322.極寒の世界へと旅立ちました
梅田ダンジョン。
ダンジョンと呼ばれているものの複数のダンジョンを内包する世界に類を見ない複合型ダンジョン。
巨大な扉をくぐった先は早くも異世界、その中にある複数のダンジョンを目指して日夜多くの探索者が活動している。
内部にはギルドの出張所をはじめ宿泊や買い物ができる施設もあり一種の町のようなものを形成していると考えていいだろう。
「うーん、高い」
宝物殿まで見送ると言っていた桜さん達と梅田ダンジョンの前で別れ、一口前の露店を冷かしながら奥へ進んでいたのだが外同様に携帯食料や探索道具の値段が一気に跳ね上がっていた。
外が三倍ならここは四倍、物によっては五倍になっているものもある。
もちろん一歩外に出れば安く買えるんだから手を出す人はほとんどいないけれども、急いでいる人や少量がどうしても必要な場合に買い足している人もちらほら見かける。
「これが売れるなら中で商売した方が儲かるんじゃないか?」
「わふ?」
「いや、冗談だ冗談」
確かに儲かるかもしれないけどすぐに正常化するだろうし、こういうのにも許可がいるだろうから余計なことをして目を付けられたくはない。
そのままうめきたダンジョンの方へと移動、その横にドドン!とそびえたつ建物こそ、宝物庫と呼ばれるダンジョンだ。
元はできたばかりの大型ショッピング施設だったそうだが、建物すべてがダンジョン化した際に各階に扉が現れたそうだ。
扉の中は特殊な環境になっていてそこを走破できれば素晴らしい報酬が手に入る、最初こそそれを夢見て多くの探索者が足を運んだそうだが劣悪な環境と難易度に被害者が続出。
今ではクリアできるとわかっている扉だけ解放され、他の扉が開けられることはほとんどない。
なんなら記録上一度も開けられたことのない扉もあるらしく、今回の特別依頼でそういった扉が開けられることを期待しているのだろう。
もっとも、俺達が行くのは一度は開けられた扉の一つ。
余りにも過酷な環境に二歩進んだだけで引き返したといういわくつきの扉だが、今の俺にはもってこいの場所でもある。
「おぉぉすごい人だな」
宝物庫入り口、いつもは人が少ないと聞いていたのに今日は長蛇の列ができている。
先頭にいるのはギルド職員か。
何やらもめている感じはあるけれど、まぁ並べばわかるだろ。
待つこと30分程、ただ中に入るだけなのにアトラクションに並ぶぐらい待たされたんだが・・・。
「お待たせいたしました。ライセンスカードと宝物庫の鍵をお願いします」
「随分と混んでいるんだな」
「昨日の発表があってから皆さんやる気になってまして。ですが、実力の見合わない方を通すことはできませんのでこうして確認している次第です。・・・はい、確認できました。新明様Cランクですね、走破実績は・・・すごい、この短期間でもうこんなにも。今日はどちらに?」
「七階奥の扉に」
「え?あそこは環境がかなり危険な場所ですよ?」
「だから来たんです、ご心配なく武庫ダンジョンギルド長の推薦は貰っています」
まぁこういう反応になるよなぁ。
実力に見合わない扉に突っ込ませて貴重な戦力を失うのは惜しい、ということでギルドが管理しているようだけどそれで中に入れなかったら元も子もないので木之元さんが事前に持たせてくれたやつだ。
職員が中身を確認し、後ろに控えていた別の職員にも声をかける。
「・・・確認が取れました。今回行かれる未走破ダンジョンは環境も含め非常に危険です、くれぐれも無理をなさらないようにお願いします」
「ヤバそうなら尻尾まいて逃げ出すつもりだ」
「そうしてください、では奥へどうぞ。」
「ありがとう」
ライセンスカードと鍵を回収、奥の職員と共にエレベーターを上がって七階へ。
巨大な建物のわりに到着した先は非常に狭く、2m程の通路の左右に扉がいくつも並んでいる。
どんな部屋なのかについては扉横のプレートに書かれているけれど、それがないところは情報すらない場所なのか。
炎獄、呪石、暴風、なるほどその環境に見合った名前が書かれているのか。
想像していたよりも部屋数が多い、えーっと目的の場所はどこかなっと。
「鍵穴にカギを入れると無くなってしまいますのでくれぐれもご注意ください」
「了解」
「ご武運を」
ここに送り届けるまでがあの人の仕事、職員は何事もなかったかのようにエレベーターに乗って降りてしまった。
別に見送ってほしいわけじゃないけれど、そっけないというかなんというか。
ま、その方が都合がいいけど。
「リル」
「わふ!」
ブレスレットの中で待機していたリルを呼び出し、前を歩いてもらう。
突入時は先にリルそれからルナの順番で入ることが決定しているのでその下準備だ。
「あった、ここだな」
目的の扉の横に書かれていたのは雪盲、これだけでなんとなくどんな環境なのかを察してしまった。
ここから先は想像を絶する世界。
狭い通路にかばんを降ろし改めて装備品を確認、久々に持ち出した火水晶の三節棍にマントは篠山ダンジョンで使った装備だがまだまだ現役で使える。
加えて桜さんから借りた氷装の小手と小型マジックバッグも今回は一緒だ。
須磨寺さんがいないので荷物はできるだけ少なく、でも必要な物はしっかりと。
「よし、行くか!」
準備を整え深呼吸をしてから持ち手の部分に宝箱の装飾が施された古風なカギをゆっくりと鍵穴に差し込み、右に回す。
すると、カチャンという乾いた音と共に差し込んだ鍵が雪のように消えてしまった。
なるほど、これは確かに再利用できそうにない。
これまた古風なドアノブを掴んでゆっくりと回すとわずかに開いた隙間からものすごい勢いで風が吹き出した。
慌てて閉めそうになったが、閉めるとまた鍵が必要になるので少し開けたままにして隙間から中を覗き込む。
白、間違いなく白。
白銀とかそういう綺麗な世界じゃない、真っ白。
なるほど、雪盲と書かれているのも納得だ。
何も見えん。
俺とリルは冷気耐性があるしルナも骨状態なら特に問題ない。
寒さはまだいい、問題は視界だ。
これ、1m先も見えない気がするんだが本当に大丈夫か?
今までのダンジョンと違って魔物の事前情報はなし、つまり何が出てくるかはわからない。
一匹なのか複数なのかどれだけの強さなのか、すべてが未知数。
その事実に今更になって怖くなってきたけれど、ここでビビったら男が廃るってもんだ。
引き返すなら中に入ってからでいい。
意を決して扉を開き、吹き付ける猛吹雪を全身で浴びながらマントを体に巻き付けて扉の中へ。
余りの風に扉が閉まるのか不安になったけど、勝手に扉が閉まってくれた。
「うーん、白い。マジで白い」
「ワフ!」
「声は聞こえるけど先が見えない、魔物がどこから来るかもわからないとくれば・・・そりゃ引き返すのも仕方ないよな。でもまぁ俺にはリルもルナもいる、索敵は任せたぞ」
「グァゥ!」
「ハ・・・イ!」
雪で前が見えなくてもリルとルナは気配で魔物を察知できる。
先手を打てないのは少々不安だがルナが初撃を防いでくれるはず、こうして未踏破宝物庫『雪盲』の探索が始まった。




