仲直り
それから。
エリー様やマリーちゃんもお見舞いに来てくれた。
エリー様の誕生日会であのような騒動を起こしてしまったことを謝罪すると、まったく気にしなくていいと言ってくれた。「そもそも悪いのは…」と何かを思い出したかのように怖い…いや圧のある表情になっていた。多分怒りがこみあげてきているのだろう。私に対してではない…と思う。
なぜなら何故か逆に謝られたから。私が謝罪することはあっても、エリー様がすることは何一つないのに。
因みにあの騒動は、会場にいた人の多くは知らないらしい。知ってしまった人にも緘口令を強いてくれているとか。
公爵家だからできることである。もし我が家であのような事が起こっていたらこうはいかないだろう。
それから、庭でブレスレットを失くしてしまったことを伝えた。もしかすると、落とし物として届いているかも…と思ったのだ。だけど考えればわかる。ここは日本ではないのだ。落とした物が返ってくるなんてことは奇跡に近いだろう。
エリー様は何が何でも見つけると言ってくださったけれど、そこまで迷惑はかけられない。庭師に注意してみておいてもらうぐらいでいいと話すと、そのように伝えとくと言ってくれた。優しいのである。
見つかれば嬉しいのだけど、無理だろうなぁ。
マリーちゃんは、元気そうな私を見て「よかったです。本当に心配しました。」と目に涙を溜めて可愛らしい笑顔を見せてくれた。癒しである。
2人の優しさにとても癒された1日となった。
それからさらに5日後。
漸く私は部屋から出ることを許可された。外に出ることができてうれしい限りである。
そして今日は、ハルムート様がこの屋敷にいらっしゃる予定なのだ。そしてなぜか…というか(多分)2人きりでは会わせられないということで、ルーウェン様もいらっしゃる予定である。
流石に4公爵家の子息が2人くるとなると、屋敷全体がソワソワしている気がする。…いや、私だけかもしれない。
チラリとメリーを見ても、どうも落ち着いているように見える。気のせいだろうか。
今日は天気がいいので庭にてお茶を用意することにした。そりゃ2人の屋敷の庭園と比べると…いや、比べるのも失礼か…かなり狭いけれど、まぁいいでしょう。なぜなら私が外に出てお茶を飲みたかったから。せっかく天気もいいことだしね。
私は意気揚々と庭へと出た。
久しぶりの外は晴天で雲一つなく、ふわりと吹き抜ける風がなんとも気持ちいい。
「お嬢様、帽子を。」
受け取ったつばの広い帽子を被り、メリーが日傘をさしてくれる。こうしていると本当にお嬢様みたいだ。
いや、まぁ一応お嬢様なんだけれども。
ふと空を見上げると鳥が2羽並んで飛んでいった。
平和だなぁ。なんて思ってみる。
すうっと動く2羽の影を追った先にある門の前に、2つの人影が見えた。
たぶんあれはルーウェン様とハルムート様だ。
ひぇ、やばい。
さっきまでのふわふわとした心地よい気持ちはどこへやら。一気に冷汗が吹き出てきた。
4公爵家の方々を待たせてしまったという焦りが私の足を急かす。けれど淑女たるもの走ってはいけない。
…メリーの目が鋭く光っているしね。
私は下品にならない程度の急ぎ足で出迎えへと行った。
「遅くなり申し訳ございません。そして、わざわざお越しいただきありがとうございます。」
少し焦りながら話すと、ハルムート様は少しぎこちないが柔らかい笑顔を浮かべて返事を返してくれた。
「とんでもありません。こちらこそお招きいただきありがとうございます。」と。
その笑顔を見て、私は少しほっとした。
けれど、ルーウェン様の方からは少しピりついた雰囲気がするのだけど…気のせいかな?
