その後 3
「今回もまた、このようにご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありませんでした。眼鏡を壊してしまったことも怪我の治療も、あのような場所で寝てしまった私を屋敷まで運んできてくださったことも…。」
「いや…」
と、ルーウェン様が何か言いかけた。けれど私は自分の言葉をとめなかった。なぜならこのまま言ってしまいたかったから。
「それだけではないのです。しかも、私…。ダンウォール様からいただいたブレスレットを失くしてしまいました。本当に申し訳ございません。どうのように弁償したらいいのかわからなくて…。」
そう。新しい眼鏡をつけて左手を見た時に思い出したのだ。ルーウェン様にいただいたブレスレットが私の左手にないことを。そしてそれは、ハルムート様に投げ捨てられてしまったことを。
あの広大な庭から探し出すことは難しいだろう。どうやって弁償していいものかもわからない。とりあえず謝るしかないのだ。
ベッド上だから頭を下げることしかできないが、自分の精一杯で頭を下げる。だけど、ルーウェン様は黙ったままだった。
無言。
気まずい。
やはり、贈った物を失くされた上に毎回迷惑をかけられて怒っているのだろうか。
言わなければよかったのかな?いや、でもすぐにばれるだろうし…。
「本当にすみませんでした。せっかくいただいたのに…。もちろんあのブレスレットの弁償は致します。それに、もう二度とダンウォール様にご迷惑をおかけしないよう気をつけますので…。」
チラリとルーウェン様を見る。
だが、ルーウェン様の表情は硬く無表情だ。何を考えているのかわからない。
シーンとする空間が続く。
自身の息遣いさえも聞こえてきそうなほど。
私はもはや怖くてルーウェン様の方を直視することができなかった。
ごくり。
これは相当怒っているのだろう。
こうなりゃもう、謝り倒すしかないのでは?
そう思い、私は再び謝罪を口にする。
「怒って…ますよね。そうですよね。本当に申し訳ないと思っているんです。ごめんなさい。
…そうだ!今後はもうご迷惑おかけしないようにダンウォール様に近づかないようにします。弁償は…すぐには無理ですけども少しずつお返しいたします…。だから…」
だから。
それで許していただけないでしょうか!?あ、でも近づかないように努力はするけど、遠くから眺めることは許してほしいなぁ…なんて考えていると、大きな溜息が聞こえて、思わず私の両肩がビクっとなった。
「頭をあげて欲しい。」
そう言われると従うしかない。
ゆっくりと顔を上げ、恐る恐るルーウェン様のほうをちらりと見る。いつもとさほどかわらないような表情ではあるが、不機嫌オーラが漂っている気がする。
綺麗なお顔は怖さも倍増。
「私は迷惑を被ったとは思っていない。それにあのブレスレットは貴方に贈ったものだからどうなろうと関係ない。勿論弁償などいらない。」
じゃあなんでそんなに怒っているような…不機嫌そうなオーラなのだろうか…。悶々と考えていると、再び溜息が聞こえてきた。
再びそのため息にビクっとなる。
「何か勘違いしているかもしれないが、決して貴方に怒っているわけではないのだ。」
そう言って、ルーウェン様は一瞬苦い顔をした。
「その…、私のミスにより貴方が危険な目に遭ってしまった。これは自分への怒りというか、…後悔に近い。怖がらせて申し訳ない。」
まさか謝られるとはおもってなかった。
それに。
危険な目に遭わせて?
それは違うだろう。
ルーウェン様のせいで危険な目に遭ったわけではない。だから、ルーウェン様が謝る必要も後悔する必要もないのだ。
「ダンウォール様は何も悪くないと思うのですが…?」
「いや、私はハルムートが今までどういう行動をとってきたかということも知っていた。それに、何かをやらかす可能性があるということも認知していた。もしかしたら貴方にも害を及ぼす可能性があることも。」
え?それはわからないでしょう。
ハルムート様が相手にするのは恋人や婚約者のいる女性か、もしくはものすごく美人な女性だったはず。こんな引籠瓶底眼鏡令嬢を誰が相手するというの。
私でもそう思うのだから、ハルムート様が私にちょっかいをかけるなんて誰も予想していなかったというか、想像すらしなかっただろう。
「それはなかなか予想するに難いものだったでしょうね…。ハルムート様が手を出す人は美人か相手がいる人でしたもの。」
「…そういう意味ではないのですが…。」
じゃあどういう意味なのだろう?
考えてみるがわからない。
「殿下たちも私も、時には彼に行動を正すように忠告していたのだ。でもその忠告は、彼には聞き入れらなかった。今思えばわかる。その忠告はいつも、殿下やその周り、それから彼の親族のことばかりを慮っていて、彼自身のことを考えれていなかった。
…でも、ソフィリア嬢。」
そう言って、深紅の瞳が私を射ぬいた。
ドギリと心臓が大きく動く。その瞳は暖かい焔を灯しているようで、私を責めているような雰囲気が全くない。優しく、暖かく…そして少し悲しそうな…。
「貴方は、友人として彼自身のことを考え、そして想い、あの言葉を伝えた。多分あの言葉たちは彼にとって衝撃だっただろう。
…愛にはいろんな愛がある。私にとってもいろいろと思うことがあったよ。それに、友人として愛されていることを知ったハルムートは、貴方を傷つけてしまったことを大変悔いていた。」
「そうなのですか…。」
1人じゃないと気づかせることができたのは良かった…のよね…?
「それで、ハルムート様は今…?」




