誓3
誓約書に私とルーウェン様2人分の署名と血判が押された。
すると、いきなり誓約書が光りだした。
そして赤色と紫色の炎のようなものが誓約書を包んだ。けれどそれは全く熱くない。燃え広がることもなく、ただ誓約書だけをゆらゆらと包んでいる。そしてその誓約書は、端の方からゆっくりと金の粒子となって空気に溶けていった。今目の前には誓約書も炎のようなものも金の粒子も何もない。
それはなんとも不思議な体験だった。
先ほどまで触っていたツルンとした紙は消えてなくなってしまったのだ。
私は驚きすぎて声を出すこともできず、ただ目の前の光景を眺めているだけだった。
「これで誓約を終えた。」
その一言で私は我に返った。
そしてルーウェン様の方を見ると、まるで満足したかのような微笑みを浮かべていた。
うひょおぉぉ。
まさかそんな。ルーウェン様の微笑みが見れるなんて。
なんて…なんて神々しいのだろうか。
でも、これで本当に良かったんだろうかと一抹の不安が私の頭の片隅に過った。
けれど、ルーウェン様のフラグにヒビをいれるのならばこれでよかったはずだ。うん。そうだよね。うん…。きっと、そう…。
「知ってると思うけど、誓約を破れば罰則がある。」
「はい、知っております。」
確か…魔力が無くなるんだっけ?
それに誓約を違えた時はすぐにわかるという便利な機能付き。
「それならいいんだ。僕は誓約を違えるつもりはないが。」
「勿論、私もです。」
「そうか。」
そう言うと、目の前の神のような存在がまた微笑んだ。
とても一瞬だったけど。
けれど私はとても驚いた。
何故ならゲームの中ではこんなに笑う人物ではなかったはずだったから。一瞬とはいえ2回も…。
少しずつ変わってきているのだろうか?
かわってきているとしたら。
いい方向に…?悪い方向に…?
どうか。どうか、悪い方には変わっていませんように。
私は心の中でそうお祈りをした。
「さて、そろそろ侍女を入れてあげないと、ヤキモキしているのでは?」
そういえば忘れてた。メリーごめん。
「確かにそうですね。ついでに新しいお茶を入れて貰うよう申し付けてきます。少しお待ちください。」
「わかった。あ、それならそのブレスレット。少し確認させてくれないか?」
「ブレスレット…ですか?」
返せ…ということかな?
「ああ。ちょっと確認したいことがあるんだ。すぐに終わる。」
「ダンウォール様の物ですから…。」
私はそう言ってブレスレットを外しダンウォール様の手の上に置いた。
そして一旦部屋からでてメリーに新しいお茶を用意してもらうよう話した。
元の席に戻ると、すぐにルーウェン様はブレスレットを私に渡した。
私が不思議な顔をしていると、
「これは僕がソフィリア嬢に贈ったものだから君の物だよ。少し確認したいことがあっただけなんだ。ありがとう。」
そう言いながら私の左手をとり、ブレスレットを付け直してくれた。
一体何を確認したのだろう?わからない。
わからないけど、わかったことが1つ。このブレスレットは、私へのプレゼントだったらしい。ブローチの代わりに貸してもらったものではなく、贈られたもの…。
そう思うと、顔が熱くなってきた。
触ってられた手もなんだか熱い。
「そう言えば、エリーの誕生日会に参加するんだって?」
「あ、はい。恐れ多くも招待状を戴いたので。ユリウスと共に参加させていただこうかと。」
「ふむ、なるほど。ユリウス…か。」
なんだろう?ユリウスがなにかしたのだろうか?
いや、ユリウスに限ってルーウェン様に何か粗相をするなんてことはないだろう。
「殿下の時は街へ贈り物を買いに行っていたが、今回は行かないのか?」
「はい。それが、残念ながら我が家には護衛がいないので。それに以前護衛していただいて出かけた時に見かけたもので、ピンとくるものがあったので。今回は自ら行かずに買ってきてもらうことにしたんです。本当はまた街に出かけたかったんですけど、仕方ありません。」
「そうか。それは残念だな。」
ルーウェンの小さく呟かれた言葉はソフィリアには聞こえていなかった。
不思議そうに見つめてくるソフィリアから、ルーウェンは小さく咳払いをしたあと「そうだな。」と言って目を逸らした。
そして一気に紅茶を飲み干すと、「またエリーの誕生日会で。」と言って去っていったのだった。
まるで嵐のよう。
エリー様の誕生日会の前にもの凄いイベントが起きてしまったわ。
私にとっては。
それにしても。
やはりルーウェン様もエリー様の誕生日会に参加するようだ。
ああ、そうか。わざわざ2人で会わなくとも、パーティー等で会う機会があるじゃない。誰かの目があるところで会って、簡単に確認すればきっと相手の嫉妬から逃れられるはず…。たぶん。きっと。
それでも誓約の条件も満たされるはずだよね。
大丈夫…だよね?
一抹の不安を覚えながら、不思議な体験をして疲れていたソフィリアは夢の世界へと落ちていったのだった。




