その後 2
次の日。
昼を過ぎた頃にルーウェン様はやってきた。
私の家族も侍女たちも、ルーウェン様がこの屋敷にいらっしゃることにすっかり慣れてきたようだ。以前はソワソワしていたのに、今は落ち着いている。多分ではあるが、一番ソワソワしているのは私だと思う。
ふぅ。
今日は目覚めて1日目ということもあり、両親にベッドから出ることを禁止されている。そのためではあるのだけど、あのルーウェン様が今私の部屋の中に存在しておりまして。当たり前なのだけど私の目の前にいるのだ。男前だ。
ほぅ。
軽く挨拶をした後、ルーウェン様はベッドの左横にある椅子に今まさに腰掛けようとしている。さすがに寝衣では会えないので、ゆったりとしたワンピースを着ているがベッド上で話すのはなんだか気まずい。
うぅ。
「やはり、あちらのテーブルでお話ししませんか…?」
と誘ってはみたものの、「まだ此方で安静にしておいたほうがいいよ。」と返されてしまえば、そうせざるを得ない。
たぶん、皆が思っているより全然元気なんだけどなぁ。と軽く溜息が出てしまう。
はぁ。
ふと目の前に暗く影ができた。
え?と思って上を見上げると、そこにはなんとも美しいお顔が近くにあった。
あまりにも唐突なことで吃驚した。
じっくりとそのご尊顔を拝むことも瞬きさえも忘れてしまって固まってしまった。今思えばもったいないことをしたと思う。が、仕方ないだろう。不意打ちは大変心臓に悪いのである。
そして綺麗で長く、だけど少し骨ばったルーウェン様の指が私の髪を一房掬い上げ耳に掛けた。
その時に一瞬ではあるがあの美しい指が触れた。私の耳に。
その瞬間、触れたところからまるで導火線のように私の身体が熱くなっていくのがわかった。どうしようもない恥ずかしさで、顔どころか全身が茹ったかのようになっているのは鏡をみなくても一目瞭然だろう。
息がかかるかかからないかのところにあるそのご尊顔は、しばらくそこに留まった。私の身体からはバクバクという音が鳴り響き、まるで全身が心臓になってしまったかのようだ。
生殺しってやつですか?うぅ…。
もしかしたらこの音が聞こえているかもしれないと思うと、余計に身体が硬直してしまう。どこに視線をやっていいかわからず、私はただシーツを握りしめ白くなった自分の手を見つめているしかなかった。
ふと、目の前が少し明るくなりほっとしてゆっくりと再び目線を上にあげると、お顔の位置は少し遠くになっていた。
が、ほわりと目尻を下げて柔らかく、まるで安堵したかのように笑っていらっしゃって。またその笑顔につい魅入ってしまって再び固まってしまった。
頭の中は真っ白だ。
今日は不意打ちが多い。心臓一生分動いているのではないだろうかというほど、忙しくなく動いている。
すると、またすっとあのお顔が近くに寄ってきた。
え?と思う暇もなく、私の額に温かく柔らかいものが当たった…気がした。
えぇ!?
何が起きたのかわからずただ茫然としていた私を横目に、彼は椅子に戻る。こちらを向いたお顔は、いつもの綺麗な無表情と変わらず何を考えているのか読み取ることができない。
え…?今額に何かあたった…?もしかしてキ…スをした?いや、そんなわけない。気のせいよきっと。
きっと私の心の中の願望が、そう、幻を見せているんだ。
けれどもソフィリアの額には、生々しく感触が残っていて。表向きは笑顔を取り繕ってはいるが、頭の中は大混乱の渦の中である。
ええ!?一体何が起こったの!?嫌がらせ?嫌がらせかな!?私が大人しくしてなかったことへの罰ですか!?それともブレスレットを失くしてしまったこと!?眼鏡を壊してしまったことへの!?いや、でも、これは彼にとっては罰ゲームでも、私にとってはご褒美になるだけよね!?わけがわからない!!
正直、気絶しなかっただけ褒めてほしいくらいだわ。心臓から血が噴き出すかと思った。病み上がり(?)なんだから、心臓に悪いことは辞めてほしいものだ。そうだそうだ。
ふぅ。
とりあえず、深呼吸よ。落ち着くのよ私。ルーウェン様に伝えなければいけないことがあったでしょ。
少し冷静を取り戻した私が口を開きかけると、それを遮るように先にルーウェン様が話し始めた。
「傷はもう大丈夫なようだね。」
「はい。血は沢山出ていたみたいですけど、見た目ほど酷い傷ではなかったようですから。それに、あの場ですぐ治療してくださったのですよね?そのおかげだと思います。ありがとうございました。」
ああ、あんなに顔が近かったのは傷を確かめる為なのね。あー吃驚した。額に何かがあたったのは、バランスを崩したとかなのだろう。うん、きっとそうだ。
「それでも女性の体に傷をつけることは許されません。…勿論私が言える立場ではないのですが。」
一瞬ではるが、ルーウェン様は悲痛な表情を見せた。どうやらまだあの魔力暴走のときのことを気にしているらしい。あれは事故であって、ルーウェン様のせいではないと伝えてあるのに。
「どちらにせよ、故意ではないのですから。気にする必要はありません。…あの、それで。目覚めてからずっとお伝えしなければと思っていたのですが…。」
私が神妙な面持ちでそう話しだすと、一瞬ルーウェン様の肩がビクッと動いた気がした。
誤字報告ありがとうございます。大変助かります。
今後ともよろしくお願いします。




