323.白い魔物に襲われました
宝物庫『雪盲』、その名にふさわしく扉の向こうは1m先も見えない猛吹雪の世界だった。
それでも不思議と足元の雪は少なく、とりあえず歩くことはできる。
足元の雪が多かったらルナも大楯が除雪機のようになってしまっただろうけど、このぐらいであれば特に問題なく進めるようだ。
雪が降れども足は埋まらずそれがいいのか悪いのかは別としてとりあえず先に進めるのはありがたい。
リルは少し先を走り回って周囲を警戒、ルナを盾にするような形で俺達も歩みを進める。
試しに持ってきた気温計はマイナス10度を表示、冷気耐性のおかげで何も感じないけれどこれが無かったら物の数分で引き返していたことだろう。
氾濫前の篠山ダンジョンもこんな感じだっただろうか、そりゃ月城さんたちが引き返すわけだよ。
「ん?」
しばらくすると少し先を偵察していたリルがこちらに走ってくるのが大楯の隙間から見えた。
戻ってきたという事は何かあったという事、ルナもそれを察したのか中腰になり大楯を構えなおす。
俺の横に並び牙をむいて正面をにらみつけるリル、だがいつまでたっても敵の姿が見えてこない。
「なんだ?」
警戒は解かない、少しの油断が命の危機に直結するとわかっているから。
だがいつまでも緊張しすぎるのは無駄に体力を使う事にもなるわけで、そんなことを思った次の瞬間真っ白い吹雪の向こうから同じく白い何かが俺の頭めがけて飛んできた。
慌てて頭を下げルナの背中に身を隠す。
それを合図に無数の白い何かが投げ込まれ、ドンドンと大楯に当たり砕ける音が鳴り続ける。
「くそ、いったい何なんだよ」
「ワフ」
「リルにもわからないのか?」
「クゥン・・・」
何かを察して戻ってきたリルだがその原因はわからないまま、何がこの白い物を投げているのかさっぱりわからない。
ためしに転がっているものを手に取るも雪でも氷でもなく、握っても崩れることはなくスライムのように指の間からはみ出してしまう。
雪玉を投げてくる魔物だったらイエティがいたけれど、もしかするとその系統なのかもしれない。
いや、違う。
こいつそのものが魔物か!
【フレイムホースのスキルを使用しました。ストックは後九つです】
宝物庫がものすごく寒いという事は事前にわかっていたので今回の探索のために城崎ダンジョンへと足を運び、それ系のスキルを収奪しまくった。
もちろんバフスキルは残しているけれども、鼓舞スキルはあえて封印して代わりに攻撃系のスキルを増やしている。
水走スキルはもちろん外して代わりに別のスキルを恒常化、これが吉と出るか凶と出るかはなんとも言えないけれど直接命にかかわるだけに使用制限がないのは非常にありがたい。
ともかくだ、こいつらは雪じゃなくて魔物。
それに気づき火纏いの効果で全身を炎に包むと手に持っていた白い何かが手の中で大暴れし、そして溶けて消えてしまった。
やっぱりか。
雪に擬態して襲い掛かるつもりだっただろうがそうはいかない、全身を燃やしながらルナの横から飛び出し降り注ぐ魔物を溶かしながら先へと進む。
【フロストブレンダを収奪しました。吸温、ストックは後九つです】
途中溶けて消えてしまう前にスキルを収奪、なるほどこういう名前の魔物だったのか。
スキルから察するに近づいて体温を奪い動けなくするのかもしれないけれど、残念ながら俺達には全く効果はない。
とりあえずそれ以外の攻撃手段はなさそうなので氷装の小手から簡易の盾を出して遠慮なく雪玉に突っ込んでいく。
こいつらは自分で動くことはできない、という事はこいつらを投げてきている奴が別にいる。
真っ白い視界の中、横を歩くリルと共に盾を構えつつ進むとふと足元に揺れる影があることに気が付いた。
