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傾国の美男子  作者: 空乃明
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護衛

さて。

今日は街へ行く日だ。



楽しみすぎて昨日はなかなか寝付けなかった。だけど大丈夫。私には瓶底眼鏡があるからね。



ふわぁっと欠伸をしながら、メリーに支度を手伝ってもらう。

私の髪色は綺麗でなくとも目立つから、まとめて少しつばの広い帽子の中に隠さなければならない。かわいい象牙色のリボンのついた帽子だ。そのリボンの色に合わせたシンプルなワンピースには襟とウエストの部分に白いレースがあしらわれている。パーティーやお茶会に着ていくドレスと比べるとワンピースは本当に動きやすい。いつもこういうので良いのにと思ってしまう。


眼鏡をかけて鏡を見る。


いつものことだが、この眼鏡がなければもっと目立たないのに…と思ってしまう。軽い溜息と同時にメリーの声が聞こえた。


「お嬢様、護衛の方が玄関でお待ちです。」



溜息を散らすように、私はメリーと共に玄関ホールへと続く階段を降りていった。

そして目を瞠った。



すでに開かれていた玄関扉の先には私の願望か…願望が具現化したのか…?

私は幻を見ているのだろうか…?

そこにはキラキラと太陽に煌めく白銀の髪と、それに対比したように艶めく漆黒の髪が揺れていたのだ。そう、そこにはユリウスとルーウェン様が立っていた。


ユリウスは青色の騎士服に身を包み、ルーウェン様は黒に金糸の刺繍が施されてあるローブを羽織っている。か、かっこいい。



あまりのかっこよさに、私は玄関ホールの真ん中で立ち止まってしまっていた。



「姉さん。」


銀色の髪を靡かせて、尊いご尊顔が柔らかい微笑みを載せて近づいてくる。

聞こえた声は以前よりも低くなっていて。背も追い越されてしまった。

いや、まだそんなに変わりはしない。ということにしておこう。だが目線の位置が前とは違うことは明らかだった。たった半年なのにと言うべきなのか。それとも…。


数日前に遠くから見たのに、近くで見るとその成長をまじまじと感じてしまう。寂しいような、嬉しいような。



「おかえり、ユリウス。」

「ただいま、姉さん。」

「なんだか、大きくなったわね?」

「そうかな?まだまだですよ。」

そう言ってはにかんでみせる我が弟。かわいすぎか!それでいてイケメン度も上がっている。


「かっこよくなったわ。」と素直な感想を言うと、ぷいっと顔を逸らす。照れたところは変わってないようで、なんだか安心した。


「相変わらず仲いいね。」

ため息交じりのルーウェンの声が聞こえた。無表情だが声色は優しく感じる。



「ダンウォール様。お久しぶりですわ。」

「久しぶりだね、ソフィリア嬢。」

そう話すルーウェン様の柔らかい表情にドキドキと心臓が忙しい。

これはあまり直視するものではない。


「そ、それにしても二人そろってどうしたんですの?」

「やっぱり聞いてなかったんですね?今日の姉さんの護衛は僕たち2人なのですよ。」


はい!?

い、いやいや、ユリウスは騎士の訓練を受けているし身内だからあれだけど、ルーウェン様はいくら騎士の訓練を受けていると言っても公爵家の人間よ!?どちらかというと、護衛されるほうでしょう!どういうこと!?


困惑の表情で立ち尽くしていたのがわかったのか、ユリウスが「まぁまぁ。」と言って馬車にのせようとする。


ちょっと、軽く後ろから押さないで?


ユリウスの逞しくなっている腕に押されながら、流されるがままに馬車に乗ってしまった。

右横にはユリウスが、前にはルーウェン様が。私の頭の中はいまだに混乱の渦が轟轟と音を立てていたが、そんなことお構いなしに馬車は動き始めてしまった。



「それで?」

「はい?」

「どういうことか説明してもらっても?」

「ああ、護衛のことですか?ただのついでです。」

「ついで?」

「そうです。僕たちもちょうど街に用事があって。母さまからちょうど姉さんも行きたがっているっていうのを聞いたのです。それで、どうせなら一緒にって思って。」


ふむ。嘘をついているようにはみえないが、なんだか釈然としない。だって、だからといって4公爵家の人間が、私なんかの護衛をする?


