315.想像と違う階層主を対峙しました
少しの油断から大変なことになりかけたが、仲間の助けもありなんとかその場を切り抜けることができた。
どんな相手でも油断は禁物、それを肝に銘じながら九階層の残りをしっかりと走破。
無事、十階層へと到着することができた。
あれから桜さんは顔が赤いまま、理由を聞いてもはぐらかされるだけでさっぱりわからない。
俺に馬乗りになって正気に戻らせてくれたわけだが・・・まぁ、いずれ元に戻るだろう。
「いよいよ十階層か」
「ここを超えればひとまず泉のダンジョンも走破だね」
「途中まではどうなることかと思ったが、まぁ元を正せばそこまで危険なダンジョンでもなかったってことだ」
「とか言いながらさっきみたいになるんだから油断は禁物だよ」
「わかってる」
魔力水があふれ出ていた時は魔物の強さも異常でどうなることかと思っていたけれど、それが落ち着いた六階層以降はなんとか無事に走破できている。
それでもさっきみたいに危険なシーンが何度かあったので油断しないようにと自分を律しながら階層主に挑むとしよう。
巨大な扉の前に椅子と机を設置してしばしの休憩、美味しい香茶を堪能してから俺はしばしの仮眠をとることにした。
他のみんなは水の中に足を入れないように気を付けているけれども、俺はスキルのおかげでそこまで神経質になる必要もない。
水の上に毛布を引けば正真正銘のウォーターベッドの完成、ホカホカではなくひんやりとしたベッドではあるけれども疲れをとるのには申し分ない出心地だ。
「ふぁぁぁ、おはよう」
「おはようございます、ゆっくりできましたか?」
「おかげさんで」
「いいなぁ和人君はこんな広いベッドで寝られて。僕なんてこの小さな椅子の上だよ?」
「むしろそのうえで寝られるのがさすがだな」
「まぁ鍛えられているからね」
大きく伸びをして起き上がると須磨寺さんがなんともうらやましそうな顔でこちらを見てきた。
彼女もまた軽く寝て疲れをとっていたみたいだけど、俺が座ると半分ぐらい尻が出てしまうような小さな椅子に座って寝ているんだからそっちのほうがすごいと思う。
桜さんや七扇さんも簡易机の上に足を載せてリクライニングしながら仮眠をとっていたようだ。
ちなみにリルとルナはブレスレットと指輪の中に戻って同じく休憩中。
ただ休憩するだけじゃなく仮眠をすると一気に体が楽になった感じがする、睡眠って本当に偉大だよなぁ。
「さてっと、準備完了そろそろ行くか」
「この先の階層主はシードラゴンですね」
「ドラゴンっていうぐらいだからデカいんだろうなぁ」
「んー、確かに大きいと言えば大きいけど・・・まぁ見てからのお楽しみだね」
「含みのある言い方だが行けばわかるだろう」
装備を整え、最後に武器を確認してからゆっくりと扉の前へ。
重たい扉を水をかき分けながら押すと、海底洞窟的なドーム状の部屋の真ん中に・・・。
「あれ?」
「いませんね」
「いやいやそんなことはないだろう。前みたいに床から出てきたりとかそんな感じじゃないのか?」
覚悟を決めて部屋に入ったのだが、真ん中にいるはずの階層主が見当たらない。
地面の下に隠れているという可能性も否定できないけれど、どうもそんな感じではなさそうだ。
泉のダンジョンを締めくくるドラゴンの名を冠する魔物、気合十分でやってきたというのにこのテンションを一体どこに向ければいいんだろうか。
とりあえず警戒しながらゆっくりと部屋の真ん中へ移動、いつもならこの辺に来たところで魔物が出てくるものなのだがその様子も感じられない。
「ん?」
さっきの件もあるので油断するなと自分に言い聞かせていたのだが、真ん中まで来たところで足元を見ると何やらひらひらとしたヒレをたくさんつけた生き物を発見。
これはあれか?タツノオトシゴ的な奴なのか?
