317.戦場を走り回りました
無数に襲い掛かるシードラゴンの子供の群れ。
幸い鱗の強度は親ほどもなく、棍を振りぬけばそれなりにダメージは与えられるけど一撃で倒せるほど弱いわけじゃないのでじりじりと追い込まれていくのがわかる。
余りにも数が多く何匹も前線から後方に流れてしまうが、七扇さんと桜さんが連携して対処してくれているので最後尾の須磨寺さんまで到着していないけれども、それも時間の問題だろう。
「弾幕来るよ!」
「このくそ忙しいときに!」
「和人さん足元きます!」
「それもかよ!」
シードラゴンが暴走モードに入ってから状況は一変、さっきまで特に問題なくかみ合っていた歯車が一気にずれてしまいうまくかみ合わなくなってしまった。
幸い歯車が外れるような事態にはなっていないけれど、スムーズに動くことができずフラストレーションがたまっていく。
正面から襲い来る無数の水弾、さっきまではそれを余裕で回避できていたのに正面にいる無数の子供のせいでその技が使えない。
じゃあ別の方向にと思ったところで足元から水の壁が湧き出して行く先を制限されてしまい、慌てて右に避けた先には無数の子供が手ぐすねを引いて待っている状態。
一匹に当たった程度じゃピリッとする程度しかマヒしないもののそれが複数匹ともなれば明らかに効果が上がり、機動力が低下してしまう。
一匹一匹は弱いのに一撃で倒れない程度の体力があるのがまた厄介。
【アイアンフィッシュのスキルを使用しました。ストックは後二つです】
【トイメディックのスキルを使用しました。ストックは後五つです】
【コンビネーションが発動、剛鋼化を使用しました】
致し方なく体を剛鋼化して強引にヒレの間を通り抜ける。
もちろんすれ違いざまに棍で攻撃するのも忘れないけど、それで倒れたのは数匹程度だ。
「くそ、数が多すぎる」
何とか群れを通り抜けるも水弾はまだまだ襲い掛かり、更には通り抜けたやつが俺を追いかけてゆっくり近づいてくるので結局元の状態に戻されてしまった。
向こうで必死にルナが親の攻撃を耐えてくれているのに近づくことすらできないでいる。
シードラゴンのもう一つ厄介なところは自己回復力の高さ、折角ダメージを与えたのにこのままじゃ元に戻ってしまう可能性もゼロじゃない。
何とかしてこの群れを無力化しないと・・・。
「グァゥ!」
「この!」
リルがブレスで動きを阻害、遅くなったところを桜さんがメイスで叩き潰して数を減らしているが疲労感の割に減っている感じが無いんだよなぁ。
「和人さん大丈夫ですか?」
「体力的にはな。だがこのままだとルナにも限界が来るし、そうなったら一気に崩れるぞ」
「せめてこの小さいのだけでもなんとかできたらいいんですけど、数が多すぎて」
「減ってはいるはずなんだがなぁ・・・」
「焼け石に水ですね」
体感でおよそ500匹ぐらいはいる。
正確な数は分からないが100とか200なら多少減った感じはあるはずだけど、それ以上になると少し減らしたところで変化はない。
確かに数が増えるとは聞いていたけどこれだけ増えるのはちょっと予想外だ。
「うーん・・・撤退か」
「ここまでやってですか?」
「別にこれが最後じゃない、転送装置まで戻るのは大変だけど命に代えたら安いもんだ」
「でも・・・」
「まだいけるはもう無理、それが探索者の鉄則だろ」
桜さん的には不服なようだが現状を打破できるだけの駒が足りない以上、やけどする前に逃げるのもまた大事なこと。
あの蒼天の剣だって戦略的撤退をしているんだ、俺達みたいなのが逃げない理由はない。
「あと十分、いえ五分だけもらえませんか?」
「それはかまわないが、何するんだ?」
「それは後で考えます!」
何もしないよりも何かしてから撤退する、そんな感じで桜さんが群れの外側めがけて走り出した。
リルに目配せをしてそれを追いかけてもらい、俺は俺でゆっくりと近づいてくる子供の群れをにらみつける。
「後五分、どうせ撤退するならやれるだけやってみるか」
別にスキルの出し惜しみをしているわけじゃないけれど、使い道がわからず残しておいたスキルもある。
それを使わないで地上に戻るのはもったいない話だ。
【ジェットタートルのスキルを使用しました。ストックは後六つです】
八階層で収奪したスキルはジェット噴射、突進スキルのように水の力で加速するスキルだがあえて逆方向を向いてスキルを使用する。
噴き出した水が迫ってきた群れをモーゼのごとく押しのけ、正面にぽっかりと道ができる。
もちろん自分の体は反対方向へ進んでいるけれどこのぐらいの距離なら別のスキルでカバー可能だ。
【ファットボアのスキルを使用しました。ストックは後三つです】
【スキュラのスキルを使用しました。ストックは後七つです】
ロケットスキルで狭まり始めた隙間を一気に通過、さらにスキュラから収奪した墨吐きスキルを後ろに飛ばして奴らの視界を奪ってやる。
するとどうだろうか、標的を失った子供の群れがその場で右往左往しだし俺を追いかけなくなった。
もしかして、視覚を奪えば追いかけてこないないのか?
