償い
ハルムート様がまた笑った。
透き通るような笑顔。心地よくしっとりと吹く風のような。
なにより、以前のような作られた笑顔でないことが嬉しい。
はぁ…。イ・ケ・メ・ン!
なんて男前なのだろう。素晴らしい。
以前のハルムート様より今のハルムート様の方がよっぽどイケメンだわ。うんうん。
まぁ、好みの問題かもしれないけど。
でも、これで何とか関係は修復できたよね。
きっとハルムート様は決して1人ぼっちではないと、ちゃんと味方がいて想ってくれる人がいると分かったはずだ。
…多分。
喧嘩をして、仲直りをすることができる相手がいるということを理解できたはずだ。
…多分。
だから、
めでたしめでたし。
よかったよかった。
…では未だないのよね。
だってフラグにヒビをいれられてないもの。
…多分。
ハルムートのフラグにヒビを入れるには、彼を想い慕ってくれるヒロイン以外の存在がきっと必要なのよね…。いや、まてよ。今の彼ならヒロインに攻略されても大丈夫なのかな…?いや、でもそれだと戦争が起こってしまえば意味がない気もする…。戦争が起こっても死なないようにするには、やはりヒロイン以外の人物が必要…?わからない。わからないよーーー。
はぁ。
どうしたらいいんだろう。本当に。
こればっかりはやはり私にはどうにもできない気がしてきた。
そんな絶望を感じている間も、私の目の前ではルーウェン様とハルムート様が話をしていた。
…と思う。
思うと言うのは、その話を全く聞いていなかったから。いや、男前たちが素晴らしくいい声で話してるなぁとは思っていたのよ?でもほら、どうやったらハルムートルートのフラグにヒビを入れられるんだろうって必死に考えていたから…つい…ね。
まぁ、結局いい案は浮かばなかったけど。
ふとルーウェン様の方を見る。
そう言えば、私たちがあの時の話をしている間ずっと口を挟まず黙って見ていてくれたんだなぁと感じたからだ。私の思うようにさせてくださったこと、本当に感謝しなければならない。そしてなにより、このような機会を与えてくださったことに。
ルーウェン様は表情が乏しいためか少し冷たい印象があるけども、本当に優しい人だ。
うんうん。
なんて考えている間も話は続いていたようだ。
いきなり自分の名前が聞こえて驚いた。
「ところでソフィリア嬢。」と。
この透き通るような声の主はハルムート様だ。
「あなたへの償いをその眼鏡の補填だけではやはり気がすまない。何か他に僕にできることはない?」
何を言われるのかと思ったら。
…いや、この眼鏡いったいいくらすると思っているの!?値段は詳しく知らないけれど、相当な値段のはず!!むしろお釣りがくるくらいでしょうよ。我が家はそんなにお金持ちじゃないからお釣りを払うことはできないけれど。
「先ほども言った通り、友人同士の喧嘩ですから。この眼鏡だけでも過分だと考えています。これ以上は本当に気にしないでください。」
「いや、そういうわけには…。それでは僕の気がすまないよ。何でもいい。そう、例えば…屋敷の庭掃除でもなんでも!」
に…庭掃除!?宰相閣下の息子であり4公爵家が一つであるディスティーア家の跡取り息子に庭掃除!?そんなのできるわけがないでしょう。そんなことさせたならば、私がファンの子たちに処刑されるわ!
考えただけでも恐ろしい…。
「何か…ない…?」
と、その麗しい甘えたお顔でこちらを見ないでいただきたい。
うーん。うーーーーん。
何かあったかなぁ…。
何もないよなぁ…。
それなら、本当に庭掃除でもしてもらう?
…いや、それはさすがにまずいだろう。
ファンどころか両親にもしこたま怒られそうだし。
うーん。うーーーーん。
…あ!
と、必死に考えた末にお願いしたいことを思いつた。
けど…。
チラリとルーウェン様の方をみる。するとあの真紅の瞳と目が合ってしまった。キラリと鋭く光る紅い瞳には、好奇心とそれとは別の感情が混じっているようにも見える。それが何かはわからないけど。
どうしてそんな瞳でこちらを見ているのだろう。
もしかして…思いついた時の『あ』っていう声が漏れていた!?私の中では声に出していないと思っていたけど…。その内容が気になっているのかな…。心配しなくても、4公爵家の品位を落とすような内容ではないと思っているのだけど。
でも思いついた事柄は、ルーウェン様がいる場ではとても話しづらい。
どうしようかと思っていると追い打ちをかけるように、
「何か思いついた!?」
と、嬉しそうに聞くハルムート様。
どうやらハルムート様にも私の声が届いていたようだ。
あー、やはりやってしまっていたようだ。
心の声よ…漏れないで…。
どうしよう、誤魔化すべきかな。
思いついた案は、あまり人に知られたくないというか。理由を聞かれると答えられないというか。どうしましょう。
因みに私が思いついた願い事は2つある。
ここで言うべきかどうか…、正直迷う。
先ほども言った通り、理由を聞かれと答えられないのだ。




