目2【ハルムート視点】
わかっているのに。
何故僕は今、目の前の彼女にこんなことを言っているのだろう?
別に言う必要はないだろうに。
彼女の紫の瞳からは透き通った、まるで彼女の心を模したかのような大粒の雫が溢れ出している。
何故、どうして、彼女は泣いているのだろう?同情だろうか。
僕には理解できなかった。
あの時、僕はルーウェンがソフィリア嬢を横抱きにしてホールを去っていくのを見ていた。その後の会場ではざわざわといろんな噂が渦巻くようになっていた。
僕は面白そうだと思ってこっそり後をつけていった。目の前のご令嬢たちは噂をするのに忙しそうだったから、すぐにその場を後にすることができた。
2人はとある休憩室へと入っていったが、ルーウェンはわりとすぐに出てきた。ルーウェンの顔には焦りと不安を滲ませていたように感じた。今までこんな表情は見たことがなかった。ルーウェンにこのような表情をさせるソフィリア嬢。やはり面白いと思った。しばらくどうしようかと迷ったが、興味本位が勝った。
どうしてルーウェンに横抱きにされて連れていかれたのか気になるし、噂の真相も気になる。
まだ彼女は僕を信用していないかもしれない。それでも、少しずつ会話を重ね信用を得られればいい。ルーウェンに運ばれていたのが心配で伺ったとでも何とでも言えば部屋には入れてもらえるだろう。お人好しな彼女は見舞に来た相手を足蹴にはしないだろうから。
それにしても、本当に彼らは恋人同士ではないのだろうか?あの後、あのホールではそんな噂が至る所で囁かれていた。
だけど。この前湖へ行った際には、それはありえないと彼女本人が言っていたんだよ?それからそんな急展開な形で恋人同士になるかな?だけど考えてみれば彼女がルーウェンの持っている物に目が眩んだ可能性はある。女性はコロコロと考えを変えるのが得意だからな。
だが、恋人同士ならそれはそれでいい。それなら、今後もっと楽しめるかもしれない。
僕はそんなことを考えながらソフィリア嬢のいる休憩室の扉をノックした。
中からは何とも暢気な声が聞こえてきた。あまりにも暢気な声に扉を開けることを少し戸惑ったくらいだ。
扉を開けた瞬間、彼女の困ったような顔が目に入った。その表情に、何故か少し意地悪をしたくなった。
そして心配で見舞に来たと言うはずが、何故か聞きたいことがあるという文言に変わっていた。だが、そんなことは重要ではないだろう。だって聞きたいことがあるのは本当だから。
彼女は割とすんなり中に入れてくれた。思っているより僕は信用されているのかもしれない。
そう思った僕は、彼女に聞いた。
だけどまたしても答えは前回と同じようなものだった。
ルーウェンとは何もないと。
なーんだ。やっぱり噂は噂なんだな。少し残念。
もし本当に付き合っているなら、僕がその仲を壊したかったのに。いや、本当の愛というものを見たかったのに。
でもそれなら。僕がソフィリア嬢と恋人同士になるっていうのはどうだろう?
もし、僕がソフィリア嬢を手に入れたらルーウェンはどうするのかな?ルーウェンはきっと失望するだろう。だけど、ルーウェンは全てを持っている。1つぐらい手に入らなくてもいいだろう?
僕はさっきのルーウェンの表情を思い出し、少し楽しくなった。
この枯れた心も少しは満たされ、退屈な毎日も少しは面白くなるかもしれない。
そう思っていたのに…。
ソフィリア嬢は僕の好意をすぐに嘘だと見破った。僕は今までの女性と同じようにソフィリア嬢を扱ってきたつもりだった。いや、今まで以上に優しくしていたとも思う。けれど、彼女は僕の好意が偽物だと分かっていたようだった。
僕と付き合わない?と言った直後の彼女の表情は、困惑と懐疑心で塗り固まっていたのだ。
どうしてわかったのだろう。
そのアメジストのような紫の瞳に見つめられると、なんだか僕の醜い心が暴かれるようですぐに目を逸らしてしまった。
だがそれと同時に、またあの重くて苦しい感情が襲ってくる。まるでそこには愛があるかのように振舞っている人たちの存在が脳裏に浮かぶ。
…愛ってなんだろう。
僕はその言葉をポロリと口に出していた。