私の言いたいことを察したのか、ユリウスがクスリと笑う。

「でも、だから街に出られたんですよ?」

と言われれば確かにそうだ。


理由は…まぁいっか。とにかく初めて街に出かけられるのだ。しかもユリウスが強いことを知ったし、ルーウェン様はさらに強いことをこの目で見ている。最強のそして最高の護衛かもしれない。

なんせ眼福である。感謝しなければ。


「そうね。感謝してるわ。今日はよろしくお願いします。」

と頭を下げておく。

「ふふ。姉さんはちゃんとお守りしますよ。」


まぁ!なんて可愛いことを言ってくれるのかしら…!

と、ソフィリアは心から感動していた。


そのため、「そのために強くなったんだから。」と小さく呟かれたユリウスの言葉は、ソフィリアの耳には入っていなかった。




しばらくすると、王都メインドの中心であるドラスレート通りにやってきた。ここには貴族御用達の飲食店や宝石店、服装職の店、雑貨などありとあらゆるものが揃っているとユリウスに聞いた。


ユリウスは何回も街に出かけたことがあるらしい。弟なのにずるい。


そんなことを考えながら、とある店でガラスケースに入っている品物を物色することになった。私の目の前のガラスケースの中にはとても綺麗なカフスボタンが並べられている。


なんてきれいなのだろう…。


中でも一際輝くカフスボタンがあった。そのカフスボタンには、様々な角度からカットされているアメジストが輝きを放っていた。


だが、この色はまずい。なぜなら紫は私の瞳の色でもあるのだ。異性の瞳の色の装飾品を身に着けるということはそれなりに好意を示すものでもある。そんなものをプレゼントするということは、告白しているのとほぼ同義となってしまうだろう。


だめだめ。いろいろ考えたが、身に着ける物は辞めておいたほうがいいだろう。すべてが高級品でできているはずの王子様にそれなりの品物が似合うはずもなく。それに何とも思ってない輩から身に着ける物を貰ってもねえ。


う――ん。


こっちにはクリスタルでできている可愛いウサギの置物がある。

う―――ん。可愛すぎる。と思いながら店内を見て回る。



なかなか決まらない。軽い溜息が後ろから聞こえた気がする。

ドキッとした。


プレゼント選びに夢中になっていたが、そういえばルーウェン様はずっと私の後ろをついてきてくれていたのだった。何て優柔不断な娘だと思われているだろうか。早く終わらせてほしいと思っているかもしれない。だってルーウェン様も用事があるのだものね…?

それにずっと護衛をしているのもしんどいだろう。しかも私みたいなのを。



「ダンウォール様。ずっとついてくださっているのは嬉しいのですが、その…ダンウォール様も何か大事な用事があるのでは…?」

「いや、私は大丈夫だ。」

え?と思っているとすぐに

「それよりもここになさそうなら別の所へ行くか?」と。


話題を逸らされた?もしかすると、私には話せないことなのかもしれない。

それなら仕方ないだろう。


「い、いえ。もう少しあちらを見てみようと思います。」

そう言うと、また黙って私の後ろで護衛をしてくれるようだ。




しばらく店内を見て回ると、ふとガラスケースの端に並べられている物を発見した。


ふむ。

これなら邪魔にならないし、品質もいいしちょうどいいのでは。


しばらく悩んだが、目の前にいる紳士的な白髪の店員さんがとてもいい品だと言っていたのでこれに決めることにした。

老紳士の店員さんはにっこりと笑って無駄のない動きで対応してくれた。



よし、ミッション完了である。

と振り向くと、そこにはユリウスがいた。いつのまにかルーウェン様と交代していたようだ。


「ユリウス、用事は終えたの?」

「はい。」

「ダンウォール様は?」

「少し席を外していますが、すぐ戻ってくると思いますよ。」

と噂をしていると、ルーウェン様が戻ってきた。

何故か左腰には剣が携えてある。



あれ?もともと持ってたっけ?ローブで見えなかっただけ?

私がじろじろ見ていたからか、ルーウェン様はさっとローブで剣を隠したように見えた。

あまり詮索はしないほうがいいだろう。

そう思い、何も聞かないことにした。



それにしても。もう帰らなければいけないのか…。

せっかく街に来たのになぁ。でも、2人を長く拘束することはできない。


「では…帰りましょうか…?」


時間はまだ早いけど…まだ帰りたくはないけども…。



きっと私の想いはバレバレだったのだろう。後で冷静に考えれば、とても恥ずかしくなったのだった。

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