ジャン4【ジャン視点】
「…ン。」
「…ジャン。」
「おいジャン、聞いているのか!?」
おっと、ご主人様にどうやら呼ばれていたようだ。
この後の俺の涙ぐましい努力をお聞かせしようと思ってたのに、残念だ。
俺は頭の後ろに回していた手を解き、壁に預けていた身体をまっすぐにする。
「何でしょうか?」
「…全く、話はちゃんと聞け。」
「はいはい。で?」
「この前ソフィと会った時、ブローチに施してある術式に起動した様子はなかったのだが、私の魔力が減っていたんだ。どう思う?」
「へ?そんなことあり得るんですか?」
「…わからんからきいているんだが。」
「んー、どうでしょう?俺が見た限りだと、術式に問題はなかったように思うんだけど…。もしかしたら何か小さな欠陥があるのかな…?でも実際に見てみないとなんとも言いようがないね。そのブローチ、返してもらうことはできないの?」
「私も術式に間違いはないと思っている。こうして試作したカフスボタンに異常は見当たらないからな。…それで、今度彼女の護衛をすることになったのだ。その時にブローチを一旦預り、代わりにこのブレスレットを渡そうと思ってる。」
なるほどなるほど。
ブローチの代わりの物をわざわざ今作ってるわけですね?
それよりも聞きました皆さん?
今度ソフィリア嬢の護衛をすることになったそうですよ?
普通ならあなたが護衛される立場でしょうに。
いや、確かに剣術も魔術もご主人様程の腕前の人物はなかなかいないだろうけども。
…ねぇ?
それにしてもどうやってソフィリア嬢の護衛になったんだか。ものすごーく気になるけど、聞いても絶対答えてはくれないだろうな。
きっとご主人様のご機嫌を損ねるだけになってしまう。それはそれでめんど…いや、侍従たるもの主の機嫌を整えることも仕事だからね?
そう。野暮なことは聞かないほうが安全・安心。俺もご主人様には絶対勝てないからね。
「それならそのブローチ、戻ってきたら見せてくださいね。それから、ソフィリア嬢の様子も聞かせてください。」
「…ソフィの様子をお前が聞く必要があるのか?」
「いやだって、同じ術式が施されたものをルーウェン様が持っていても何も異常はなくて、ソフィリア嬢が持っていると魔力が勝手に減るなんておかしいでしょ?ソフィリア嬢になにか悪影響が出ている可能性もありますし…。そもそもソフィリア嬢がそのブローチに影響を与えている可能性もあります。何にせよ、そのブローチを調べてみないと分かりませんけども。」
「…確かにそうだな。わかった。」
「お願いしますよ。」
そう言うと、再びブレスレットに魔力を込め始めたのである。
やれやれ。
作業をしているルーウェン様を見て思う。
ルーウェン様の魔力コントロールは、今はもう以前と比べようにないほど格段に上手くなっている。それは完璧と言えるほどだろう。そうでなければあの細かい作業を連続してできるはずがないのだから。
あの魔力暴走を起こしてからルーウェン様は変わった。あれ以降笑うことはなくなった。魔力コントロールの為だと言って、徹底的に感情を隠し、そして今まで以上に魔力・魔術・魔道具の研究に没頭するようになったと思う。
俺は本当に後悔したんだ。
あの魔力暴走の時、俺も実は近くにいた。俺はルーウェン様が薔薇の庭園に向かったのを見て、それを侍従長へ報告しに戻っている最中だったのだ。
俺はあの時戻るべきではなかった。俺は大切な人を失った時の感情を知っていたのに。理解していたのに。独りにするべきではなかったのに。
…俺は傍にいるべきだった。命を奉げるとか言っておきながら、ルーウェン様が俺にしてくれたように俺はルーウェン様を守ることができなかったのだ…。
話は変わるが、俺はルーウェン様がソフィリア嬢とくっついてくれればいいなぁなんて考えている。ソフィリア嬢はあの魔力暴走に直接巻き込まれた唯一の被害者だ。大きな怪我を負わせてしまったけど、婆のように消えてしまうことはなかった。
…なぜだろう?そういえば、もう1つ不思議なことがあるんだけど、まぁここではいいか。
でも、ソフィリア嬢が婚約を拒否してるんだよなぁ。
傷を負わされた相手と一緒になるのがそんなに嫌なのだろうか?
でも、俺が言うのもなんだけど、ルーウェン様は物凄い優良物件だ。容姿も整っているし、魔力もずば抜けている。公爵家の次男で跡取りとはされていないが、あれほどの魔術の腕があればそのうち新しい爵位を授けられるだろう。そうなれば生きていくのは安泰だろうに。
ルーウェン様との婚約は、確実に彼女にとって利益があるはず。俺がソフィリア嬢の立場なら喜んで婚約の申し入れを受け入れるね。
だから俺にはわからない。
因みに俺がソフィリア嬢とくっついてほしい理由は、ルーウェン様はソフィリア嬢の前だと以前のような雰囲気に戻るときがあるからだ。いつも一緒にいる俺だからわかる。無邪気に笑っていた頃のルーウェン様…とはさすがにいかないけど。彼女の前では明らかに雰囲気が柔らかいと思う。
まぁルーウェン様がそれに気づいているかは別として、ね。
それにソフィリア嬢はあの時、ルーウェン様の傍にいてくれた唯一の人だ。
俺は以前のようなルーウェン様に…とは言わないが、ルーウェン様にはこれ以上悲しく辛い思いをできるだけしてほしくない。それが無理なのはわかっているけど。でも、もしそのようなことが起こったときは、俺と一緒に我が主を支えてくれる人物が必要だと思っている。
そして俺はそれがソフィリア嬢ならいいなぁと思っているのだ。
まぁ、勿論秘密だけどね。
それにしても、あのブローチに何が起こっているのだろう。
それを見るのも楽しみだ。楽しみに待っていよう。
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