ジャン3【ジャン視点】
俺は独りになってしまった。
そして、何かが空っぽになってしまった感覚に陥った。
これからどうすればいいのか。どうするべきなのか。全くわからなかった。
ただ運ばれてくる食事を食べ、治療医の診察を受け、ただ窓の外を眺める日々が続いた。
その間、ルーウェン様は毎日のように俺の前に現れていた。
そんな中で、なぜ俺がここにいるのかも話してくれた。
それはどうやらあの時、たまたまルーウェン様を乗せたダンウォール家の馬車が、俺の起こした魔力暴走の場所の近くにいたらしい。もの凄い爆発音と地鳴りがした方へと向かうと、塵ひとつなく更地になった場所に俺が倒れていたらしい。それを見たルーウェン様が俺を保護したのだと。
ダンウォール家の息子だと聞いた時は勿論驚いた。ダンウォール家は俺でも知っている4公爵家の1つだったからだ。俺は貴族のことは詳しくは知らないが、4公爵家のことは知っていた。それは婆が教えてくれたからだ。
だが、今思えばなぜ婆は知っていたのだろう。
まぁそれは置いておいて。
それで俺に与えられている部屋もこんなに綺麗で暖かなんだと思ったことを覚えている。流石4公爵家だと。
まぁ、後にこれが公爵家の使用人では当たり前だと知ったんだが。
あと、これは後に知ったことなんだけど。
俺をダンウォール家で守ってくれていたのはルーウェン様だったようだ。
普通、魔力暴走を起こした人間は即刻、国の施設で隔離され監視されるらしい。それは監獄のような場所で、生きたまま死んでいるのと同じぐらい酷い場所だと聞いた。勿論実態は知らないが。
だけどルーウェン様は、俺がその施設に強制的に送られようとするのを止め、この家に俺を置いたのだ。
魔力コントロールを身に着けさせ、ルーウェン様の専属侍従になるという約束のもとで。
何故どこの馬の骨ともわからない俺を置いてくれたのか。
それは今でもわからない。たまたま俺が魔力を持ち合わせていたということが大きいだろうとは思うが。それでも、また魔力暴走を起こす可能性がある危険人物なのに。
それでも俺を庇い説得してくれたルーウェン様とそれを許してくれたダンウォール家当主には、今では心から感謝をしている。
はじめは正直どちらでもよかった。自暴自棄と言うのだろうか。婆のいないこの世界で俺は独りだと思っていたから。
どこか知らないところで隔離され監視されようと、貴族のもとで監視されようと特に変わりはないと思っていたのだ。
けれど日が経つにつれ、俺はここに、ルーウェン様の傍で役に立ちたいと思うようになった。
ルーウェン様は暫くして再び俺に聞いた。どうしたい?って。
監獄のような場所にいくか、それともここに残るのか。
多分俺はあの時、「美味しい飯が食えるならどこでも。」って言った。俺の口からは『ここにいたい』なんて言うことは出来なかった。
でもルーウェン様はすぐに「じゃあ、ここにいてくれるんだね。」って笑って言ったんだ。
「それに僕がいれば、きっとジャンの魔力暴走を止めてあげられるよ。」とも。
嬉しかった。『ここにいてくれるんだね』という言葉がどうしようもなく嬉しかった。俺がここにいてもいいと、心から言ってくれているみたいで。
だって、あんなふうに答えてしまったけど、本心は一緒にいたいって思っていたから。俺の目の前で魔力や魔術、魔術具について楽しそうに話すルーウェン様と一緒にいたいって。そして何より、また独りになりたくないって思ってしまったから。きっとルーウェン様についていけば、二度と暗闇に吸い込まれることはないだろうと感じたのだ。
けれど、正直に話すことはできなかった。
これは今でも俺の秘密だ。これからも話すつもりはない。
だけど、本当に心の底から感謝している。
そして俺はあの時、心の中でルーウェン様に忠誠を誓ったのだ。
俺は孤児だ。路地裏で育ち、育ててくれた人物を殺してしまった罪人でもある。それは覆しようのない事実だろう。
けれど、俺はダンウォール家に拾われた。正確にはルーウェン様に拾われた。
きっとあの雪の中で気づかれず放置されていたら、俺も死んでいただろう。もしルーウェン様以外の人に拾われていれば、今はもう生きながらにして死んでいた可能性もある。そう考えると、ルーウェン様は本当に命の恩人だ。
それに正確な誕生日がわからない俺に、同じ歳にしようと。誕生日も出会った日にしようと言ってくれたのもルーウェン様だ。
だから俺は、ルーウェン様にこの命を奉げようと思っている。
俺の一生をかけて。
勿論本人には言ってないけど。
とにかくルーウェン様に拾われたことは、俺が生きてきた中で一番の幸運だったに違いない。俺にこんな幸福なことが起きてもいいのだろうかと思うほどに。
もしかすると…婆が言っていた女神様のお導きってやつなのかとさえも思ったほどだった。