でもあれは確かシーホースって名前だし流石にこいつではないだろう。
棒の先でツンツンとつついてみるも反応なし、っていうかここまで無反応なのもなかなか珍しい。
一体なんなんだろうかこいつは。
「可愛い!」
「可愛い・・・のか?俺にはわからないが、そもそもなんでこんなのがいるんだ?」
「そりゃ最下層だからだよ。見た目は可愛いけど、下手に意地悪しないほうがいいと思うな」
「別に意地悪してるわけじゃないんだが、こんな奴が階層主?そんなまさか」
余りにも無反応なのでついついしつこくつつきすぎたのか、最後はぐったりとした感じになりプカリと浮かび上がってくる。
うーむ、やりすぎたか。
こいつを倒したら走破完了になったりして、なんて考えながら浮かび上がるタツノオトシゴに手を伸ばしたその時だ。
突然ぐったりしていたそいつの体が白く輝き空中に浮かび上がる。
更には光りながらどんどんと大きくなり、気づけば見上げるほどの巨大サイズに変化してしまった。
シードラゴン、確かに見た目的にドラゴンっぽい感じがしなくはないけれども、ともかくバカでかいサイズに変化したそいつはさっきと違って生き生きとした感じで部屋のど真ん中を飛び始める。
「みんな、見た目に騙されちゃだめだよ。名前にドラゴンがついているだけあってかなり凶悪だからね」
「具体的には?」
「火も吐くし、魔法も使ってくるし、何だったら子供だっていっぱい生むよ?」
「はい?」
「ともかく油断しないでってこと、ほら来るよ!」
さっきまで死にかけていた奴が生き生きと動きながらこちらに向かって突っ込んでくる。
ラッパのような細長いくちばしを槍のようにしながら猛スピードで突進、これは肉体を出したルナがしっかりと受け止めてくれたけれどもこれで終わるはずがない。
「リル、ブレス!」
「わふ!」
体当たりを阻まれたところで今度は胸を大きくそらせ炎を吐き出すシードラゴン。
このままだとルナがまる焦げになる、ってところですぐに横からブレスを吐いて炎を相殺すると真っ白い蒸気がそこら中に広がり一瞬視界が狭まってしまった。
さっきはこれで痛い目を見たので、すぐに後退して周囲を警戒。
真っ白い蒸気の向こうには盾を構えたままのルナがうっすらと見えているけれど、シードラゴンの姿が見えない。
くそ、どこいった?
「ルナ、今のうちに戻れ!」
姿が見えないままでいるよりも近くにいてもらったほうが色々と動きやすい、すぐに蒸気の向こうからルナが飛び出し俺の前で再び大楯を構える。
桜さんも七扇さんも俺の後ろで武器を構えて蒸気の向こうを警戒、蒸気がゆっくりと薄くなっていくその向こうには無数の水魔法を浮かべたシードラゴンの姿があった。
「逃げろ!」
合図と同時に全員が散開、それを追いかけるように無数の水魔法が襲い掛かる。
見た目の感じとは対照的に知恵を持った相手の戦い方、どうやったら相手を欺けるのかそんなことを考えてそうな動きをしてくる。
なんだよ、あんなに小さな体だったのにやっぱりあそこでとどめを刺すべきだったか。
なんとか魔法を避けきり偶然須磨寺さんと同じ場所に到着、巨大なかばんを背負ったままなのに息切れ一つしていないのは流石だ。
「これが階層主、最初にとどめを刺しとけばよかった」
「ううん、それをしなくて正解だったよ。あの大きさは小さいときにどれだけ攻撃されたかで変わるから、倒すつもりで攻撃してたら今の倍ぐらいになってたんじゃないかな。
大きくなればなるほど魔法攻撃も激しくなるし、あそこで倒さないのが和人君だねぇ」
「そういうの知ってるなら先に教えてくれよ」
「あれ、言ってなかった?」
「いってた・・・ような気もする」
余りいじめるなって話だったと思うが、ともかく今は目の前のシードラゴンを何とかするのが先決だ。
これが最後の戦い、スキルの限りを尽くして戦ってやる。




