休憩室4
うん。彼の事情は既に知ってしまっているから。何とも言えない。
だけど。
「愛って何?本当にあると思ってる?なんて馬鹿馬鹿しい!僕をみればわかるでしょ?愛なんて存在しないんだよ。どうせ皆裏切るのさ。お前もそうだろう?僕はこの目で見てきたんだ。それとも簡単に乗り換えるのが愛なのかい?笑っちゃうね。あははは!」
目の前で乾いたように狂ったように嗤う彼はとても寂しそうで。けれども私ではどうすることもできないことが現実で。
その悔しさで一杯になった。
さっきまでは怒りのほうが強かったのに。彼の言い分を聞いていると、彼は心から人を愛したいのだと、愛されたいのだとわかる。
ヒロインならどうしただろうか。何て声をかけただろう。
愛に飢えている人。愛したいと、愛されたいと愛を求めている人に、私に何ができる?私では役不足感が否めない。だって私はヒロインじゃないし彼の恋人でもない…。だけど少しでも彼の心救えたら…。
でも、どうしたらいいのだろうか…。
ソフィリアは何もできない悔しさなのからか、彼を同情してなのかはわからない。自分でもなぜこんなに涙が溢れてくるのかわからなかった。だが堰を切ったように滴り落ちるその涙は止めようとしても止まらなかった。
鼻の奥はジーンとして痛いし、もうどうしようもなかった。それでも、友人として彼を思う気持ちを伝えなければいけないと心に決め、言葉を紡ごうとする。
その時。
バン!!
扉を開ける大きな音がした。
「ソフィ!!」
そこには息を切らしたルーウェンらしき人物が立っていた。
眼鏡がないのでたぶん…である。
ルーウェンは目を瞠った。
散乱した部屋。ところどころ破れたドレスを着て涙を流しているソフィリア。しかもその蟀谷からは血が流れているのだから。
この状況を見て、ルーウェン様の気配が変わったきがした。
眼鏡がないのでたぶん…である。
「ハルムート、貴様…!!」
「待ってください!」
なんとなく今にも殴りかかっていきそうな雰囲気のするルーウェン様を私は慌てて制止した。
ルーウェン様のほうからは『なぜだ?納得がいかない!』という雰囲気がプンプンとするが気にしない。眼鏡がないからわからなかったいうことにしておこうと思う。
別に怒ってほしくなくて止めたわけではない。ここでルーウェン様を止めたのは、私自身が今ここで有耶無耶になる前に伝えなければならないと思うことがあるからだ。
「ディスティーア様。いいですか。正直に言いますと、私も愛は存在すると申しましたが、愛が何であるかなんてわかっておりません。」
ゆっくりと息を吸う。そしてさらに時間をかけて息を吐き、心を落ち着かせながら話す。
「ただ…私はこう思います。愛は確かに存在していると。それは…困ったときは助け支え合い、一緒に笑い、喜んだり、泣いて悲しんだり。…時には喧嘩して、そうしてお互いを知った末に想い合うことが『愛』なのかなぁなんて。単純ではありますが、私はそう…考えています。もちろんそれが正解かどうかなんてわかりません。人それぞれ考えた方も違いますし…。
それに愛が何か?なんて難しい答え、今すぐ見つけなくてはいけないものでしょうか?私は、その必要は全くないと思っています。私はディスティーア様がその答えを早く見つけたいが為に、焦っているように見えます。そして、自分自身を傷つけているように見えるのです。
きっと、ディスティーア様は自身が思っているよりボロボロですよ。
あなたの過去は…とてもお辛いと思います。私には想像できませんし、わかったふりなんて出来ませんからこれ以上何も言えません。ですが、その経験があるからこそ、ディスティーア様はより深く人を愛することができるようになるのではないかと…そう思うのです。
あくまでこれは私の考えですから、あれなんですけど…。とにかく、今はまだ愛がなにかなんてわからなくてもいいと思うのです!そ、それに、私はヒャ…ゴホン。ハルムート様に友人としての愛を感じていますよ。」
しまった。友人らしく名前を呼ぼうと思ったのだけど、思いのほか緊張して噛んでしまった。
が、どうやら気にしているのは私だけのようだ。…ほっ。
「友人としての…愛…?」
ハルムート様はポツリと呟くように言葉を零した。
「そうです。愛っていろんな形があるんじゃないかと思うのです。先ほども言った通り、私もわかっていないので偉そうなことは言えませんが…。
例えば…えーと、よく聞くところで恋人の愛とか夫婦の愛とか。それに家族や親子、兄弟の愛もありますよね。それらの愛があるなら、友人の愛があっても不思議ではないと思いませんか?
私はハルムート様のこと友人だと思っていますから。というか、寧ろ、ハルムート様が私を友人だと言ったのではありませんか!…まぁ、だからこそ、私はハルムート様にこれ以上傷ついてほしくないと思うのです。友人として。それに、ダンウォール様もフォンラトス様も殿下もきっと友人としてハルムート様を愛していると思いますよ。そうでしょう?」
ぼやっとしたルーウェン様の方をちらりと見る。ルーウェン様は少し言いにくそうに、だけど真摯に答えてくれた。
「まぁ、確かに友人だと思っている。そうでなければ、彼を想って苦言なんて面倒なことはしない。愛…なんていう表現はむず痒いが、まぁ…確かに少なからずはあるだろうな。」
たどたどしく、そして段々と小さくなっていく声につい笑顔が零れてしまう。
今のルーウェン様の表情を見ることができないのが非常に残念だ。
「ほら、ね?ハルムート様は一人じゃないんですよ。少なくとも私やダンウォール様という友人がいるじゃないですか。友人なのだから寂しいなら寂しいと、苦しいときは苦しいと言ってもいいんですよ。さっきも言った通り、困ったときは助け合い、一緒に笑い、悲しみ、時に喧嘩してまた仲直りしていけばいいんです。…今のように。その中で愛が何かを見つけられれば万々歳!焦らなくていいんですよ。ゆっくりこれから、私たちと一緒に考えればいいんじゃないですか?」
そう言うと、ハルムート様は呆然としながら力が抜けたように両膝をついた。今にも泣き出しそうなその姿に、震えている小さな肩にそっと近づき、私は彼を優しく抱きしめた。
というか、そうすることしかできなかったのだけれど。
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