エリー様の誕生日会5
「では行きましょうか。」
といって目の前のルーウェン様は立ち上がった。
行くってどこに?
そう聞く前に、私の身体がふわっと浮いた感覚がした。
え!?
気づいた時にはすでに私は横抱きにされ…って、ええ!?
こ、これは…これは…!!お姫様抱っこ…!なんてこった!こんなに近くにさっきの心地よい筋肉が再び…!そしてあの綺麗なご尊顔がこんなに近くに…!目が…目がぁ…!
それにさっきは吃驚して慌てていたから気づかなかったけど、爽やかな良い匂いが…!
はぁはぁ。って、堪能している場合じゃない!
ルーウェン様が私を横抱きにしたままテラスから会場に入るから、会場で踊っていた人たちは皆唖然とこちらを見ているし、あちらのご令嬢達には凄まじい眼光で見られて、いや、睨まれているし。何ともいたたまれない。そしてそれとは違うさっきのゾクリとする視線も感じる。
またこの視線だ。誰だ?と周りを少しいるも、誰かはわからない。なぜならほぼすべて視線がこちらの方へ向かっているからだ。
ただ、エリー様とフェルナンド殿下たちの視線だけはわかる。悪意がなく面白そうにこちらを見ているからだ。いや、何も面白いことはない。助けて!この状況をどうにかして!と心の中で叫びながら、何もできない私は若干涙目になりつつルーウェン様の腕の中で俯くしかなかった。
ざわざわとする会場の中で、「やはりあのお噂は…」とかなんとかが聞こえて、またくだらない変な噂が回っているのかと思うと深い溜息が出るのは仕方がない。
もう、ルーウェン様の評判が下がらないことだけを祈ろう。
横抱きの状態のままやってきたのは休憩室の一室だった。私はソファに座らされ、再び捻った足を見られたのである。ここまでしてもらっておいて、その手を払いのけることはできない。ただ、いたたまれない私は身の置き所がなく、どこを見てていいのかもわからず、ただ視線を彷徨わせていた。
だだ、ルーウェン様がまたあの誓約を交わした時のように急に治癒魔術を使おうとしたので、私は慌てて止めた。
私の左足は本当に少し腫れてはいるだけなのだ。こんなの大人しくしていればすぐに治るのである。何でもかんでも貴重な治癒魔術を使うのは間違っているし、小さな怪我なら人間の自然な自己治癒力で治すべきだと習った。そうしないと、その自己治癒力が失われてしまうと。
私が慌てて治癒魔法を使うのを止めると、ルーウェン様は不服そうな表情をしていたけど。だけど、それがわかっているからこそ一応は納得はしてくれた。
折角休憩室まで運んできてくれたのだ。このまま休憩室で休んでいますと伝えると、「わかった。帰りは送るからそのまま待っていてくれ。君に聞きたいこともあるんだ。あと、ユリウスにも伝えておくよ。」と言って、ルーウェン様は再び会場へと戻っていった。
そのままってこのままここにいろってこと?そんなことすると、当初の目的である情報収集が全くできないじゃない…。それは駄目だ。機を見てここを出なければ。
それにしても、聞きたいこととはいったいなんだろう?
そんなことを考えていると、ルーウェン様の気遣いからか、美味しそうな料理とデザートをメイドが運んできてくれた。ゆっくり食べられるなんてラッキーなんだろうか。怪我の功名というやつだろうか。
食事をゆっくりと堪能した後、さぁ情報収集に出発だ!と気合を入れていたところに、ノックの音が聞こえた。出鼻をくじかれた感がすごい。
まだパーティーの終焉の時間ではないはずだから、ルーウェン様ではないだろう。ここにいることを知っている人物は少ないだろうし、誰だろうか。もしかしたら、メイドがまた何か料理を持ってきてくれたのかもしれない。
暢気な私は「どうぞ。」と簡単に入室許可をしてしまった。
そんな暢気なことを考えていた自分を、後で後悔することになるとはこの時は思ってもみなかった。




