休憩室3
ルムート様の周りには、ハルムート様の味方になってくれる人がいるはずだ。ハルムート様を想ってくれる人がいる。ハルムート様は独りじゃない。何もないなんて言わないでほしい。
どう伝えていいかわからないけれど、どうにかそのことを伝えようと必死だった私はハルムート様に呼びかけた。
けれど、それはすぐに遮られた。
「うるさい!」
というハルムート様の言葉によって。
私はハルムート様の大きな罵声に驚きを隠せなかった。こんなハルムート様はゲーム内でも見たことがなかったから。
再び声をかけようとするものの、ハルムート様はいっこうに私の言葉を聞こうとはしなかった。
「うるさい、うるさい、うるさい!!」
まるで何かが壊れてしまったかのようにハルムート様は叫んだ。
そう、何度も。
ただ、叫ぶだけならまだよかったのだけど。予想外のことが起きてしまった。それはハルムート様の悲痛な声と同時に溢れ出た魔力が刃となってこちらに飛んできたことだ。
引籠りだった私は勿論、運動神経なんてあるはずもなく。ただ驚きに目を瞑るだけで飛んでくる魔力の刃を避けることができなかった。
その刃は一瞬のことですぐに収まったのだけど。恐る恐る目を開けると、ところどころドレスが破れてしまっていた。
突然のことに吃驚した。
けれど、このままではいけない。ハルムート様の感情が高ぶり魔力が暴走しかけている可能性がある。もしかするとまた、ルーウェン様の時のようになってしまうのかもしれない。
以前は何もできなくて後悔した。だから今回は何とかしなければ。
彼を鎮めないと…!
「ハルムート様、一旦落ち着いてください。魔力が…」
「黙れ!!!」
再度声をかけたのは悪手だったのかもしれない。何もしないのが正解だったのかもしれない。そう思った時には遅かった。
ハルムート様は言葉を発するの同時に腰に掛けていた剣を鞘から素早く抜き、勢いよく振り払った。
決して私を傷つけようとしたのではないと思う。目を瞑り何かに葛藤しているような表情に、ただ、私の話を聞きたくなかったのかもしれないと後になって思った。
ただ、その振り払った剣先からは魔力の刃が放たれた。その刃はソフィリアの肌と眼鏡を掠る。放たれた鋭い刃は、右蟀谷の上辺りの繊細な肌を切り裂き、赤い雫が滴り落ちた。それと同時にぐしゃっと嫌な音がしたのは、壁に跳ね返った私の眼鏡をハルムート様が踏んだのだろうか。
いつもなら、『どれだけ高いと思っているんだコノヤロー』と思うところだろうが、今はそんなことはどうでもよかった。
ソフィリアは痛みも血が流れていることさえも気づかないほど、ただ冷静に真っすぐとハルムートを見据えていた。
ソフィリアの蟀谷から流れる赤い血を見て、ハルムートは戸惑いの表情を見せた。だがすぐに憐れみを含んだ瞳に変わる。
「どうせルーウェンとも結ばれることはないさ!なぜなら愛なんてこの世に存在しないからね!」
ルーウェン様と結ばれることはないのは同意しても、愛が存在しないなんてことは否定しなければならない。それは今後のハルムート様のためでもあると思うから。
「私がダンウォール様と結ばれることはなくとも、愛は存在します。」
私はごく冷静に言葉を発した。
すると彼は顔を歪ませて嘲るように笑った。
「はーはっは。ソフィリア嬢、君は本当に面白いね。けど、残念。愛は存在しない。」
頑なに愛を否定するハルムートにソフィリアも頑なに存在を主張する。
「いいえ、愛は存在します。」
するとハルムートは、真っすぐと見据えてくるソフィリアの冷静な紫の瞳に対抗するように声をあげた。
「はぁ?何を言っているんだい?愛?愛なんてまやかしだよ?存在なんてするわけがない!僕はこの目でそれを嫌というほど見てきたんだからな!」
ソフィリアにとってその声は、鋭い刃のような痛々しいものに聞こえた。それは魔力の刃よりも鋭利で破壊的なものに。そしてその言葉の刃の行先はソフィリアではなく、ハルムート自身へと向かっているようで。まるで自分自身を傷つけているかのようだと思った。
ハルムート様の方を見ると、彼は憎しみと悲しみが入り混じったような深く暗い表情を浮かべていた。
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