誓
「遅くなり申し訳ない。」
そう言うルーウェン様の手元には1枚の用紙が置いてある。
そう、今私の目の前にはルーウェン様がいらっしゃるのだ。
黒いズボンに白いシャツ。ラフな服装でもこんだけかっこいいとは…ずるいよなぁ。
ああ…、眼福です。
で。
何故ルーウェン様がいるのかって?
それは、あの時約束した誓約をするためだ。その為に今、デンパール家へとご来訪している。
もう随分と前の話のように感じるのは、それまでにいろいろなことがあったからだろう。
私はメリーにお茶の準備をしてもらった後、ルーウェン様の侍従同様に客間の外で待機するように言った。やや不満顔なメリーに、「扉は少し開けといていいから」と言うと、それでも心配だというような瞳をこちらに向けた。
まぁ、私がルーウェン様に失礼なことをしないか心配なんだろうけど、さすがに今日は大丈夫。
折れない私を見たメリーは、軽く息を吐きながらかしこまりましたと言うように頭を下げ、漸く部屋の外へと歩いて行った。
さて。
「お待たせいたしました。」
「いや、かまわない。」
そう言って、ルーウェン様は私の目の前に持ってきていた用紙を差し出した。
私はその用紙を手に取る。
手に取ったそれは、とてもツルンとしており普通の紙とは違った質感だった。私がいた世界で言うプラスチックの下敷きのような…。弾くとびよーんと音がしそうだ。流石にそんなことはしないけれど。けれどこの世界にはプラスチックはないはずだ。それ故にとても不思議な用紙だった。
どうやらこれは誓約書。誓約を行う際に用いる専用の用紙らしい。
そしてそこには既に黒色のインクで内容が書かれていた。
「内容を確認してもらえるか?相違があればすぐに書き直すことができるから。」
「そうなんですか?わかりました。」
このインクは消すことができるってことなのかな?
まぁいいか。兎に角内容を確認してみましょう。
ー誓約ー
・ルーウェン・サン・ダンウォールは今後一切の禁忌魔術の使用を禁ずること
・ルーウェン・サン・ダンウォールは禁忌魔術に関する全てのことについてソフィリア・アル・デンパールに虚偽を申告することを禁ずること
・ソフィリア・アル・デンパールは禁忌魔術を使用しようとしてないかルーウェン・サン・ダンウォールを定期的に直接会うことで監視すること
ルーウェン・サン・ダンウォールとソフィリア・アル・デンパールは女神から与えられしその名と魔力に誓う
以上のことが書かれていた。
え、まって。
禁忌魔術の使用を禁止するのは良いとしても、定期的に直接会って監視って…?
「その、質問よろしいですか?」
「ああ、何でも。」
「私がダンウォール様を定期的に直接監視するよう書かれているのですが、その…。」
「ああ、誓約は一方的な条件ではできないんだ。お互いに何らかの条件が必要になる。あの時は、友人となり今後も私を見守るという条件だったと記憶しているからこのように書いたのだが…何か至らぬ点があるか?」
「これって一生ってことですよね?」
「そうだな。お互いに同意して破棄しない限り一生涯の誓約になるだろう。」
おお、一応破棄はできるんだ。
「ですが、これではダンウォール様が困りませんか…?」
「何故だ?」
「だって、私たちがこのようにお会いできるのはもうそんなに…その…回数が限られているのでは?」
「…というのは?」
!?
何だか一瞬ぞわっとしたというか、圧を感じた。
…気のせいかな?
「その…例えばの話ですが…。」
よく考えてほしい。
一生となれば困るのはダンウォール様だ。もし今後ヒロインと付き合うことになったら…。ヒロインと出会うのは約1年後。そうなればこのように会うことは難しくなるだろうし。それにもしヒロインと付き合わなくても別の婚約者ができたら。そうなっても勿論だが、今のように会うことはできないだろう。
ルーウェン様が必要だと感じていても、婚約者はそうではないはずだ。きっと、いや絶対いい顔をしない。それどころか嫉妬に狂って別の被害が出そうである。私みたいなのが周りでウロチョロしていたら余計に。
…うん。
そう考えると、やはり定期的に直接お会いして監視というのは辞めておいた方がいいはずだ。私も怖いし、将来絶対にルーウェン様に迷惑がかかるだろう。
「例えば、ダンウォール様に婚約者ができた場合、このようにお会いして確認するのは難しくなります。それに、それは婚約者の方に失礼でもありますし…。」
「…それだけ?」
「え!?」
それだけって…。すごく重要な理由では?
チラリとルーウェン様のお顔を拝見するが、無表情で読めない。だけどやや怒っている…?不満そう…?にも見える。けれど、何が不満なのか全くわからない。
「それだけなら問題ない。このまま誓約を進めよう。」
「え!?いえ、ちょっと待ってください。」
「なんだ?」
「え、そ、その…。やはり今後のことを考えると定期的に直接会って監視するのは…。定期的っていうのがすごく…曖昧というか。ほ、ほら。私も領地に帰る時期もありますし。デンパール家の領地はとても遠いのはご存じですよね?」
「ふむ、なるほど。」
ルーウェン様はなにやら少し考えた後、新たに提案してきた。
「では、定期的にという文言を年に1回以上とするのはどうだろうか?」
どうやら『直接会う』という文言は変えてくれなさそうだ。
それにしても年に1回直接会う…か。いったいどのようにして会うのだろう。
女の嫉妬と妬みほど怖いものはないからなぁ。
でもこの誓約は本人同士の同意があれば破棄ができると聞いた。
もしヒロイン以外の女性と婚約したら、それはその時破棄すればいいと思う。ヒロインとさえ結婚しなければ、きっと禁忌魔術を使うことはないだろうから。でもそれっていつの話になるのだろう…?
それに、もしヒロインと結婚すれば…。10年後の未来まで密かに会わなければならなくなるのでは…?ルーウェン様が禁忌魔術を使うのは2人が結婚して10年後だ。つまり、10年後に何も起きないことを確認して破棄することになるだろう。でもそうなると、やはりそれまで密かにルーウェン様と会うことになるんだよね。それはさすがに気が引ける。
うーーーん。
私が答えあぐねていると、どこかから『パキンッ』と何かが弾けるような壊れるような音が聞こえた。
一体何の音だろう?
周りを見渡すも何の変化もない。いつもの変わらない客間の風景だ。
廊下で誰かが何かを落としたのかもしれない。
「その…、直接会うと言うのは決定事項ですか?」
「会わずに確かめる方法をお持ちですか?」
そう言われると、そんな方法を持ってるわけがなく。
私は『定期的に』という文言を『年に1回以上』という文言に変更することに渋々であるが同意した。
もう知らない。ルーウェン様の婚約者に嫉妬され殺されたらもう仕方ない…。
そう諦めることにした。
ルーウェン様が死ぬよりはよっぽど国のため未来のため。そして私の為だろう。私はルーウェン様を生かす為に頑張っているのだから。
誤字報告ありがとうございます。とても助かります。
沢山間違っていたみたいで申し訳ありません。
今後ともお世話になると思いますが、よろしくお願い致します。




