↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国の美男子  作者: 空乃明
55/93

感謝

私は目の前の光景に目を瞠った。



目の前には今までみたこともない程に透き通った湖と青々とした木々がその湖の周りを囲っていた。御伽噺に出てきそうなほど美しいその湖の色は信じられないぐらいの彩度の碧で。風に揺れる木々の角度によっても、太陽の前を雲が横切るだけでもその色を変えている。まるで万華鏡だ。



「どう?いい場所でしょ?」

「はい。とても、とても美しいです。それ以上の言葉は出てこない…。もう少し湖の近くにいっても?」

「もちろん。でも、浅そうに見えて深いから気を付けてね。」



湖の淵に立ち、湖の底を見る。吸い込まれそうなほどの透明度に一瞬目がくらむ。


こんなに綺麗に底まで見えるなんて。


「透明度が凄いわ…。」

「ふふ。ここの湖はねディアクリマ湖といって、女神様の涙でできていると言われているんだよ。」

「女神様の涙…?」

「そう。最古の昔、世界を再生した女神が流した涙の一部だと言われているんだ。」



そんな話はゲームの中では聞いたことが無かったと思う。それとも忘れているのだろうか…?



太陽の光に照らされた湖面は角度や場所によって薄い青や濃い青、緑や金色に輝いている。それにしても不思議な湖である。女神が流した涙だなんて言われると、そんな気がしてきてしまう。



チラッと彼を見ると、人好きがしそうな笑顔でこちらを見ていた。その表情では、私を騙しているのかそうでないのかわからない。


でも、まぁ正直どちらでもいい。こんな綺麗な景色を見られるとは思ってもいなかったから。



景色を堪能していると、彼が軽く息を吐いたのが聞こえた。


「ここはね、僕の秘密の場所なんだ。一人になりたいときにはいつもここに来るんだよ。ここに来ると…心が安らぐ気がしてね。」

「ああ、わかる気がします。この景色に身を委ね、自然の営みの音や風から運ばれてくる香りを身に受けると浄化されている気が致しますから。」

「うん。だから今日ここに来たかったんだ。」


しーんとした空間が二人を包む。聞こえるのは風の囁きだけだ。



話を聞くに、つまり彼は今、心が荒れていたということだろうか。



「…聞かないの?」

「なにをですか?」

「何があったか。」


ああ、やっぱり心が荒れていたのね。


「うーん、そうですね。無理にお聞きする必要はないと思っています。(特に聞きたいわけでもないし。)ディスティーア様が話をしたい、聞いてほしいと思った時にお話しするのが一番だと思いますよ。」


といいつつも、私には何となく理由が想像できる。

彼の周りにはいつも令嬢たちが屯しているイメージしかない。つまりあの騒音の中心に常にいなければいけないということだ。そりゃ心も身体も疲れるだろう。イケメンも大変だな。



「そう…。」

ハルムート様は一言そう言った後、暫く黙って少し遠くを見ていた。その横顔は憂いがある上に湖面と同じように輝いていて、とても美しかったのである。



でも、一人きりになりたいときに来る場所であればなぜ私を連れてきたのであろうか。そんな大事な場所をわざわざなぜ私に教えたんだろうか?とても不思議である。

まぁ、道順はわからないから二度と来れないでしょうけれど。



それにしても。



「素敵な場所だわ…。」

目閉じて再び自然の音を堪能する。


湖面を吹き抜ける風の音、風に揺れてざわざわと葉っぱが揺れる音、小鳥が囀る声までもが美しく聞こえる。



暫くすると、いつの間にか移動していたらしいハルムート様の声が後ろから聞こえた。



は!と現実に戻った私は、周りを忘れて集中してことに少し恥ずかしくなった。が、ハルムート様が「こちらにどうぞ。」と、いつもの感じでいつの間にか用意してくれていた椅子へとエスコートしてくれるので、なんとか平静を装えたと思う。



椅子の前には小さなテーブルが用意されており、その上にはティーセットとクッキーやスコーン、クリームのたっぷりのったマフィン等が用意されていた。


おいしそうである。非常においしそうである。


出されたものは食べないとね?ちょうどお腹もすいてきていたところだったし。

チラッと見ると、彼はクスっと笑って「どうぞ。」と言うので遠慮なくいただいた。



綺麗な景色に目の前にはイケメン。そして美味しいお菓子とお茶。最高であり、最高だった。



それからまたゆっくりと景色と空気を堪能した後、馬車に乗り屋敷へと送りと届けてくれたわけだが。



「本日はありがとうございました。ディスティーア様のおかげで私も癒されました。」

と、感謝の意を込めて頭を下げた。

が、帰ってきた返事は想像と違っていて。



「いつまでそんなふうに呼ぶの?僕たちもうお友達でしょ?」

と。



え?友達だったの?


そして「次会ったときはちゃんと名前を呼んでね?」と、ウィンクと妖艶な笑みとそれに浮足立ったメイドを残して颯爽と帰っていったのだ。



…。



いつの間にお友達になったのだろうか?という疑問は置いておいて。

何というか…普通に楽しかったな。あんなに不安に思っていたのに、なんとも拍子抜けだ。



うん。今日一日とても楽しかったと思える日だった。お礼と言われたけど、むしろお礼を言いたのは私の方だと思う。何よりも人と会うことなく帰ってこられたのは良かった。でもこれで彼との繋がりはなくなったのだ。あんなに間近で拝見できることはもうないだろう。いや、友達になったらしいからまだ繋がりはあるのかな?



それにしても。

ああ、イケメンだったなぁと今日一日のことを振り返りながら眠りについたのは言うまでもない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。