はぁ。それにしても。
なんて男前なのかしら。
…ほぅ。
眼福とはこのことだ。
ああ…イケメンが二人揃って立っておりますわよ(?)。立っているだけで絵になるなんて…なんて羨ましい。いや、その光景を見られただけでも私はなんて幸福なのだろう。そしてその2倍の、いや、相乗効果で膨れ上がったキラキラオーラがやばし!
これは…拝まないと。
と、掌を合わせそうになったその時。
ごほん。
わざとらしい咳払いで我に返った。
咳払いの主はメリー。また私は自分の世界に入り込んでしまっていたようだ。
きっと淑女らしくない表情になっていたのだろう。厳しく目を光らせて、意識をこちらへ連れてきてくれたメリーに今回は感謝である。
それにしても。
直視し続けていると目がやられそうなので、気を取り直してとりあえずお茶を用意している場所まで案内することにした。貧乏ながらに頑張って用意した紅茶を入れてもらった後、メリーたちには下がってもらった。
さて。どう話そうか。
ピチチチチチ…
小鳥の声がやけに鮮明に聞こえる。
何となく気まずいこの雰囲気をどうにかしなければ。
そう思い、私が口を開こうとすると、いきなりハルムート様が立ち上がり私の目の前で膝をついた。
「ちょ、あの!?ハルムート様!?」
「ソフィリア嬢、この度は本当に申し訳ありませんでした。心から謝罪致します。」
俯きながら謝罪する彼の声には、顔を見なくても後悔と反省の色が含まれているのがわかる。
「ハルムート様、お顔をお上げください。そして、椅子に座ってください。」
ふと顔を上げ、こちらをみる青緑色の瞳は真剣で。それでいてとても綺麗で見入ってしまうほどだ。ゆっくりと立ち上がった彼は椅子に座り、神妙な面持ちをしている。
「…貴方に怪我をさせてしまったことも愚かな言葉を投げかけてしまったことも本当に反省しています。許してもらえるとは思ってはいません。ですが、謝罪はさせてください。改めて、本当に申し訳ありませんでした。」
座りながらも丁寧に再度頭を下げるハルムート様。水色の髪が先ほどの心地よかった風に吹かれてサラサラと流れている。
…本当は真面目な人なのかもしれない。
「謝罪は勿論受けいれます。…そしてこちらこそ、何も知らないのにいろいろ言ってしまって申し訳ございませんでした。」
そう言って私も頭を下げた。
ハルムート様は私の謝罪に驚いたのか、勢いよく椅子から立ち上がった。そして、オロオロとしている雰囲気が伝わってくる。
それをなんとなく可愛いと思ってしまった。
「え!?いや、顔を上げてください。なぜ貴方が謝るのです!?」
「ハルムート様のお気持ちも考えずに、私は偉そうに話してしまいました。きっとハルムート様の御心を傷つけたと思いますから。」
「いえ、決してそのようなことは…。」
と言いながらも悲しいお顔をするのは、やはり私がいらぬことをずけずけと言ってしまったからだろう。
ごめんね。でも、終わったことは仕方ないよね?これからは前を向いていかなくてはね?うんうん。
「でも、これでお互い謝罪したわけですから、仲直りですね。」
「な、仲直り?」
「はい、そうです。先日のことはただの友人同士の喧嘩ですよね?喧嘩すればお互い謝罪して許し合って終わりです。あれは友人同士だから起きた喧嘩でした。」
そういうことにしておきましょう?と少し圧をかけてニコリと笑顔を作る。
ハルムート様は少し驚いてような表情を見せたが、その後クスリと小さく笑い俯きながら「…そう…なんですかね。」と言った。
自信なさげに発するその言葉は今にもこの空間を吹き抜ける風に消え入りそうで。
なので私は自信満々に言う。
「そうなんです!」と。
「それに、その話し方しっくりきませんので、今まで通りに話してくださいね?私たちは友人でしょう?」と。
そう言うと、ハルムート様はこの雲一つない空を彩る風のようにふわりと笑った。
「ふふ。わかった。……ありがとう。」
そう言って。