再び正面に現れた群れをスキルの勢いで強引に突破、さらに墨をばらまいたことで同じく標的を見失ったようにその場にとどまってしまった。
最初に使った時は自分たちも視界を奪われるので使い道のないスキルだと思っていたけれど、まさか目くらましがこんなに有効だったとは。
これならルナのところまで行けるかもしれない。
同じ方法でダンジョン内を走り回り少しずつ群れを蹴散らしながら先に進むとついにルナの所へ、猛攻を受けて盾はボロボロになっていたけれども彼女は俺が戻ってくるのを信じて戦い続けていた。
「待たせた!」
俺の声に盾を構えたままこちらを振り返るルナ、ヘルムで隠れているので見えないはずなのにその下で笑顔の花が咲いたような気がしたがとりあえず今は目の前の親を何とかしないと。
「もう少しだけ辛抱してくれ」
こくこく!
再び大楯を持ち直し、明らかに気合に満ち溢れるルナ。
それにこたえるように俺もスキルを発動させる。
【スケルトンジェネラルのスキルを使用しました。ストックは後三つです】
【トイアーミーのスキルを使用しました。ストックは後一つです】
【トイアーミーのスキルを使用しました。ストックはありません】
【コンビネーションが発動、拡散攻撃力アップ(小)を使用しました】
【スケルトンジェネラルのスキルを使用しました。ストックは後二つです】
【トイメディックのスキルを使用しました。ストックは後四つです】
【トイメディックのスキルを使用しました。ストックは後三つです】
【コンビネーションが発動、拡散防御力アップ(小)を使用しました】
再びバフをまき、二人でボスに対峙する。
ぶっちゃけコンビネーションのコンビネーションが発動しないかなとか淡い期待をしたんだが、残念ながらそううまくはいかないらしい。
それでも今の俺達にはそれで十分、いきなり現れた俺に慌てた様子で体当たりを仕掛けてくるもルナが全て受け止めてくれる。
音波スキルで弱点を確認、狙うは腹部と胸部の隙間当たり。
あそこなら・・・届く!
一度後ろに下がってルナの真後ろへ、ルナとシードラゴンが一直線になるように位置を調整しtから棍を槍のように持ち直して大きく深呼吸をする。
【ジェットタートルのスキルを使用しました。ストックは後二つです】
【ジェットタートルのスキルを使用しました。ストックは後一つです】
【ジェットタートルのスキルを使用しました。ストックはありません】
【コンビネーションが発動。トライバーストを使用しました】
ロケットスキルはここに来るまでに使い尽くした。
ならば残っているこいつに全てをかける、そんな感じでストック全てを使うとロケット同様にコンビネーションが発動、ペットボトルロケットの如くものすごい速度で体が前に押し出され、みるみるうちにルナの後ろに迫っていた。
「しゃがめ!」
俺の言葉に迷うことなくルナが立膝をつき、その背中を踏んで大きくジャンプ。
狙うは音波で見た弱点部分。
突き出した棍の先から刃を出して槍のように変形させると、そのまま弱点に突き刺してやる。
鈍い感触と共にシードラゴンの胸元に棍が突き刺さり、つんざくような悲鳴が響き渡る。
刺さってもいまだジェット噴射は止まらず、水の軌跡を描きながら押し続けついにその巨体が後ろに倒れた。
余りの勢いに思わず手を放してしまいそのまま弧を描くように放り出されてしまったけれど、水がクッションの役割を果たし何回かはねてからすぐに立ち上がる。
「リル!」
「グァゥ!」
「倒れて!」
吹っ飛びながら視界に入ったのは子供の包囲網を抜け出した桜さんとリル、俺が指示を出すまでもなく二人がシードラゴンへと突撃しあらん限りの力を使って攻撃を続ける。
これを逃せば勝機はない。
再び水を蹴り二人のもとへ、たとえ武器が無くてもできることはある。
そう信じて走り続けた。




