320.宝物殿について調べました
ルナが言葉を発してから一週間。
少しずつではあるけれど、話せる言葉が増えてきて家の中は今まで以上ににぎやかになってきた。
最初は大騒ぎしていた女性陣も今では当たり前のように受け入れている。
先日吸収した魔力オーブのおかげでほぼ一日中体を維持することができるようになったらしく、ダンジョンに行くとき以外は鎧を脱いで過ごすことが多くなった。
それでも定期的に魔力水は摂取しなければならないようで、食事と一緒に二日に一回魔力水を飲んでいる。
金額で言えばかなり高価だが、それで彼女の幸せが帰ると思えば安い物だ。
それに今の俺達なら自前で回収しに行くことができる、一週間分を回収しに泉のダンジョンに向かいそのついでにスキルを収奪、そんな感じで忙しいながらも充実した日々が過ぎていった。
そして一週間ぶりのオフ。
桜さん達はいつものように思い思いの休日を満喫、俺もまたいつものようにコンビネーション用のスキルを収奪するべく川西ダンジョンへと向かった。
他のダンジョンでもいいんだけど鼓舞スキルの他に色々と組み合わせると面白そうなスキルが出に入るのはやっぱりここ、今回も色々と回収してから地上に戻りギルドのカウンターで手続きをしていると気になる会話が聞こえてきた。
「宝物殿の調査依頼が出るんだってよ」
「宝物殿って、あの?」
「あぁ、梅田ダンジョンの中でも特に難攻不落と言われるあのダンジョンだ」
宝物殿か。
そういえばへっぷダンジョンのボスを倒したときにカギを手に入れたんだったっけ。
たくさん部屋があって、中はかなり危険なつくりになっているんだとか。
魔物の強さもさることながら環境が劣悪で今の所走破できているのは二つか三つだけ、一応潜るたびに報酬は手に入るらしいけど新しい部屋の初回報酬がかなりすごいという風に聞いている。
その中の一つに、極寒の部屋があるらしいのだが余りの寒さに扉だけ開けて引き返したという記録が残っているらしい。
普通に考えれば走破不能、だが俺とリルが一緒なら冷気耐性(完全)が発動するので寒さを気にせず潜ることができるだろう。
くわえて骨状態であればルナも一緒に行けるはず、寒さで鎧とか装備がどうなるかは未知数だけどその辺は氷ノ山ダンジョンとかを参考にすれば何とかなる気がする。
「お待たせいたしました、本日の買取は17万円です」
「ん?多くないか?」
「魔晶石が今品薄気味でして買取価格が上がっているんです。場所が場所だけに行く人も少なくて、またよかったら潜ってもらえると嬉しいです」
「タイミングが合えばな。それはそうと、さっき宝物殿についての話が聞こえてきたんだが本当なのか?」
「ん-・・・ちょっとお耳を」
きょろきょろと周りを見回し、職員さんが顔を近づけてくる。
「本当はギルドの中だけでまだ表に出しちゃいけないんですけど、どこかの誰かが漏らしちゃったみたいなんです」
「なるほどな」
「一応明日には正式発表になりますので、それまで詳細はごめんなさい」
「了解した、それだけ教えてもらえれば十分だ」
これ以上聞くのは申し訳ないのでとりあえずここではこの辺にしておこう。
帰りに武庫ダンジョンに足を延ばし、木之元主任に頼み込んで宝物殿に関する資料を見せてもらうことにした。
「まったく、僕に頼めばなんでもかなうと思ってないかい?」
「とか言いながら見せてくれるよな」
「そりゃほかでもない新明君の頼みだからね。今の武庫ダンジョンが盛況なのも、城崎ダンジョンに平穏が訪れたのも、旅団のやる気が上がっているのもみーんな君のおかげさ」
「最初はともかく最後は違うと思うんだが」
「いやいや、間違いないよ」
最初はともかく俺が他の旅団のモチベを上げているとは思えないんだがなぁ。
もし大型スポンサーがつく可能性を考えているのなら、俺の場合は桜さんっていう偶然が重なったからであってあの件が無かったらスポンサーなんてついてなかっただろう。
ルナの件もそうだけどすべてはいくつもの偶然が重なったから、それを誰もがかなえられるわけじゃない。
「それに、クリスタルの新しい可能性も見せてくれたしね」
「それはまぁ、確かに」
「『収奪』のスキルかぁ、最初に判明した人はてっきり強奪の下位互換だと思ったみたいだけど全くの別物だったね。回数の制約があるとはいえ魔物のスキルを自分で使えるようになるになるなんて誰もが一度は考えたことを実際にできるわけだし、A級もしくはS級の可能性も出てきたよ」
「S級って、まさかそんな」
「それを決めるのは上の人だけど、可能性はゼロじゃない。でもまぁ他と違って収奪しないことには使えないしストックが切れたら何もできないという欠点もあるからAないしBになっちゃうかもねぇ」
旅団結成時に考えていた最後の一つ、『収奪』スキルの公表。
これまで公表することで多くの弊害が生じるという理由から差し控えていたけれども、弊害を乗り越えるための下地が着実に出来上がってきたこともありこの度公表するという運びとなった。
これらに関しては木之元さんをはじめ多くの人に相談した結果であって俺一人で決めたわけじゃない。
だが、先日の合同作戦をはじめ多くの人の目に触れることが増えているし、氷室さんからの助言も後押しになりつい先日この人に相談したというわけだ。
スキルの存在に関しては前々から明かしていたので特に驚かれるわけでもなく、粛々と手続きが進行。
今は、探索者連盟の方でスキルランクの決定が行われておりそれが終わり次第公表となる。
もっとも、誰がという話ではなく『新たにこういうスキルが見つかりましたよ』というお知らせ程度にはなるけれども、それでもわかる人は分かるはずだ。
その後の流れについては正直なんとも言えない、この国はともかく世界にも公表されるのでそれ目当てに圧力がかかる可能性もあるけれども、そうならないように木之元主任をはじめ月城さんや大道寺社長らが動いてくれることになっている。
でも結局最後に自分を守れるのは自分だけ、というわけで今回の宝物殿に飛びついたというわけだ。
世界でまだ誰もクリアしたことのない場所を走破する、そんなすごい実績があれば早々にちょっかいを出すこともできなくなるはず。
今回は場所が場所だけに旅団ではなく個人での参加になるのでそういう意味でも都合がいい。
「なんにせよ、君が無事に帰ってくれればそれでいい。くれぐれも無理はしないように」
「わかりました」
「そして何が手に入ったか、中はどんな感じだったかについては是非報告してね。それが今後多くの探索者を救うことになるから。もっとも、今の所君しか走破できそうにないけどねぇ」
「あはは、まぁそれは確かに」
ダンジョンの情報提供は探索者の義務、もちろん報告するつもりで入るけれども潜るための前提条件が冷気耐性(完全)ってのは中々にハードルが高い。
それでもクリスタルから出る可能性は否定できないので、いずれ行ける人が増えるかもしれない。
なんにせよ答えは明日、ギルドがどういう発表をするかによって今後の動き方が変わってくる。
木之元さんにお礼を言って資料を手に家路につく。
果たして宝物殿の中はどうなっているのだろうか。
期待と不安を感じながら預かった資料をじっと見つめるのだった。




