エリー様の誕生日会4
ふぅ…と再び深い溜息が出る。
既に私のHP(体力)はほとんど残っていないように感じる。だけど、今日の目的を果たさねばならない。そろそろここを離れなければ。
そう思っていると、会場からしっとりとした音楽が流れてきた。
どうやら中では社交ダンスが始まったようだ。子どもと言えど貴族の子だ。しかも今日招かれているのは上流階級の子どもがほとんどである。皆社交ダンスはお手の物だろう。
するとルーウェン様がすっと立ち上がり、目の前で膝をついた。
深紅の瞳は優しく燃えているようで、とても美しい。
だが、目の前の状況についていけてない私は内心あわあわと大混乱だ。だってイケメンが私に跪いている…!?こんな状況があっていいものなのか?私は驚愕しすぎて言葉も何も出てこなず、ただ固まっているだけだった。
だけど、目の前のルーウェン様はとても冷静で。
「一緒にどうでしょう?」
と手を差し伸べてくれた。
そう、ダンスのお誘いだ。
だけど、しばらく引籠りだった私は練習を始めたばかりであり、まだ上手く踊ることができない。
それに…。
実はさっきよろけてしまった時に少しだけ足を挫いてしまったのだ。歩けないほどではない。だけど、踊るのはさすがに厳しいだろう。
イケメンを目の前に跪かせているこの状況。何らかのアクションをとらなければいけないのはわかってはいるのだが、焦って何もでてこない。
落ち着け。とりあえず、落ち着け。
「お…お誘いありがとうございます。ですが、私はまだ社交ダンスは練習している最中でして…。その、ダンウォール様もご存知の通り、私はしばらく引籠っておりましたのでダンスが上手く踊れません。それに、こんな私と踊るのは辞めておいたほうがいいと思います。」
私は足を捻っていることを何となく言いたくなくてそう言った。
まぁ、本心ではある。
目の前のルーウェン様の表情は変わらない。だけど、目の前の深紅の双眸は、激しい炎のように燃えているようにも見える。
そして今までにない低い声で聞かれた。
「どうしてそう思うのですか?」と。
一瞬何を聞かれたのかわからなかった。
訳が分からないという顔をしていたのだろう。ルーウェン様が改めて質問をしてきた。
「どうして、私と貴方が踊るのは辞めといたほうがいいのですか?」と。
いや、貴方が一番知っているでしょう。誰がこんな地味で瓶底眼鏡の引籠り…いわゆる引籠眼鏡を相手にするというの。一緒にいるだけでもあれだけど、踊ったりなんかすればルーウェン様が馬鹿にされそうで嫌だ。
それにそれに…これ以上関わると…きっと…。
そう考えた瞬間に、胸のどこか奥の方で鈍い痛みが走った。
「…っつ!」
「!?もしかしてどこか怪我を?」
「…すみません。実は屋敷を出るときにすこし躓いてしまっていて、左足を軽く捻っているのです。」
「…それならそうと、はやく言ってくれればよかったのに。」
確かにちゃんと言ったほうが良かったのかもしれない。
屋敷で捻ったのは嘘だけど、左足を軽く捻っているのは本当だったから。
ルーウェン様の軽く溜息を吐いた音が聞こえた。
その溜息についビクッと肩が揺れる。もしかしたら呆れられたのかもしれない。
シーンとなった空間を破ったのはまたしてもルーウェン様だった。
「少し失礼。」
そう言って、再び目の前で膝をついた。そして私のドレスの裾を軽く捲り、左足首をまじまじと見始めたのだ。
最初何が起こっているのかわからず、何も言えないままされるがままだった。だけど、ルーウェン様に足を見られているとわかると、羞恥に耐えられなくなったのは言うまでもない。
一応私も乙女なのだ。ドレスを捲ると言っても少しだし、見られたのは捻ってる部分だけ。それでもね、やはり恥ずかしい。特にこの時代は足を男性に見せることはしないから。
私は焦りと羞恥から、ルーウェン様の手から足を思いっきりずらしてしまった。行き場のなくなった綺麗な手はそのまま動かない。
「す、すみません。で、ですが、いくらダンウォール様といえどもこのような場所で、女性の足を触るのは如何かと思います。」
私は火照った顔を、持っていた扇で必死に扇ぎながらそう言った。足を見られてしまったこと、触られてしまったこと、さらにそれを払いのけてしまったことで頭がいっぱいいっぱいだったのだ。
「確かにそうですね。配慮が足りず申し訳ありません。では行きましょうか。」
そう言いながら、表情を変えることなく立ち上がった。
「…え!?」