慌てて上を見るとそこにはふわふわと浮かぶ何かがいる、リルに目配せをしてから棍を上に伸ばして火水晶の魔力を爆発させた。
「ギィィィィ!」
悲鳴を上げながら落ちてきたのは1m行かないぐらいの小さな小鬼、プスプスと白煙を上げながらも鋭い目つきでにらみつけてくる。
「お前が先に手を出してきたんだろ、そんな目で見るなよ」
たとえ相手が子供のように小さくても魔物は魔物、リルが容赦なくその頭を踏みつぶし体が雪の下に沈んでいった。
いつもならすぐに気づけただろうけどこの猛吹雪のせいですぐ上の魔物にすら気づけないなんて予想以上に環境が悪い、冷気耐性が無ければ気づかないうちにあの魔物に体温を奪われて間違いなく死んでいたことだろう。
向こうからはこっちが見えているのか、気づけば上に先程の小鬼が集まっていた。
必死にさっきの雪玉を投げてくるもそれでどうこうなることはないが、それだけの魔物とも思えない。
気づけば火纏いが消えてしまっていたのでもう一度使うか悩むところだが、こいつら自体は無害なのでとりあえず今は様子を見ておこう。
棍を突き上げては小鬼を落とし、リルがそれを襲って数を減らす。
一匹、また一匹と確実に数を減らして気づけば奴らの姿はなかった。
これで一安心、と思った次の瞬間。
横に立っていたルナの大楯がガン!という音を放ち、余りの音に驚き慌てて身をかがめたのだが何か固い物が頭をかすったのがわかった。
突然の痛みに頭を押さえつつそのままルナの後ろへ移動、すると先程の音が鳴り響きルナが慌てた様子で大楯を構えなおす。
一体何が起きたんだ?
ガンガンガン!となり続く音、ルナの足元に何か転がってきたので急いで回収するとそれはこぶし大の氷の塊だった。
あいつらあの雪玉を投げて効果がないとわかったら別の物を投げるように切り替えたな。
手のひらにはわずかに血がにじんでいる、くそ、かすっただけでこの威力かよ。
あの時慌てて頭を下げていなかったら今頃氷の塊が直撃し、もっとひどいことになっていただろう。
あそこで何かあると油断しないでよかった。
【恒常スキルを使用しました。回復(小)次回使用は三十分後です】
水走スキルの代わりに恒常化したのは希少な回復スキル。
いつもなら後ろに下がったりしてポーションを使うこともできるけれども、この人数ともなるとそれが出来ない場合もあるので今回はこれを恒常化してみた。
ディレイの時間が若干長いけれども、念じるだけで回復できるのは非常に大きい。
最初はコンビネーションも考えて回数制限のある普通の収奪スキルとして使用することも考えたけれど、補充は三回しかできないし他に使いたいスキルを入れるためにも今回は恒常化という選択肢を選ぶことにした。
これが吉と出るか凶と出るかはわからないけれど、少なくとも今は助かっている。
いつまでも投げ込まれる氷の塊、だがしばらくするとその音がだんだんと少なくなってきた。
いつまでも足元に氷の塊があるという事はどうやらこれは魔法ではなく実物を投げ込んでいるという事、ということは実弾が少なくなってきたな?
となると補充される前の今がチャンス、だが不用意に頭を出すわけにはいかない。
「リル、いけるか?」
「グァゥ!」
「かきまわしてこい!」
投げてきてるのがあの小鬼ならリルだけでもなんとかなるはず、なんともせこい戦い方だがヤバくなったらブレスレットに戻ってくるはずなので大丈夫・・・なはずだ。
しばらくして真っ白い雪の向こうから戦いの音が聞こえてくる。
それと同時に氷の投擲もなくなったのでゆっくり60を数えてからルナと共に白い景色の向こうへと走り出した。
戦いはまだ続いている。
梅田ダンジョン宝物庫、ここは想像以上に大変な場所のようだ。




