馬車
馬車の中には二人きり。周りにはハルムート様の護衛が付いてはいるが。
チラリと彼を見る。
馬車の窓から入る陽光に照らされた水色の髪は透き通った湖のように透けて見え、彼の繊細さが窺がえる。長い睫毛に縁取られた垂れた目は、妖艶にも人懐っこくも魅せる。不思議だ。
やはりどこからどう見ようと男前である。見ていて飽きない。飽きるはずないのだ。肌もきめ細かく、きっと触り心地も良いのだろう。どうしたらあのような肌が手に入るのか。
整っている容姿につい見惚れていると、青と緑の混じった宝石のような瞳とかち合った。
「見惚れていたのかな?」
そう言いながらくすっと笑う。その笑顔は小悪魔的で。ずるいのである。
ええ、ええ。そうですよ。だって男前ですもの。言い訳すらするのが面倒くさくなるぐらいにはね。
「そうですよ。だってこんなに綺麗な人、近くで拝見する機会そうそうないですから。今のうちに見とかないと勿体ないでしょ?」
だからごまかしもせずそう答えた。
するとハルムート様は、目を瞠り声をだして笑い始めたのだ。
「ふは、あははは。そうなの?ふふ。女性に見られることはあっても、そんなふうに言われたのは初めてかも。ふふふふ。」
何がそんなに彼のどツボに入ったのかわからない。けれどよっぽどツボに入ったのだろうか。口に手を当てて思い出したかのように笑っている。
そしてその笑顔はいつもの妖艶な笑みではなく、年相応の笑顔に見えるのは私の願望のせいかもしれない。
あまり見すぎると心臓に悪いので、窓から外を見た。貴族街を過ぎ、平民街を過ぎ郊外へと出る門へと来たところだ。いったいどこへ行くのだろうか。
そんなことを考えていると、笑い終わったのか話しかけてきた。
「今日は急な誘いでごめんね。でもそうじゃないと、お礼させてくれないんじゃないかと思って。」
急であることは自覚していたらしい。
「お礼なんて必要ないとお伝えしましたのに。」
「そういうわけにはいかないよ。それに、ちょうど行きたいところがあったんだ。きっと君も気に入るんじゃないかなって思って。」
「そうですか…。」
「…そんなに迷惑だったかな…?」
う。その上目遣いでこちらをみないでほしい。年上で背も私よりだいぶ高いのに、その甘えた目で見られるとなんだか庇護欲をそそられるというか…。母性をくすぐられるというか…。
ああ、こうやって女性を落としてきたに違いない。
まぁ私にそれを使う必要はないけれども。
私は軽く息を吐いて、自分自身を落ちつかせる。
「勿論驚きました。ですが迷惑などとそのようなことは思っておりません(たぶん)。」
そう言うと、ニコリを笑顔を返してくれた。
迷惑かと言われたら…そうのような違うような…?正直わからない。ただ吃驚したのは事実だ。しかし、こんなイケメンを近くで見られるのはラッキーではある。繋がりがあれば今後ハルムート様のフラグにヒビを入れられるきっかけを見つけられるかもしれないし…。
だがしかし、だ。これを誰かに知られるのが怖い。特にハルムート様のファンの方々に!
どうかだれにも見られませんように。と私は必死に心の中でお祈りをした。
「そういえば、どちらへ向かっているのですか?」
「ふふ、それは秘密だよ。ついてからのお楽しみということで。」
左人差し指を口元にもっていってウィンクをする。
その姿に、私の目は爆発しそうになりました。どの角度から見てもカッコいいのはわかっているが、どの表情もイケメンなのである。
それからしばらく馬車に揺られながらも、変な空気になることもなく。
気を使ってくれているのか普通に話を振ってくれるので和やかに過ごすことができたと思う。
きっとこういうところもオモテになる要因なのだろう。
しばらくすると馬車の動きが止まった。
「着いたようだね。さぁ、降りようか。」というのと同時に馬車の扉が開く。先に彼が降り、さも当然のように手が差し出される。
こういうところだよなぁ。
ありがたくその麗しい御手を取り馬車から降りると同時に、私は思わず目を瞠った。そこには絵画のような景色が広がっていたのだ。




