王子の誕生日会
城の中に入ると、私たちはすぐにホールへと案内された。
誕生日プレゼントは案内してくれた使用人に渡しておく。個人へのプレゼントはすべて一旦回収されるらしい。変なものが混じっていると危ないから確認をしてから本人に渡すのだろう。
例えばナイフとか?変な魔法のかかったものとか?わからないけれど。一国の王子に何かあれば大変だもんね。
使用人によりホールへの扉が開かれる。
いくつもの大きなシャンデリアの光が一気に目に入ってきて大変眩しい。中にはすでにたくさんの人がいた。色とりどりのドレスに再度目がチカチカする。
どうやらビュッフェ形式のパーティーらしい。大人たちはお酒を飲みながら話をしているし、子供たちも仲良さげに話をしている。私は友達がいないし、あの輪の中に入っていこうとも思わない。なぜなら怖いからだ。そう、ただそれだけ。
それになにより、身体を動かしてお腹がすいた。白いテーブルクロスがかけられた長い机の上にはおいしそうなお肉料理やパイにキッシュに芸術とも思えるようなケーキが並んでいる。おいしそう…。
「ユリウス…!(姉さんはまずあそこにある香ばしい匂いのするチキンが食べたいの…!)」
と目で訴えてみる。
だが、そんな私の想いは届くはずもなく。
「姉さん。フェルナンド殿下に挨拶が先だよ。」
ユリウスは小さく溜息をつきながら私に言った。
ちぇ。わかってはいるけどさ。はぁ。お腹すいた。お腹を少しでも満たしてからご尊顔を見たかったな。だって挨拶をするのにもすごい列。この人数を対応している王子もすごいと思うけど。もちろん私たちは最後尾に近い順番だ。
因みに両親は私たちに順番待ちをさせ、他の貴族への挨拶へと向かっている。
並んでいる間、チラチラとこちらを見ているご令嬢たち。目線の先はまずユリウスだ。
私もチラリと隣のユリウスを見る。
ユリウスの服は、濃い青色の正装用の騎士服だ。今日はデンパール家の一員としての参加者であり、騎士の一人としても参加しているらしい。正直何が違うのかはわからないが、何かあったときは動かなければならないのだろう。
濃い青の騎士服は正直似合っている。むしろ似合いすぎている。
ちなみに騎士服には数種類の色があって、その色によって階級がわかれているとマリーちゃんから聞いた。実力主義の騎士の世界では、力が強い者から階級が高くなるらしい。赤が最高位、次に黒・青・茶色・緑・白…だったかな?赤はレオナール様のお父様しか着ることができない。その次の次に強いと示すユリウスの騎士服は、そのご尊顔と相俟って目立つ。
令嬢たちは扇子を片手に瞳を潤ませ頬を染め魅入っている。悩まし気な溜息が聞こえてくるようだ。
それからもれなく私の方へ視線が来る。
するとどうだろう。いきなりその瞳は侮蔑の色を含み、隠すことなく嘲笑する。わかりやすいことこの上ない。
ユリウスは彼女らの視線を庇うように位置取ってくれているが、360度からの視線を振り切れるわけもなく。私は溜息と共に、ユリウスに笑顔を向ける。
するとユリウスは気の毒そうな少し困った笑顔を返してくれた。可愛い。私のせいで困らせているのは重々承知だが、可愛い。
けど、この視線は私が私でなければ耐えられなかったと思う。前の私なら再び引籠り街道まっしぐらね。
さて長い列もだんだんと短くなってきた。近づいてくると顔も見えやすくなってくる。正直遠くからでもその存在感はすごいが、近づくと嫌でもわかる。あぁ、なんてイケメンなんだと。
私の視線なんて周りにかき消されているだろう。そう思い、これ見よがしにじっとフェルナンド殿下を見る。見れば見る程、王子のご尊顔は整っている。正直、はやくもっと近くで拝みたいものである。
それにしてもこの人数を一人で捌き、常に笑顔で対応しているのは本当に凄いと尊敬レベルである。一国の王子であるが故に、自分の不用意な一言で争いが起きることもあるのだ。気を使いすぎて胃が痛くなりそうである。勝手な想像ではあるが。
とりあえずまだ順番は回ってこない。暇なので、殿下のゲーム内の情報を思い出しておこう。
確か殿下は誰も信頼することができなくなるのだっけ。基本的にここに出てくる美男子は皆人間不信なのよね。きっかけはまぁそれぞれかもしれないけど。
たしか、殿下の場合は近しい者からの裏切りだったはず。
そういえば殿下の斜め後ろに付いている2人。1人はわかる。右隣にいるのはレオナール様だ。レオナール様は殿下の護衛としてついているのだろう。騎士服が黒いからか、整えてある鮮やかな赤色の髪がより綺麗に締まって見える気がする。
じっと見ていたのがバレたのか、目が合うと、ニコっと悪戯っ子のような笑顔を向けてくれた。後ろにいた令嬢が小さく「まぁ!」と頬を上気させてはしゃいでいる。
ああ、私に笑ってくれたのではなかったのかもしれない。そう思うと、ちょっと恥ずかしくなった。
まぁそれは置いておいて。
問題は左隣にいる男性だ。オールバックに整えた茶色い髪に茶色い瞳。少し額の辺りが広いように感じる男性。顔はこれといって特徴もなく、いたって普通である。無表情で何を考えているかわからないが、殿下が話しかけた時だけ笑顔で対応している。
確か幼い頃からの専属侍従に裏切られたとあったはず。もしかしたらこの方が殿下を裏切る方…?名前は何だったかなぁ…。思い出せない。
この方かどうかわからないので、とりあえず顔を覚えておこう。基本イケメン以外は意識して覚えないと記憶から無くなるのが早いのだ。仕方ないでしょう。
それから婚約者と不仲だということであるが、たしか殿下の婚約者はまだ正式には発表されていないはず。だが候補は数名いると聞いたことがある。エリー様もその一人だ。
エリー様は殿下に好意を抱いていそうだったから、婚約者になりたいだろうなぁ。でもこれからあのストーリーが起こると思うと、おすすめはできない。
ふと殿下を見る。そして目を瞠った。
何故なら殿下は一瞬遠いどこかを見て微笑んだ…気がしたのだ。どこを見ていたのだろうか、視線の先を見ても人が多くて何を見ていたのかわからない。でもその表情は、作り笑顔ではなく素の笑顔だと感じた。そう思った人は中にもいたはずだが、周りを見渡してみてもさっきと全く変わらない。
…本当に一瞬だったから、見間違えたのかもしれない。あのような愛しいものを見るような優しい微笑みはヒロインにしか見せないはずだ。今日のこのパーティーには、ヒロインは参加していないはずだし、まだ出会っていないだろう。
きっと見間違いだろう。ソフィリアはそう結論付けることにした。
お腹空が空きすぎてもう考えられない。
お腹の虫が暴れ出しそうだ。早くあの御馳走たちを食べ、その後にゆっくりとイケメン観察をしたいものである。




