誓2
『定期的に』という文言を『年に1回以上』という文言に変更することが決まると、ルーウェン様は誓約書に手を当てて、何かを呟き始めた。
すると、誓約書に書かれてある『定期的に』という文字が消え、あらたに『年に1回以上』という文字が浮かび上がってきた。インクで書いているわけでもなく、ただふわっと浮かび上がり、そこに定着した。
なんとも不思議な光景だった。
「じゃあここに名前を書いて。署名は普通のインクで大丈夫。それが終わったら魔力を…ああ、まだ魔力コントロールをきちんと習っていないんだっけ?」
「はい。私は魔力が少ないですから。」
私のように魔力が少ないものは生まれた時に魔力が暴走しないよう左手に魔力印というものが刻まれるらしい。だがその印は目に見えない。すぐに消えてしまうようだ。私は両親から話を聞いただけで実物を見たことはないけれど、魔法陣みたいなものかなと勝手に妄想している。
この魔力印は、少ない魔力量なら自動で魔力をコントロールしてくれるという優れモノだ。だが、その印が刻まれている間は自分の意思で魔力を扱うことができない。魔力を使うことができるようになるのは、その印が消えてかららしい。因みに魔力印を刻むのは殆どが親であり、その印を消すのも親の役割である。
因みにルーウェン様のように魔力量が多いものは、魔力印を刻むのは難しいらしい。特に親よりも魔力量が多い場合は、親は印を刻むことができない。その場合、2つの選択肢がある。1つはルーウェン様のように幼い頃から魔力コントロールを身につけるよう訓練をすること。そしてもう1つは、祭司に魔力印を刻んでもらうことだ。1つ目も2つ目もそれなりにお金が掛かる。
因みにルーウェン様は祭司でも印を刻むことができなかったようだけど。
おっと、話が逸れてしまった。
まぁそういう事情で私はまだ自分の意思では魔力を扱うことができない。
どうするのだろう?
「ふむ。それなら少し痛いけど、血判を押せば大丈夫だ。」
「血判…ですか?」
何それ、痛そう。それに、怖い。
だって自分で自分の指を切らないとだめなのよね?
「怖いなら僕がやってあげるよ。」
「…お願いします。」
青い顔をしていたのだろうか。ルーウェン様がそう言ってくれたので私は甘えることにした。
だって自分の手を切るなんて無理。
私は誓約書に書かれてあるルーウェン様の隣に名前を書いた。
そして人差し指をルーウェン様の方へ差し出す。
ルーウェン様はどこに忍ばせてあったのかわからない小さなナイフを取り出し、私の指先にあてた。
私は目を瞑り、痛みに供える。
身体に力が入ってしまうのは仕方ないだろう。
そして。
ヒヤッとした感触と同時に、ピリッとした小さな痛みが走った。
「終わったよ。」
という声でそろりと目を開けて指先を見ると、赤い血が小さく盛り上がっていた。思ったよりは痛くなかった…と思う。若干涙目なのは内緒だ。
私はその血を親指に押し当てて、誓約書に書いた自分の名前に被さるように印を押した。
終わった。
これで、フラグにヒビを入れることができたんだ。
本当にルーウェンルートのミッション完了かもしれない。
そう思い、感慨に耽っていると急に手を取られた。
私の手を取るのは、勿論目の前にいるルーウェン様しかいない。
あっけにとられていると、ルーウェン様は私の手先に付いている血を自らのハンカチで拭き始めた。
え?え?
「あ、あの!ハンカチが汚れてしまいます。」
私は慌てて手をルーウェン様の手から引き抜こうとするが、すぐに止められてしまった。
ルーウェン様はただ何も言わず、ハンカチが汚れることも気にせず、私の手先に付いている血を拭きとった後、美しい彼の手の上に私の手を乗せた。
そしてまた何かを呟いた。
何かを呟いた瞬間に私の手先は温かい何かと柔らかい光に包まれた。
そう、ルーウェン様は私に癒しの魔術を使って、ナイフで切った傷を消してしまったのだ。
凄い。
こんなことができるなんて。さすが王国一の魔術師になる人物だ。
「ありがとうございます。」
私はお礼を言うことしか出なかった。
ルーウェン様「いいや。」と一言言って、躊躇いもなく自分の指先をナイフで切った。そして私と同じように血判を誓約書に押したのだった。
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