321.特殊依頼を引き受けました
宝物殿。
木之元主任から借りた資料を読んでみたものの、書いてあったのはほぼほぼ知っている情報だけだった。
一部非公開とされている情報もあったけれど今の俺には関係のない話。
例の極寒エリアについて何か情報があればと期待したんだが残念ながらそう上手くはいかないようだ。
迎えた翌朝。
噂されていた通り探索者連盟はある特殊依頼を全探索者に向けて発表した。
『新たなる資源発掘に向けた新ダンジョン探索、並びに未踏破ダンジョン走破依頼』
単純に言えばまだ誰も走破したことのないダンジョンをクリアすると特別な報酬を出すよ!ということらしい。
何がどう特別なのかは記載されていないけれども、普通に考えれば金か装備のどちらかだろうなぁ。
今の世はダンジョン発見によって大きく変化し様々な恩恵を受けてきている。
もちろんそれに伴う様々な弊害はあるにせよ恩恵の方が大きく、世界中の人がそれを享受している状態。
だが、ここ数年は目立った進歩がなく新たな資源や道具・素材が見つかったという報告はなされていない。
これはダンジョンによって発展してきた俺達世代にとっては由々しき事態で、その状況を打破するべくこの依頼が出されたんだろう。
確か海外ではすでに始まっていて一定の成果が出ているんだとか。
単純に言えばいつも同じ安心安全なダンジョンに潜っている探索者に対して、もう一度冒険心を取り戻させるための餌としてこの依頼が出されたというわけだ。
探索者の命で新しい発見をする、なんともばからしい話ではあるけれど元々大きな夢を求める彼らにとっては忘れていた気持ちを取り戻すいいきっかけになったようで、一時引退していた探索者を含め大勢の人たちがダンジョンへと向かったんだとか。
もちろんいきなり未踏破ダンジョンがクリアされるわけもなく、まずは既存ダンジョンでしっかりと準備をするわけだけど、今までぬるま湯につかっていた探索者にとってはいい刺激になったんだろう。
「え、三倍?」
「そうそう、皆一気に探索に出ちゃうもんだから何もかも値上がりしているみたいでほんと困ったよ」
「幸いうちはスポンサーから直接提供されていますから問題ありませんが、これって新人探索者にとって由々しき状況ですよね」
「由々しきってもんじゃないと思うぞ、薬だけならともかく携帯食料まで値上がりするとなったら誰も潜れないじゃないか」
だが、その刺激が思わぬ方向に向いてしまった。
探索者が一斉にダンジョンに向かったことで携帯食料や探索道具の高騰が発生、装備品をはじめ全ての物が値上げ値上げになっている。
特に未踏破ダンジョンの集合体のような宝物庫の鍵は通常の三倍で取引されるようになってしまった。
うーむ、まさかこんな大ごとになるとは思わなかった。
まずは手に入れたカギを使って一度様子を見て、行けそうならしっかりと準備して追加のカギを使って走破という目論見だったのだが早くも崩れてしまった形だ。
クリアされている宝物庫ダンジョンは全三階層、一回でクリアできなくはない非常に浅いダンジョンではあるけれど環境が劣悪すぎて未だ走破されていない部屋が多い。
環境だけならまだしも出てくる魔物もまた特殊、今回は事前情報なしで潜るだけにできれば一度下見をしておきたかったんだがなぁ。
「これに関してはギルドも想定外だったみたいだね、引退していた探索者が戻ってくるのはいいことだけどしばらくはどのダンジョンも大混雑で混乱は必至、特にE級は復帰勢に荒らされてまともに狩れないんじゃないかな」
「はぁ、もう少し考えてから依頼を出せよな」
「それだけ皆さんが今の状況をよくないと考えているという事にもなりますけど・・・しばらくダンジョンに潜るのはお預けですね」
下手に人の多いダンジョンに潜ったところでまともに狩れるとは思えないし、これだけの人数が一気にダンジョンに潜ると市場に流れる素材が一気に増えて値崩れは必至。
折角素材を持ち帰っても通常の三割引き悪ければ半値でしか買い取ってもらえないとなれば潜るほうが赤字になってしまう。
利に聡い人ならば安いときに素材を買い占めたりするんだろうけど、安定して需要のある素材を見極める方が難しいので素人が手を出すもんじゃない。
もちろんドワナロクの鈴木さんとかに聞けば教えてくれそうなものだけど、そこまでして金を稼がなければならないぐらいに困窮しているわけではないので、桜さんの言うようにみんなには休んでもらうほうがよさそうだ。
もちろん潜る分には問題はないけれど、無理だけはしないで貰いたい。
「それで、和人君はどうする?」
「本当は二回に分けて潜るつもりだったが・・・さらなる値上げになる前に一気に潜ったほうがよさそうだな」
「それがいいだろうね。でも僕が一緒に行けないとなると・・・結構大変だよ?」
「もちろんわかってるさ。今までずいぶんと楽させてもらったからな、初心に戻って頑張らせてもらうつもりだ」
どんな状況であれ潜ることに変わりはない。
幸い宝物庫の鍵は一本持ってるし、探索道具や食料系もスポンサーがしっかりと用意してくれる。
下手に世間が騒ぎ出す前にサクッと終わらせて報酬をゲット、それが一番賢いやり方だろう。
問題があるとすれば荷物の運搬ぐらいか。
最初のころは自分でリュックを背負って探索していたけれど、須磨寺さんが来てからはほぼ任せっぱなしだった。
もちろん運搬人の仕事なのだから当然と言えば当然だけど、いざ自分だけでそれをするとなると道具なんかをかなり制限しなければならなくなるし、なにより持ち帰れる素材の量も減ってしまう。
どれだけ持ち帰れるかが収入に直結するだけに、それが制限されるのは正直厳しい。
特に今回は宝物庫と呼ばれるだけあっていったいどれだけの物を持ち帰らなければならないのか見当もつかないところだ。
幸いにもルナが一緒に行ってくれるので、いざとなれば彼女にもかばんを背負ってもらってダンジョンから脱出するという方法もある。
一応それ用の折り畳みかばんも持ち込むのであとは野となれ山となれってやつだな。
「くれぐれも気を付けてくださいね」
「もちろん、別に今すぐ走破しなきゃいけないわけじゃないし無理そうなら尻尾まいて逃げてくるさ。それに昔と違って今はリルもルナもいるからスキルさえ切らさなければ何とかなる。頼りにしてるぞ二人とも」
「わふ!」
「は・・・い!」
タンクに前衛そしてバフもできる中衛、本当はもう一人後衛がいてくれると最高のバランスなんだけど、この辺は欲を出しちゃいけないところだ。
今回は久方ぶりに魔装銃も持っていくので、いざというときはそっちをメインで戦うこともできる。
まずは生きて帰ること、それを大前提に潜らなければ。
「それでは特殊依頼の手続きを行ってきますので新明さんはそこで待っていてください」
「あ!凜ちゃん私もいっしょに行くよ!」
「特にすることありませんよ?」
「いいの、僕が行きたいだけだから」
「ならいいですけど・・・」
相変わらず仲のいい二人に手続きを任せつつ、俺は俺で準備を進める。
人生初の宝物庫ダンジョン、果たして何が待っているのだろうか。




