休憩室5
私は両膝をついて項垂れているハルムート様に近づき、そっと抱きしめた。
「大丈夫です。ハルムート様はきっと誰よりも人を愛することができるようになりますよ。ゆっくりでいいんです。ゆっくり探していきましょう。私たちがついていますから。」
そう言うと、小さな嗚咽が聞こえてきた。肩に置いてある彼の頭は小さく震え、私のドレスはじんわりと彼の涙で濡れた。
暫くしてゆっくりと顔を上げた彼の目の周りは赤く腫れているが、その雰囲気は年相応の…柔らかい雰囲気になっている気がした。
「僕は…本当に…心から、人を、愛することなんて…できるのだろうか…。」
不安そうな表情を隠さないまま小さな声で呟く。それに答えるべきかどうか迷ったが、私は正直な気持ちを答えることにした。
「正直いうと分かりません。」
ゲーム通りなら、確実にヒロインを愛し慈しむことができていた…と思う。だけど、今後どうなるのかは正直わからないのだ。なんとなくだけど、ゲームの中と状況が違ってきているから。
まぁそれは私のせいかもしれないけど。
でも、どちらにせよ彼の表情を見るに、きっと大丈夫だと思うんだよね。それに、そんなに急ぐ必要もなさそうだし。
「なっ…!?」
「だって、私だってああは言ったものの、いまいち愛が何かなんて、愛することがどういうことかなんてわかっていないんです。そういったじゃないですか!もちろん友人として大切に思うこの気持ちは『愛』だと思います。ただ、いろんな愛がある中で全てを知るには多分ながーい年月が必要だと思うんですよね。つまり、今すぐわからなくていいと思うんですよ。きっとそのうち自然にわかるでしょう。」
「自然にって…。」
呆れかえったような大きな溜息が聞こえてくる。
「まぁそのくらい気楽にゆっくり知っていけばいいってことですよ。私もそうなのですから。」
うんうん!と大きく頷いているソフィリアを見た後に、ハルムートはルーウェンの方をちらりと見た。そして、申し訳なさそうに「いや、貴方はそれでは駄目だと思うよ。」とソフィリアには聞こえないように小さく呟いた。
「まぁでも、愛を知りたいと思うのであればもう少し素直になることを推奨致します。それに、今まで出会ってきた周りの人を反面教師にしながら探していくっていうのもありじゃないですか?」
人差し指を立てて少し冗談ぽく笑いながら私が言うと、
彼は「ふっ、まぁそうだな…。」と気負っていないふわりとした笑顔でそう返事した。
あ、笑った。ちゃんと笑った。今まで作られた笑顔しか見てなかったけど、ちゃんと笑った。それを見てとても嬉しくなった。なんせイケメンの素の笑顔を間近で見ることができたのである。これはゲームの中でもこんな笑顔を見ることはほとんどなかった。とても貴重なのである。
はぁ、眼福。これを見られただけでも私の気持ち(?)を伝えてよかったと思う。何より友人として、ハルムート様は一人ではないと伝えられたことは良かった。少しでも彼の役に立てていたなら嬉しい。
さて、これからは本格的にハルムートルートのヒビを入れる方法を考えないといけない。彼にも幸せに、かつ長生きしてほしいから。
でもよく考えてみると、ハルムートの死因って確か戦禍の中で唯一自分を理解してくれたヒロインを守ってヒロインの代わりに死んだんだよね。確か…敵に追いつめられたハルムートは、ヒロインを逃がす為に自分が囮になって斬られて死んで逝く…みたいな最期だったはず。唯一ボンクラにならず、愛する者の為に死んでいった。そのイメージが強い。
でもそれって戦争が起きてしまえば防ぎようがないのでは…?
…もしかしてハルムートルートはヒロインの代わりを探さなければダメだったりする?ヒロインじゃなければ死なない可能性はあるよね?
それとも戦争自体をどうにかしなければ…?いや、さすがに戦争をどうにかするのは無理だろう。何の力もないし。それに何故戦争が起こったのかとかも描写されていなかったし。うんうん。私には無理だ。
そして全ルートそうなのだけれど、傾国の美男子の攻略対象が死んだその後のヒロインがどうなったのか描かれていなかったのも不思議だ。
ヒロインを逃がす為に死んだハルムート。その後無事だったどうかもわからないヒロイン。
…後味悪すぎない?
もしかして何か思い出してないことでもあるのだろうか…?
ああ…頭が痛い。そう言えば昨日ちゃんと寝れていなかったからなぁ。
うーん、眠い…。瞼が重い…。
目の前で誰かが呼んでいる気がするけど、もう限界…。
オヤスミ…ナサ…イ。
そうしてソフィリアは自分の世界に入ったまま眠りこけてしまった。
周りでは大変な騒ぎになっていることも知らずに。
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