エリー様の誕生日会
今日のパーティーは屋敷の中で行われるらしい。
ドキドキしながら、案内役の人の後ろをユリウスと共についていく。
開けられた扉の中の部屋…いやホールにはすでにたくさんの人がいた。
豪奢な飾りつけをされた壁や天井はとても鮮やかで華やかだ。そして大きなテーブルの上にはそれに引けを取らないぐらいの豪華で美味しそうな御馳走とデザート達が並んでいる。
前に食べておいしかったクッキーも置いてあり、少しテンションが上がった。
きらきらと煌めくシャンデリアに照らされて、私より年下の子から年上の人までたくさんの人が輝いてみえた。
そしてその中で一層輝いているのが本日の主役であるエリー様だ。
輪の中心にいるエリー様をみると、世界の中心にいるようだと錯覚までしてしまいそうになる。真っ赤な薔薇のようなプリンセスラインのドレスは、ウエストの切り替えの所からシフォン生地のレースが幾重にも重なりグラデーションになっている。とても華やかで、遠目に見てもドレスの存在感が際立っている。
だが、そのドレスに負けないほどの存在感と美貌を持つエリー様はやはりさすがである。あのドレスを着こなすことができるのは、きっとエリー様しかいないだろう。うんうん。
そんなことを考えながらぼーっと見ていると、いつの間にか最上級の笑顔を携えてエリー様が目の前にやってきていた。
慌てて意識を戻すものの、まさかまた本日の主役から挨拶をされるとは思ってもおらず、周りの眼もあり冷たい汗が背中を冷やした。
「ソフィ、今日は来てくれてありがとう。」
「こ、こちらこそお招きいただきありがとうございます。そして、お誕生日おめでとうございます。このようにお祝の席にご一緒することができ恐悦至極でございます。」
とりあえず、周りの眼もあるため考えてきた文章を読み上げて淑女らしく礼をする。
すると、それを不満に思ったのかのかもしれない。
「やだ、なんでそんな話し方なの?いつものように話してくれていいのよ。私とあなたの仲じゃない。」
と、エリー様は少し口を膨らませていた。
だがそんな姿も大変美しいのである。うんうん。
それにしても。
聞き耳を立てていた人たちからざわざわとする空気を感じる。口元を扇で隠し、コソコソと噂をしているだろう人もいる。
それ、絶対いい噂じゃないでしょう。
それにしてもどうしよう。あまり目立ちたくはないし、それにエリー様の後ろに陣取っている3人のモブ子たちも(ちなみに私もモブなのだけど)私を般若のような目で睨んでいる。そしてゾクリと身の毛のよだつような視線も感じる。
因みに般若って能面の方ね。鷹城綾として生きていたころ、学校の授業で能面を見たことがある。2本の角と大きく口が裂けた女の面で、女性の醜い心…嫉妬や怒りを表しているって説明で聞いたから、彼女たちはまさにそれだって思ってしまった。
ただ、気になるのは彼女たちだけではない。それは、横にいるユリウスなんだけど、チラッと見た感じ表情は笑顔だけどなぜか雰囲気が物々しいんだよね。何となくそっちの方が怖くて。これはこの場から逃げるが勝ちなのかもしれない。
そんなことを考えていたら扉の方から、より一層ざわざわとした空気がやってきた。
いったい何だろう。
扉の方面には既に人だかりができていて、正直何が起きているのかわからなかった。
が、すぐにすっと人だかりが左右に分かれていった。何が起こっているのかわからないままその方角を見ていると、その先から輝くイケメン集団が出てきたのだ。
お、おう。目が眩しい!
女性陣は皆、例に違わず頬を上気させ熱っぽい瞳で彼らを見ている。わかる。わかるよぉと思いながら男性陣を見てみると、男性陣は…三者三様って感じだった。憧れの眼、嫉妬の眼、それから無関心を装っている眼…かな?
そのイケメンたちはエリー様の目の前にスタスタとやってきた。つまり、エリー様の近くにいた私もイケメンたちと距離が近いのだ。
こんな近くにイケメンがたくさん…。はぁはぁ。
そのイケメンたちは言わなくてもわかるだろう。
フェルナンド殿下にハルムート様にレオノール様。そして少し遅れてルーウェン様。勿論私のそばにはユリウスがいる。傾国の美男子が全員その場に揃ったのだ。
ああ、何て幸せなのだろうか。
女性陣の気持ちが手に取るようにわかるわ。
かっこいいわよね。綺麗よね。素晴らしいご尊顔と身体の作りよね。筋肉も骨格も美術品のよう。そして、この人たちは年を取るにつれて更にかっこよくなるのよ。
楽しみねぇ。妄想するだけでクッキーが何枚も食べられるわ。うふふふふ。
ソフィリアは自分の世界に一瞬で飛んでいったのだった。
でも仕方ないじゃない?そうよね?
彼らはエリー様の目の前に立ち、いったい何をするのだろうと思っていると突然、一番前を歩いていたイケメン…フェルナンド殿下がエリー様の目の前で膝をついた。そしてエリー様の左手をとり、軽く唇を落としたのだ。
それはまるで王道の恋物語のようで、絵画の1枚として納めたいぐらいの美しく絵になる光景だった。
「誕生日おめでとう。君が生まれたことに最大限の感謝を。」
フェルナンド殿下はエリー様に最上級の笑顔を向けた。
…んんんんんんんん!何なんだこのイケメンは!物語の王子様か!いや、王子様だけど!破壊力すごい!
この笑顔はエリー様に向けられたもの。それはわかっている。誰もがわかっているが流れ弾があちこち被弾している。でも正直…わかる。エリー様も、少し顔が火照っている気がする。
立ち上がったフェルナンド殿下は、すっとエリー様に近づいて耳元で何かを囁いた。小さなコソコソ話は最も近くにいた私にすらも聴こえない。だが、その言葉を聞いたエリー様のお顔が、お耳が先ほどよりも紅く染まっている気がするのは気のせいだろうか。少し目も泳いでいる気がするし。
そして何よりすぐに顔を離したフェルナンド殿下のその瞳には少しの熱が籠っているようにも見えた。
まぁでも、お2人ともすぐに何もなかったかのようにいつもの感じに戻ったから気のせいかもしれないけど。
ああ~何を囁いたのか気になる…。気になるが、関わってはいけない気もする。身分の高い者のあれやこれや(?)に関わってもろくなことにならないだろうし。
でももしエリー様とフェルナンド殿下が両想いならと考えてしまう。もしそうなら、フェルナンドルートにはさせたくない。なぜならフェルナンドルートに入ってしまうと、高確率でエリー様とフェルナンド殿下は対立してしまう。
けど、さすがにルートを操作する方法はわからない。私は、どのルートに入っても彼らが死なないようにフラグにヒビを入れる方法を考えてはきたけど…、そもそもそのルートに入らせないなんて方法は全く考えてなかったのだ。そもそもフェルナンドルートの死亡フラグにヒビを入れる方法すらまだ浮かんでいないのだから。
うーん。どうしたらいいんだろう。
フェルナンド殿下が一歩後ろに下がると、控えていたイケメン3人のエリー様への挨拶が始まった。
せっかく傾国の美男子が揃っているのだ。それを眺めたい気持ちはあったが、私はそれよりもこの場を去りたい気持ちが強くなってしまった。考えたいこともあったし、正直疲れていた。
そして、ソフィリアは気配を消してその場を去りテラスへと出ることにしたのだった。




