願い事2
「わかった。ではもう1つは?」
あ、やっぱ聞きます?
私は悩んだ末、とある条件を付けてみることにした。
「うーんと。理由や詳細を聞かないという条件であるならお願いしたいです。」と。
私がなぜわざわざ条件をつけたのか。
その理由は勿論『理由や詳細を聞かれたくないから』だが、何よりそんな怪しいことに首を突っ込む人はいないだろうと考えたからだ。詳細を聞かされないままに変な願い事は聞けない。そう言うと思っていた。というか、普通ならそうなるよなと期待して言った。
それなのに。
返事はとてもあっけらかんとしていて。
「構わないよ。」
と、すぐに返事が返ってきた。
え!?なんですと!?
もう少し、慎重に考えて!?
「僕たちは友人でしょう?それに先ほどのこともあまり答えられなかったし。
もし僕にとって歩の悪いことを貴方が企んでいるのなら、今この状況にはなっていないはずだしね。」
まぁ、それはそうだけど…。
本当に…本当にいいのかな?
でも、問題はルーウェン様だ。チラリとルーウェン様を見るが、何を考えているかはわからない。先ほどの見たこともない作られた笑顔はすっかりと消え去り、元の表情に戻っている。
もしルーウェン様もこの内容を聞くのであれば、同じ条件の約束を取り付けたい。
「ダ…ルーウェン様も、内容をお聞きになるのでしたら理由や詳細は聞かないと約束してください。」
「約束しよう。」
なぜか慎重であるはずのルーウェン様もそう間髪入れずに返事が来た。
な…なんで?
どうしてこんな怪しいことに首を突っ込もうとするの?
でも。
正直、1人であれこれするよりも誰かの力を借りたほうがいい事案ではあるのよね。なぜなら殿下の周りのことなんて、私では身分が違いすぎてどうすることもできないから。むしろこう言ってもらえて、泥船に乗ってもらえてラッキーだったかもしれない。うんうん。
そう考えるしかないっていうのもあるけどね…あはは。
私は既に冷え切っている紅茶を一口飲み、喉を潤した。
それから、ゆっくりと話始める。
「ハルムート様はフェルナンド第一王子殿下とよくご一緒されるのでしたっけ?」
「殿下…?そうだね。僕は側近候補だから、公務や政務を補助で一緒に行ったりしてるよ。ルーウェンよりは一緒にいる時間は長いかなぁ。」
ハルムート様はとても不思議そうな顔をして答えてくれる。ルーウェン様は、その表情は変わらないものの、その紅い瞳だけは面白いものを見るようにこちらへ向けている。
そんな何をしでかすんだ?みたいな瞳でみられても、私自身は何もしませんよ。今までだって私がやらかしたのではなく、ただ巻き込まれただけですからね?
…ねぇ?
さて、気を取り直して。
「えっと、では今後殿下の周りの方に注意していただけませんか?」
「殿下の周りはいつも厳重警戒態勢だぞ。」
間髪入れずにその言葉が降ってきた。
まぁそうでしょうね。ルーウェン様に言われなくてもそんなことは承知だ。
だけど、一番の古株で殿下から信頼を得ている人物が裏切るんだもの。厳重警戒をものともしないだろう。そしてそれが殿下にとって大きな心の傷になるのは間違いないのだから。
「それはそうでしょうけど。けれども突然何かしらの事情があって、身内だと信じていた人が掌を返すこともあるでしょう?」
そうか。そうだ。私はフェニルラン侯爵の人柄をよく知らないけど、もしかしたら裏切らなければならない事情があった可能性があるんだよね。だって殿下が幼い頃から一緒にいる人物だもの。今殺そうとするなら、幼いうちに殺しておいたほうが良かったはず。
「それはつまり…。何と言うか…。何故…?あ、いや、理由を聞かないという約束だったね…。」
ハルムート様のとても戸惑っている様子が透けて見える。その苦笑いも可愛らしく綺麗なのだけれども。
けれど、突然身内に気をつけろなんて流石に戸惑うよね。普段、常に外からの刺客に狙われていることも、それを踏まえ殿下の周りが厳重に警備されているさもよく知っているだろうから。けれどすぐに気持ちを切り替えるところはさすがである。
