリアは無くなったらしい」
「そうでもないかも」
「は?」
「スキルは使えるんですが、威力が弱くなっている気がします」
「マジか」
威力が弱まるって、スキル封印の次は弱体化かよ。
まったく、何でもありだなここの階層主は。
確認をする間もなく魔術師(格闘モード)が猛スピードで接近、高速で繰り出されるこぶしをギリギリで受け流しつつタイミングを見計らって突進スキルを使用した。
【恒常スキルを使用しました。突進、次回使用は十五分後です】
両手でお互いの手と手を合わせながら突進スキルを発動、いつもなら3mぐらい余裕で押してくれるのに今回進んだのは僅か1m程度、威力が弱くなったのかそれとも向こうの力が強いのかはなんとも言えないけれども、個人的には後ろから押される力が弱くなっている気がする。
「グァゥ!」
「ナイスリル!」
「炎行きます!」
「威力が弱まろうと攻撃は攻撃だ、反撃させるな!」
突進の効果が切れ、今度はこっちの番だと言わんばかりの力で上から押さえつけてくるのを横からリルがとびかかってきてくれたおかげで何とか回避、そこへ桜さんの魔法が炸裂したが確かに最初より炎の勢いは弱い気がする。
再び吹雪が吹き荒れるも視界がゼロになる感じはなかった。
「くそ、この人数で押してもダメなのかよ」
向こうは一人、こっちは五人。
それでも圧倒するどころか向こうが押してきているような感じすらある。
これはもしかしてヤバいか?
今までは収奪スキルで何とかやってこれたけど、それを生かせない今俺のアイデンティティは風前の灯火だ。
ここはいったん撤退して対策を考え・・・。
「しまった!」
余計な事を考えているのを察したのか、桜さんに殴り掛かっていたはずの魔術師がすぐ真横に立っていた。
慌てて両手で拳を抑えるも、がら空きのボディめがけて奴の膝がめり込み体の中で何かが折れる音が聞こえた気がした。
血と内容物をを吐きながら腹を抑え、それでも最後の力を振り絞って火球を放つ。
くそ、早くポーションを飲まないと。
だが、それを奴が許すはずもなく火球を反転した吹雪をかき分けながらすぐ目の前に奴の拳が迫っていた。
あれは流石に死ぬ。
迫りくる拳を見つめながらどうにかしてこの危機を脱しようと必死に頭を巡らせたその時だった。
「グァゥ!」
「リル!」
吹雪の中を突っ切ってリルが再び登場。
奴の右前腕に噛みついたことで何とか直撃を免れた。
だが、俺を守ったせいで隙が大きくなり俺と同じく膝が彼女のボディにめり込むのが見える。
あれはやばい、今すぐブレスレットの中に戻って回復を・・・。
「あれ?」
確かにめり込んだはずの膝、だがそこには本来あり得ないものがあった。
毛皮の中から飛び出す二本の手、小さくか細いはずのソレがあの強烈な膝を抑えるどころか、それを押し返そうとしている。
「プックン?」
押し返しながら毛皮から姿を見せた毛玉、その体は真っ白い光に包まれていた。
いつもとは違う状態に全員が目を奪われる。
もしかしてこれが成長し終えた状態なのか?
【・・・成長を終えると一時的に隷属した相手の能力を最大限までアップさせることが可能】
たしか鑑定した時にこんな文言があったはずだ。
あの後もリルと一緒に猛吹雪を浴びていたはず、となると成長率が100%になっていてもおかしくない。
想定外の状況に慌てて距離を取る魔術師と光り輝く毛玉。
「わふ?」
その毛玉はリルに向かって合図をすると、真っ白い閃光となり彼女の体を包み込んだ。