「つまりそれはできるだけ殿下に近しい人を注意して見ていたほうがいいということ?」
「…はい。その通りです。」
そう答えると、一瞬であるが緊張が走った…気がした。気のせいかもしれない。なぜなら2人の表情はさほど変わらないから。
けれど。
『殿下に近しい人』に必ず彼は入るはずだ。
「もし、殿下に近しい人の中で、大きく環境が変わったりいつもと雰囲気が違ったりする場合は、すぐに一言お声かけ願えませんか?そしてより注意して監視をしていてほしいのです。」
「…わかった。それは私の仕事の一環でもあるからな。勿論引き受ける。」
「ありがとうございます。」
ほ。
よかった。これで完璧とは全く言えないけれど、何もしないよりはましになったと思いたい。
それにしても。ちょっとどころかだいぶ怪しいのに、何も聞かずに引き受けてくれたのは本当に感謝である。
ふぅっと溜息を吐きながら視線を感じる方に視線を向けると、ギラギラと炎を燃やしたような深紅の瞳がこちらを見ていた。いろいろ言いたいことや聞きたいことを我慢しているのだろうか。2人きりになると問い詰められそうで怖い。逃げなければ。なんてそんなことを考えてしまう。
まぁ今すぐ逃げなくても、ちょうど今日は午後から授業が入っている。2人きりになることはないだろう。そして、そろそろ準備を始めなくてはいけない。
チラっと屋敷の方に視線をやると、メリーがやってくる。いろいろ限界が近くなってきたら来てもらう手はずにしていたのだ。良かった、打ち合わせしておいて。
「ああ、もうそんな時間なのね。申し訳ありませんルーウェン様、ハルムート様。私実は午後から家庭教師の方をお呼びしておりますの。そろそろ準備をしなくては…。」
「そうか。ではそろそろお暇しなくては。」
「来ていただいたのに、たいしたおもてなしできず申し訳ありません。わざわざお越しくださり、ありがとうございました。」
「いえ、直接謝罪できる機会をいただけて本当に良かった。こちらこそ心から感謝しているよ。友人として…これかもよろしくね。」
まぁ!こんなイケメンな方からこれからもよろしくなんて言われちゃった!心はパラダイスです。だけど顔には出してはいけません。近くにメリーもいるしね。
「こちらこそ、そう言っていただけると嬉しいです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。」と言って淑女の礼をとり、2人を見送った。
去り際に、「ありがとう。」と言ったハルムート様のその笑顔は、スッキリと晴れた青空のように澄んでいてとても気持ちが良かった。
そして。
ルーウェン様の「またね。」と言って帰っていたその表情が、何を考えているのかわからず怖かった。そりゃ言わずもがなかっこよかったけども。
だけど無事乗り切った。無事?なのかどうかはわからないけれど。
でも、テルノミナ男爵について何も知らないのは予想外だったなぁ。今後どうしよう。でもまだこちらは少し猶予があるよね?うん、今後対策を考えよう。
それにフェルナンド王子のことは少し話することができたから、結果的には割と上手くいったのでは?と思う。というか、そう思わないとやってられない。
でも、それにしても…だ。
疲れた。
はぁ…ととてつもなく大きな溜息がでてしまうのは仕方ないことだろう。
あまりにも疲れたので椅子に座ってぐだぁっとしていると、メリーから怒られた。
淑女はそのように椅子に座ってはいけません!やら、表情筋が緩みすぎです!とか、いろいろ言われた。
けど、この澄み切った青空を見てるとどうでもよくなった。…ことはない。
お小言があまりにもうるさいので、仕方なく淑女らしくおしとやかに部屋に戻ることにした。
これからお勉強が待っているし、男爵とヒロインのことやハルムートルートのフラグにヒビを入れる方法も考えないとね。
よし、がんばるぞー。
そう気合を入れていると、やはりメリーから怒られたのは言うまでもない。
淑女らしくというのは難しいのである。




